メトロで行く
@blanetnoir
メトロの中。
乗り換え駅が近づいているか、現在地を確認するタイミングは人それぞれだけど、
無意識に、誰もが自分の行き先を確認している。
電車の揺れる音、速度の変化、窓の外の情報量が一気に増して、駅名が流れるように一瞬だけ目の端に映り込む。
「あ、俺の降りる駅、ここだわ。」
隣にいた男は、さっきまで来週のサークルの予定の話をして盛り上がっていたのに、不意打ちで右手を上げて、話をさえぎった。
「あ、、そうなの?」
窓の外を見た素振りなんて少しもなかったのに、さっきまでの時間が瞬間に消えて、タイミングよく開いたドアの外へと身体を翻した。
開く扉の位置までしっかりと把握していた友人は、降りたホームからこちらを振り返って、もう一度手を振ってきた。
彼が話をさえぎってから降りるまでの間、時間にしたら5秒も経たないくらいだろうか。
5秒前までは、気にもせず、行先は彼も同じだと思い込んでいたのに。
同じように、大学のキャンパスにでも向かうのかと。
瞬間で置いてけぼりにされたように、
ひとり取り残されたような気持ちで、
たまらなく不安になって。
(まだ、この電車に乗ってていいんだっけ?)
(ていうか、今からどこ行くんだっけ?)
(あいつは、どこ行くんだ?)
(そもそも、そもそもだけど、)
あいつと何処で一緒になって、
この電車に乗って、
行動を共にしてたのか、
それを当たり前のような気持ちで、
お互いの行き先を確認しなかったのか。
彼の背中は改札階へ上がるエスカレーターの列の波に紛れて消えてしまった。
野球部だったか、部活頑張ってた高校時代に鍛えたあいつの、めちゃくちゃモテてた男らしいスタイルの良さが眩しかったけど、
今こうして制服の時代を卒業して、
流行りの今っぽい服身につけて、
メトロの景色に混ざり込めば、
あんなに眩しくて目立ってると思ってた親友の姿も、簡単に見失えるんだと、知った。
「なー、お前また宿題やってねーだろ!」
背後からの大声に不意をつかれて、声の方をみれば、
母校の制服を着た男子高校生のグループが、電車の中とは思えないテンションで友達と話していた。
彼らは、友達との話に夢中なまま、
学校前の駅に着けば揃って電車を降りて、同じ通学路を歩いていくだろう。
お前はどこに行くの、なんて確認するまでもなく。
電車のドアが閉まり、
次の駅に向かって、再び車体は走り始める。
(えーっと、、今出たのは何駅だっけ?)
あいつが降りたことに気を取られすぎて、
あいつが何処で降りたか確認することも出来ないまま、
次の駅名のアナウンスを聞いて、
(…ここではなかった、はず)
モニターに表示されるはずの路線図を待って、行き先をもう一度確認するしかないと思った。
メトロで行く @blanetnoir
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