7話:応用どころか魔改造

「あ……?」


 店を出た瞬間、思わず呟いてしまう。

 伊波が男3人組に話しかけられていたから。

 大学生くらいだろうか? 伊波と然程さほど年齢は変わらないように見える。


「お姉さん1人? 今から遊ぼうよ」とか、「カラオケで一緒に盛り上がろ!」とか、「クラブでもバーでもいいからさ」とか。

 ナンパなう。若気の至りここにありけり。


 間に入るべきか否かで言えば、入るべきなのだろう。

 けれど、


「……」


 割って入るのを躊躇ためらってしまう。「俺が本当に首を突っ込んでいいのか?」と無駄に悩んでしまう。

 多少のチャラさは目立つものの、伊波を無理矢理連れ去ろうとしているわけではない。

 3人の誘いに耳を傾ける伊波だって、恐怖を感じているような表情にも見えない。

 それどころか、喜んでいるようにさえ思えた。


 勘違いではなかった。

 伊波の表情が、えくぼができるくらい満面の笑顔になる。

 そして、男3人組に愛嬌たっぷりに言うのだ。



「ごめんなさいっ。私、これから大好きな先輩とホテルに行くので、貴方たちとは遊びに行きません♪」



「は!?」「「「え……」」」


 俺含め、一同絶句。

 この野郎……。俺が授けた魔法の言葉を早速に使いやがった……。

 しかも、応用どころか魔改造……!

「えへへ♪ 言っちゃった」みたいにハニかんでじゃねー。


「あっ。マサト先輩、遅~~~い!」


 俺の存在に気付いた伊波が小走りでやって来る。

 さらには、勢いそのままに飛びついてくるではないか。


「い、伊波!?」

「マサト先輩が遅いせいで、ナンパされちゃってました」


 さも恋人のように、見せつけるかのように。大胆に肌をり寄せてくる伊波の体温や柔らかさが、これでもかと伝わってくる。

 刺激的なラブアピールを目の当たりにしてしまえば、3人組も事実を受け入れるしか選択肢はない。トボトボと夜の街へ消えて行ってしまう。


 兎にも角にも一件落着。

 とはいかず。


「それでは行きましょう、マサト先輩っ♪」


 一難去ってまた一難。二の腕に高密着したままの伊波が、駅とは別方向、ホテルがい目指して歩き出そうとする。

 足ではなく、口を動かしてしまう。


「なぁ、伊波」

「はいです?」

「……何でさ、そこまで俺とホテルに行きたいんだ?」


 自分でも情けないと思う。当事者の俺がそう思うのだから、客観的に見たらどれだけ酷い質問なのか分かったもんじゃない。

 それでも、伊波は真剣に答えてくれる。


「先輩が好きだからに決まってるじゃないですか」


 心臓の鼓動が騒がしくなってしまう。

 夜街の僅かな光たちが、キラキラと伊波を照らしているかのように錯覚させるほど。それどころか、伊波という存在が夜を照らしているとさえ思えた。


 酔っているからとか、冗談やイタズラで言っているわけではなく。本当に自分に恋をしてくれているのだと気付かされる。

 違う。気付いていたのに俺は逃げていたんだ。 

 伊波は続ける。


「社会人生活の長い先輩にとっては、私を教育する3ヵ月はあっという間だったかもしれません。けどです。大学を卒業したての私にとっては、先輩と過ごした3か月間はとても大切な日々だったんです」


 一度火がともった伊波は止まらない。手繰り寄せるかのように、さらに俺との距離を詰めてくる。ここぞとばかりに止めどない感情をぶちまけてくる。


「単純すぎって笑われちゃうかもしれません。けど仕方ないじゃないですか! 好きになっちゃったんだもん!」


 伊波の顔が赤いのは、酒が入っているから? 告白が恥ずかしいから? 

 一番はヒートアップしているからだろう。


「お、おい。少し落ち着けって」

「落ち着いていられた日なんてありません! 毎日分からないところを教えてくれたり! 苦手な上司や取引相手から私を守ってくれたり! 何気ない雑談もお酒飲みながら聞いてくれたり! 先輩と一緒にいるとドキドキしちゃうんだもん!」

「いや、そういう意味じゃなくて――、」

「酔った勢いでホテルに誘ってるわけじゃありません! 誰とでもエッチしたいわけじゃありません! マサト先輩としたいんだもん! 先輩が大好きなんだもん!」

「と、とにかく! 一旦落ち着――、」


 一旦落ち着けと言おうとした。

 けど、言葉を遮られてしまう。


 伊波の唇によって。






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明日で短編はラストです。

「新卒OLちゃんの結末が気になる」という読者さんは、ブックマーク&評価よろしくどうぞ^^



【謝辞および、長編化のご報告】

いつも『構って新卒ちゃん』を読んでいただき、ありがとうございます。

正直言いますと、ここまで多くの方に読んでもらえるとは思ってもいませんでした……!

ですので、シンプルに凄い嬉しいです!


つきましては、『構って新卒ちゃん』の連載版(長編)を執筆していこうと思います!

短編を読んできた方も、連載版から入った方も楽しめるような作品を作っていければと^^

できるだけ早く、投稿開始できるよう頑張っていきます!


兎にも角にも、明日で短編は最終回ですので、楽しんでいただければと思います。

それではー。

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