8話:後輩として、異性として

「!!!???」


 一瞬何が起きたのか分からなかった。いきなり顔を近づけてきた伊波が、いきなり唇を押し付けてきたから。


「あふぁsヴぁcs~~~!?」「んっ……」


 小さい身体を目一杯背伸びして、絶対離すものかと腰にまで手を伸ばしてくる。呼吸する時間さえ惜しいと、柔らかい唇や短い舌先をひたすらに動かし続けてくる。なまめかしい吐息が、耳から全身を支配してくる。

 これが自分にできる最大の愛情表現だと証明するかのように。


 唇が離れれば、互いに息を乱し合ってしまう。見つめ合ってしまう。

 ジッと見つめてくる潤んだ瞳、小ぶりな唇、上下させる華奢な肩、少しはだけた襟元。伊波の何もかもが、したたるほどに女らしさを醸し出している。


「……本気、伝わりましたか?」

「伝わりすぎだよ、バカヤロウ……」

「これくらいしないと、にぶちんな先輩には伝わらないんだもん」


 的確すぎるダメ押し発言に、「ぐっ……」と思わず声も出る。一体全体、どこでそんな荒業あらわざを覚えてきたというのか。

 とはいえ、攻め過ぎた行為なのは自覚しているようだ。伊波の表情は何時いつになくしおらしい。控えめさも相まって奥ゆかしささえ感じさせるほどで、これくらい大人しいほうが今以上に人気が出るのかもしれない。


 けどだ。いつもの愛嬌たっぷり、元気一杯な姿こそ、やはり伊波には相応しい。

 俺自身もまた、いつもの天真爛漫な伊波であってほしい。


 調子を狂わされたらからか。はたまた、いつも通りに戻ってほしいからか。


「その……、なんだ。今日は泊まって帰るか?」

「えっ」


 どれだけ俺の発言が衝撃的なのだろうか。

 あれほど大胆な発言や行動をしていたはずの伊波が、目を見開いて固まってしまう。


「先輩……。それって……」

「お、おう……。終電も無くなったし、選択肢としては悪くないだろ」


 伊波が時計を確認する。


「まだ走れば、終電に間に合いますよ?」

「っ! お、お前……。俺の遠回しな誘いをブチ壊すんじゃねえ……」


 ズルい。ズルすぎる。最初に誘ったのは伊波のくせに。そんないきなり俺が誘ったみたいな反応しなくてもいいじゃないか。

 というかするな。小っ恥ずかしくて死にそうだから。

 もう誤魔化すのも馬鹿らしい。

 というか、恥ずかしすぎて誤魔化しきれない。


「~~~~っ! 俺が悪かったよ!」

「?」

「ずっと言い聞かせてたんだ!」

「言い聞かせ、ですか……?」

「そうだよ! 俺は上司で伊波は後輩! それ以上の関係は持っちゃダメなんだって!」


 キョトンとする伊波に続ける。


「スキンシップが多いのは俺をからかってるだけとか! 毎回飲みに誘ってくるのは酒が好きなだけだとか! 全部都合の良いほうに持って行こうとしてたんだ!」

「! な、何でですか? 都合の良いほうなら、むしろ私の好意を受け入れてくれても……」

「仕方ないだろ! お前みたいな可愛い奴に、言い寄られた経験ないんだから!」

「へっ!?」


 可愛いなんて言われ慣れてるくせに。そもそも、「後輩の私、可愛いですか?」と毎回からかってくるくせに。

 にも拘らず、初めて言われましたみたいな反応するんじゃねー。

 真新しい一面を魅せてくる伊波だが、点と点が繋がったからだろうか?


「??? 伊波?」

「…………ふふっ! あはははははっ♪」


 キョトン顔一変、伊波大爆笑。


「先輩の顔真っ赤!」

「だ、誰のせいだ! てか、お前も大概、真っ赤――、ぐおっ……!」


 反論などさせまいと、力いっぱい抱き締められてしまう。

 怒っていた感情など簡単に吹き飛ぶ。それどころか、いつもの愛嬌たっぷりな伊波を見てしまえば、こっちまで嬉しさが込み上げてくる。

 死んでも顔には出さんけど。


「ああ……。私、今すっごく幸せだなぁ♪」

「……。日本酒飲んでるときみたいな感想だな」

「いえいえ。どんなお酒も、マサト先輩の前では水に等しいです♪」


「なら毎回酔ってんじゃねー」ってツッコむのは野暮なんだろうな。


「言っとくけど、一夜限りの関係を望んで誘ってるわけじゃないからな?」

「勿論ですっ。マサト先輩がそんな冷たい人だなんて思うわけないじゃないですか」

「……。わ、分かってくれてたら、それでいいんだ」

「はい♪」


 これこそ、野暮な質問だったみたいだな。


「それにです」

「ん? それに?」


 イタズラたっぷりな笑顔の伊波が、俺の耳元で囁く。


「私、一夜限りで満足するような女じゃないですよ?」

「!!! お、おまっ……!」

「あはははっ! また先輩照れてる~♪」

「~~~っ! この小悪魔野郎っ……!」


 イタズラ大成功と、またしても伊波大爆笑。

 未だに慣れない俺に問題アリなのかもしれんが、こんな爆弾発言、男なら誰でも反応するに決まってる。

 全くをもってコイツには叶わない。

 俺はとんでもない後輩、いいや。とんでもない女に好かれたのかもしれない。

 けれど、後悔などするわけがない。

 俺もまた、伊波が好きだから。


「マサトさん。公私共々、これからもご指導ご鞭撻べんたつのほど、よろしくお願いしますね?」

「! お、おう……」

「あれれ? もしかして、やらしいご指導とご鞭撻のこと考えてます?」

「はぁ!? か、考えとらんわ!」

「先輩のためなら、私、どんな歪んだ愛情表現も――、」

「~~~っ! 朝まで説教したろか!」

「や~~~ん♪」


 朝まで説教したか、朝までお楽しみしたのかは、ご想像の通りである。






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【謝辞】

これにて、短編は完結です!


渚とマサト、ホテルにゴールインEND。

文字に起こしたら、凄いインパクトですね(笑)


本当に多くのZ戦士さんたちに読んでいただき、感謝でいっぱいです。

前話でも触れましたが、連載版(長編)開始に向けて頑張っていこうと思います!



【連載版につきまして】

今現在、別作品の書籍化に向けての作業も進めていますので、上手く折り合いをつけつつ、『構って新卒ちゃん』の連載版の準備をしていきます。


ただ短編をのっぺり広げるのではなく、長編として魅力的な作品をお届けできればと^^


連載を開始するタイミングなどは未定ですので、活動報告やtwitterなどで発表させていただきますね。

この短編も連載版を投稿するまでは、『完結済み』ではなく『連載中』のままにしておこうかと思います。


それでは、連載版『構って新卒ちゃん』でお会いしましょう!

お楽しみにー。



▼その他、作品リストはコチラから

https://kakuyomu.jp/users/nagikieco/works

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