第3話 結月の願い
今度は腕を掴まれる前に、ついて行った。あれ、地味に痛いんだよね。
案内された部屋は、本当に何年も使われてないようで、埃やクモの巣があちこちにある。この神様は、こんな部屋に泊まれと言うんだろうか。なんて考えていると、蛍様が指をパチンと鳴らした。
「す、すごい。綺麗になった」
一瞬にして、旅館の一室のような部屋になった。こんな部屋に泊まらせてもらえるんだ。
「ま、こんなもんか。隣に入浴場を作っておくから、使いたければ使え」
「ありがとうございます」
正直、ここまでしてもらえるなんて思ってなかった。ぼうっとしていると、蛍様が座るよう言った。多分、私の願いについて聞いてくれるんだろう。
「まず言っておく。俺は言葉を選ぶのが苦手だ。お前…結月の気に
「分かりました」
苦手だという自覚はあったんだと、かなり失礼なことを考えつつ答えた。
「じゃ、教えてくれ。結月は、誰と縁を切りたいんだ? 」
緊張を覚えつつ、彼の赤い瞳をまっすぐ見る。
「僕、高校に行ってるんです。あ、高校1年生です。そこで、いじめに遭っていて……そのいじめのリーダーと縁を切りたいです」
「なるほどな」
そう言って、蛍様は考え込んでしまった。もっと、馬鹿にされたりするかと思った。私が思っている以上に、彼は良い神様なのかもしれない。
「少し難しいというか面倒だが、できなくはないぞ」
「面倒、ですか」
「いや、お前の願いが面倒ってわけじゃねぇ。学校ってのが面倒なんだ」
首を傾げる私に、蛍様は言った。
「リーダーと縁を切れば、そいつは転校するだろう。それで、お前は学校に行けるようになるのか? 」
「……多分、無理です。すみません」
「何でお前が謝るんだ。結月は何も悪くねぇだろ」
そう言われた途端、我慢できずに泣いてしまった。そんな言葉をかけてもらえるなんて、思わなかった。ずっと、ずっと、私が悪いって言われてきたから。突然泣き出した私に、彼は慌てて言った。
「お、おい。どうした? 俺、何か余計なこと言ったか? 」
「違います。嬉しいんです。……何も、悪くないって、言ってもらえて」
「……そうかよ。なぁ、お前が転校することはできねぇの? 」
「僕も言ったんですが、母が許してくれなくて…できないんです」
「結月は大変だな。……ずっと頑張ってきたんだな。続きは明日にするぞ。今日は、もう寝ろ」
もう、声も出せなくて、首を縦に振った。柊さんが用意してくれた布団の中で、ずっと泣いていた。今まで溜めていたものを、吐き出すように。気持ちが落ち着くまで、ずっと泣いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます