第2話 『コンレイ』と呼んで

 朝、わたしは登校すると、机に北斗七星が描かれていた。斬新な嫌がらせだな……と、関心するのであった。しかし、目立つので、当たり前だが消す事にした。消しゴムを取り出して、必死になって消していると。陸華が寄ってくる。


「コンレイ、何しているの?」

「北斗七星を消しているの、斬新でしょ」

「また、嫌がらせか?」

「そんなところよ」


 わたしの答えに陸華は腕を組んで考え込む。漠然とした事実に多分、本人よりも周りが困るのであろう。今の時代は嫌がらせもリスクを伴う。犯人が複数でも内申などが最悪になるからだ。


 わたしは北斗七星を消し終わると。担任に報告する。黙っているとわたしが悪い事になりかねないからだ。担任は事務的にスクールカウンセラー宛ての物を書き始める。

 

 最近の教師は色々勉強しているらしいが頼りない。わたしが一通りの事を終えると陸華が頭をポンポンとする。甘えていい合図らしいのだが一呼吸置くとわたしは陸華から離れる。


「対等ならここでわたしのして欲しいのはデートよ」


 学内でイチャイチャするのは問題だ。しかも、頭をポンポンなどいつの時代の愛情表現だ。


 中学の時に『コンレイ』と呼ばれた記憶がよみがえる。あの頃はそれなりに楽しかった。


 考え込んでいた陸華は「Wバーガーにでも行くか?」と言い出す。


 ふう~普通に嬉しい。そこで今日はショーホームルームの終わりに黒板に走り書きをする。


『わたしの事を『コンレイ』と呼んで』であった。


 ざわつく教室に誰かが拍手を始める。やがて、クラス全体が一つになりかっさいに発展する。今日は何かの変化の始まりでした。


 ショーホームルームで『コンレイ』と宣伝してから。わたしは今野麗子から『コンレイ』になっていた。


「『コンレイ』さん、わたしのお気に入りのシンガーソングライターのYouTube見る?」

「うん、見る」


 クラスの女子が近づいてきて話しかけられる。おや、普通の会話だ。

今までに無かった現象である。しかし、冷たい目線は三人程感じる。わたしが席を外していた数分で机の上に釘がばらまかれていた。これは困った、釘をゴミ箱に捨てるわけにもいかず何処に捨てろと言うのだ。わたしが首を傾げて困っていると。


「『コンレイ』さん、手伝うよ、この袋に釘を入れて」


 二人で小袋に釘入れるとゴミセンターに鉄ゴミの場所がある事を教えてもらい、そこに捨てることにした。わたしが駐輪場の近くのゴミセンターに向かうと、陸華が話しかけてくる。


「俺、コンレイの事が好きだ。今度のデート楽しみにしている」


 わ、わたし……。わたしが言葉をつまらせていると……。


「陸華、何してるの?」


 クラスで一番のギャルである『松本 なおみ』が陸華に後ろから抱きつく。け、けばい……。苦手のタイプだ。


 わたしは二人を置いて教室に戻る。やっぱり、わたしと陸華じゃあ不釣合いなのかな……。


 凄く、胸が苦しい。陸華への想いと。きっとこの気持ちは……。


 わたしは制御できない気持ちに落ち込むしかなかった。


 すると、陸華が教室に戻ってきた。不機嫌そうに席に着く。わたしは何も出来ない。


 授業が始まるが先生の話はすり抜けていた。

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