第4話 平和な日②
俺と大和は隣町にある大型ショッピングモールの目の前に立っていた。
今日の俺の目的は悲しい過去を背負っている大和に様々な楽しい体験をさせてあげたいというのもあるのだが、いちばんの目的は大和の服を買うことだった。大和は俺が貸したジャージを着ているのだが、サイズが全くあっていない。裾は折りまくっているし袖は捲りまくっている。
俺と大和は周りから見たらただの兄妹だろうが、もう少し大和には自分のサイズに合った服を着てもらわないと警察に怪しまれたとき俺の人生が終わってしまう。少女誘拐の罪とかで捕まったら冗談にもならない。というわけで俺と大和はデパートのレディースフロアへと向かった。
前後左右どこを見ても可愛らしい服が並んでいる。レディースフロアなので当たり前なのだが、女性しかいない。男性はカップルで来た人が少しだけいる程度だ。
俺はこういう場所には行き慣れていないので、できれば店の外で待っていたかったのだが大和に無理やり連れてこられてしまったのだ。大丈夫、今の俺は大和のお兄ちゃんだ。大和と自然に接していれば周りの女性客に怪しまれることはない。
「可愛い! ハル見て!」
大和がワンピースを試着しながら笑顔で言ってくる。確かに似合っている。もともと顔立ちは整っている方なので、きっと何を着ても似合うのだろう。その後も大和はいろんな服を試着してまわった。結果、一万二千円の出費。
高校生の俺からしたら地味に痛い出費だが、大和はとても満足そうなので今回は良しとしよう。これで今日のメインの目的は達成することができた。
そのあと、俺たちはデパートのいろんなところを行って回った。大和は常に笑顔で本当に楽しそうで、なんだか本当に大和のお兄ちゃんになった気分になった。最後に食品売り場に行き、今日の夜ご飯の材料を買って家に帰った。
自宅に着いたあと、俺と大和は仲良くギョーザを食べていた。食品売り場を歩いていたら大和も何か料理を作ってみたいと言い出したので、一緒に作って楽しめるギョーザを選んだのだ。一人暮らし歴の長い俺はそれなりに料理はできる方であるが、もちろん大和は初めてである。
大和が作った歪なギョーザを美味しく食べていると、大和は嬉しそうに微笑みながら言った。
「今日はありがとう。ハルのおかげでとても楽しかった。これから毎日でもデパート行って買い物して、ハルと一緒にご飯作りたい」
なかなか嬉しいことを言ってくれる。俺も今日は楽しかった。あまり人と出かけることがないので、こうして誰かと一緒に買い物するというのは俺にとっても貴重な体験だった。
だから、その大和の発言に対する俺の返しは最初から決まっていた。
「悪い大和。俺明日から学校始まるから毎日は無理だわ」
俺の部屋に大和の泣き叫ぶ声が響いたのだった。
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