第14話 決着

4:59 N市 セントラルビル 屋上

日が昇り始め赤光が照らす摩天楼の上。

二人の剣士は己が誇りを、譲れぬその魂さえもその刀に乗せぶつけ合う。


動いたのは陣内。

「早っ……!!」

「三日月ッッ!!」

繰り出される一閃は、殺意が放たれると同時に稲本に向けて繰り出された。

察知はできてもその軌跡は目で追えず。

稲本は予測からの防御のみが精一杯であった。

だが押されたままというわけでも無い。

「暁……っ!!」

「ぐっ……!!」

叩き込む一撃、それは確実な一撃とはならずとも徐々に徐々に陣内を追い詰める一手となっていた。


「ぁあ……!!」

傷口を押さえながらも構える稲本。

「僕はこの時を待っていたんだ……。8年前先生を、君のお父上をこの手で殺したあの日からずっとこの日をね……!!」

一気に斬りかかる陣内、受け流し反撃を差し込まんとする稲本。

放たれたカウンターさえも回避し、ゼロ距離の中陣内は稲本の胸ぐらを掴み地面に叩きつける。

「まだ……!!」

とっさにスタングレネードを生み出し陣内の視界と聴覚を奪う。

一瞬だけ生まれた隙、そこに蹴りを叩き込み、組付を外しそのまま構え直す。


自らも失った視覚と聴覚。本来ならば戻るまで無難に戦うのがセオリーだろう。

「ハァァッ!!」

だが二人は互いの姿を捉えている。

経験、殺気、ありとあらゆる感覚を研ぎ澄まし互いの姿をはっきりと確認し再度その刀を引き抜く。

「いい太刀筋だ…………!!」

寸分違いなく互いの急所めがけて放たれる一撃一撃。

「暁……っ!!」

陣内の心臓目掛け繰り出される一撃。

回避、ガードは不可能。

「十六夜ッッ!!!!」

ならば弾けばいい。

剣聖たるその男は咄嗟の判断から必殺の太刀を退けた。


ガラ空きになった胴体。陣内は既に刀を鞘に納めつぎの一撃を構えている。

「喰らえ……!!」

稲本も即座に刀身を鞘に納め、二之太刀を放った。

「前にも言ったはずだよ、月影を忘れちゃダメだと。」

「っ……フェイント――!!」

されどその抜刀で陣内を捕らえることはできず。


守りなきその体目掛け振り下ろされる一刀。

その刃はただ稲本の眼前で留まり斬る事能わず。

「っ…………!!」

とっさに左手で生み出した一振りの刀。

「読んで……いや反応した――!?」

「はぁぁぁぁっ!!!!」

威力の低い月影であったがゆえにただの刀でも僅か数秒持ち堪え、その間に稲本の月輪刀が陣内の月輪刀を弾いたのだ。

瞬間、稲本目掛け繰り出されたソバット。

稲本の体躯は宙を舞い、その足が地を擦り、堪え切った彼は再度地を弾いた。



視界が戻る。恐らくそれは先生も同じはず。

「このまま……!!」

スタンナイフを投擲し再度視界を奪いにかかる。

「同じでは何度も食わないさ……!!」

だがそれよりも早く先生は接近し、彼の背後で閃光は瞬く。

「五之太刀――」

防御不可の一撃を構える師。

放たれればその速さに叶うことは出来ぬだろう。

だが、その前ならば――

「四之太刀――」

「っ……!!」

瞬間的にその太刀を弾く。

隙が生まれる。

そこに一撃叩き込まんと再度刀を鞘へと納めた。

「三日月ッッッ!!!!」

一気に振り抜くこの一撃。

捉えた、そう思えた。


されどその一刀は捉えきれず。

「浅い……!!」

弾いたはずのその一刀でその人は己が太刀を一気に弾き飛ばしたのだ。



「っ……はぁ……はぁ……」

「疲れてきたね、作一……」

息が上がる。四肢が痛い。肺も破れ、四肢も引きちぎられた、そう思えるような苦しみがこの体を包み込む。

"零の極致"に辿り着き僅か2分。未だ雑念などなく、ただ守る為だけにこの体は有る。

だがそれももう限界が近づいている。

これ以上は命が保たない、そう本能が告げている。

それでもまだ両腕はある。

この両目が先生と彼の殺気を視界に捉えている。

この心が、右手に握られた刀がまだ戦えとそう告げている。

ならば戦うのみ。最後の最後まで、この命が尽きるその瞬間まで。



「次で、終わりにするとしようか………」

「……ええ。」

構える。音もなく地を蹴る。

全ての戦いに、8年の因縁に終止符を打つ為に今一度この刀に手を掛ける。

「月下天心流 六之太刀改――――」

その人が繰り出すは極みの域まで辿り着いた六之太刀の完成形。

今までの太刀では、教わった技ではあと一歩及ばなかった。

ならば超えるしかない。

師の繰り出す最強の連撃を、究極の一を以ってして。

「月下天心流――――」

たった一つの思いを乗せた、この一刀に全てを懸けて――――

「終之太刀――――!!!!」



一歩踏み出す。

間合いの中に捉える。

水面に二つの水滴が落ちる。

決して揺らぐことはなく、されど波紋は広がり、そして、

「朧月――――」

「月下明光斬ッッッ――――!!!!」

互いの波紋が重なったその瞬間、二つの漆黒の刃が瞬時に交わり合い、甲高い音が空高く響いた――――


―――――――――――――――――――――

稲本作一には全てが見えていた。

音速とも言える太刀の動き。

そして仇敵の最強の技における唯一の弱点。


三度目であるが故に、その太刀の一つ一つの剣筋がはっきりとその目に焼き付いていた。


故に繰り出すはただ一瞬。

16連撃のその1撃目。

今、二つの月下の太刀が静かにぶつかり合った。

―――――――――――――――――――――


勝負は一瞬だった。

無限に時が止まった気がした。

一本の黒き刀の破片は宙を舞い、赤光に照らされ黒き雪を撒き散らす。

もう一本の黒き刀は傷一つつかず、されどその刀身は宙を待っていた。

「っ……!!!!」

「今のは……終之太刀……!!!!」

折れた月輪刀を握る稲本、月輪刀を失った陣内。


だが二人は止まることなく最後の一手に向けて動き出した。

陣内は脇差を抜き稲本に襲いかかる。

それよりも早く稲本は一気に飛び上がる。

折れた月輪刀を手放し、宙を待った月輪刀を手にし着地する。

「終わりだ作一……!!!!」

脇差を振り上げる陣内。

「月下天心流 五之太刀――――」

構える。己が必殺の突きを。

「っ…………!!!!」

「暁――――ッ!!!!!」

目にも留まらぬ速さで、一気にその刃を突き出した。



鮮血が舞う。

振り上げられた脇差が降りることは叶わず。

黒き一刀は、青年の心臓を貫いていた。

赤光照らす空の下。

朝日に照らされたその青年は、

「強くなったね……作一……」

ただ、ただ嬉しそうに笑っていた。


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