第6話 火野彰②

「ごめんなさい。私のせいで危険な目に合わせてしまって」


 家に着きひと段落したところで大和は真剣な面持ちで謝ってきた。


 俺たちはつい先ほど火野に襲われて、必死に逃げ帰ってきたばかりだった。俺は水を操る異能力者なので、炎を操る火野に対しては相性が良い。そのおかげか火野は俺が異能力を見せたあとは追いかけてこなかった。きっと俺と戦っても相性の悪さから苦戦すると判断したのだろう。


 俺はあまり人と戦うのが好きではないので、火野が思ったよりも早く諦めてくれて助かった。


 俺は大和に優しく微笑みかける。


「気にしなくていいよ。お互い無事だったんだし」


「ありがとう。でもまさかハルがあんなに強い能力者だなんて知らなかった。驚いたよ」


 大和は小さな手をぶんぶん振り回しながら言った。


 当然の反応だ。俺は大和に自分の異能力について一回も話したことなかったのだ。別に隠していたつもりはないのだが、ただ話す機会がなかったというだけだ。


 まあ、もし普通に話していたとしても純A級能力者という時点で驚いていただろうが。純A,純Sは本当に愛神国内で珍しいのだ。


 いつかは大和に自分の異能力について話す日が来るだろうとは思っていたが、まさか実際に目の前で使うことになるとは思ってもみなかった。


 しかし、これからどうしたものか。やはり大和を外出させるのはやめた方がいいのだろうか。だがそれだと大和が可哀そうだし、大和が研究施設を抜け出した意味がなくなってしまう。


 そこで、俺はふと思いついた考えをそのまま口に出した。


「なあ大和、異能力研究会をぶっ潰すってのはどうなんだ? そしたら大和は自由に外を出歩けるだろ」


「そんな風に考えてくれるのは嬉しいけど、無理だと思う。異能力研究会は国内のいろんなところに研究施設を持っている超大規模な施設なの。今日会った火野みたいなランクA級異能力者がほかにもたくさんいても不思議じゃない」


 大和は残念そうに下を向いた。


 なるほどなあ、やはり無理か。さすがに適当なことを言い過ぎた。


 異能力研究会はその名の通り異能力のことを研究している施設である。そしてその研究結果を発表しては国内で誉めたてられ、国から莫大な研究資金をもらっている。その資金で異能力研究会は更に規模を増大し、現在では愛神国にたくさんの研究施設を持っているのだった。


「当分はおとなしく家に引きこもっているよ。ただでさえ居候させてもらっている身なのにこれ以上迷惑かけれないしね」


 大和はそう言ってベッドで横になった。


 やはり大和を自由の身にする方法はないのか。こんな小さな子が自由に外も歩けないような現実があってもいいのだろうか。しかし、いくら考えたところで高校二年生の俺にできることなどほとんどない。


 そのあと俺はソファーで横になりながら、何かいい策はないかずっと考えていた。


 しかし、結局まともな策は何も思い浮かばず気付けば朝になっていたのだった。

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