第2話 出会い②

時間は午前三時。先ほど謎の少女に出会った俺は、とりあえずその少女を自分の家へ招き入れることにした。


知らない人を自分の家に入れてはいけませんと昔いろんな人によく言われてきた気がするが、さすがにこんな幼い子を放っておけるほど俺の心は鬼ではない。


深夜に突然、俺が見知らぬ幼女を家に連れて帰ってきたら家族は驚きのあまり卒倒してしまうかもしれないが、俺は一人暮らしをしているのでその心配はなかった。


謎の少女——名前は大和奈津というらしい——はあのスーツを着た男たちから逃げるときについたのかは知らないが、体のあちこちが汚れていたのでシャワーを浴びさせることにした。浴室からは大和がシャワーを浴びる音が聞こえる。俺はリビングにあるソファーでくつろぎながら先ほどの大和との会話を思い出していた。


「助けるってどういうことだよ」

「見ての通り、私はさっきの男たちに追われているの。理由は私が国内でたった一人しかいないランクS級の精神系能力者だから。今の男たちは私を捕まえたあと、私の体を隅々まで研究して私の異能力を悪用しようと企んでいるの」


 大和はその幼い見た目とは裏腹に冷静とした口調で物騒なことを告げる。


 俺が住んでいるこの国、愛神国は人口の約八割が異能力者である。異能力は幼少期に発症し基本的に体の成長とともにその力も強大になっていく。異能力はランクCからランクSに分類されており、個人の努力次第で異能の力を強くすることも可能であるが、生まれつきランクA、ランクS並みの強大な異能力を持った者を純A、純Sと呼ぶのである。


 先ほど出会った少女、大和奈津は元々珍しい精神系異能力者でありながら、その中でもかなりレア度の高い純S能力者というわけである。


「お風呂ありがとー!」


 シャワーを浴び終えた大和が元気良く話しかけてくる。一人暮らしの俺の家に女の子、ましてや幼女の着替えなどあるわけがなく、大和にはとりあえず俺のジャージを貸しておいたのだがやはりぶかぶかだった。


「そういえば、あの男たちはお前を捕まえて悪用するって言ってたけど具体的には何をするつもりなんだ?」


 俺は大和がシャワーを浴びている間に浮かんできた疑問点を問う。


「それはね、私の異能力を使って国内の異能力者を洗脳して軍事兵器にするつもりなんだよ。そして世界征服がしたいんだってさ」


 ま、まじですか。さっきは大和の迫力に負けて特に詳しい事情を聴かずに家に上げてしまったが、これはなかなか大変な道を選んでしまったのかもしれない。


「俺なんかに君を守れますかね…。てかお前、純S級能力者って時点で最強なんだから自分の力でさっきの男たち倒せないのか?」

「それができたら苦労してないよ。さっきの男たち、異能力研究会は私が異能力を発動できなくするための装置を私に着けてるの。それがこれ」


 そう言って大和は右手首に巻いてある細い鉄製の腕輪を見せてきた。


「なるほどな。それを外すにはどうしたらいいんだ?」

「これを外したかったら研究施設にある専用のカギを使わないとダメなの。無理やり外そうとしたら強力な電流が流れてくる仕組みになってる」


 つまり、今の大和はただの幼い女の子と何も変わらないってことか。


「それにしても、お前を助けるっていったい何したらいいんだよ。俺はランクS級様を守れるほど強くはないぞ」

「何もしてくれなくて大丈夫だよ! とりあえず安全に寝れる場所が欲しかっただけだから」


 ならよかった、と俺はほっと胸をなでおろす。最強少女を守るために悪の組織と戦うなんて漫画みたいな展開そうそうあるはずがない。時計をみると深夜3時になっていた。


「今日は疲れたしそろそろ寝るか」

「うん! そうだね! 今日はほんとにありがと、おやすみ!」


 大和はそう言って俺のベッドで寝始めた。俺は一人暮らしなので、もちろんこの家にベッドは一つしかない。俺には家に遊びに来るような親しい友達もいないので来客用の布団とかも持ち合わせていない。


え、俺どこで寝るの? さすがに今日会ったばかりの幼女と同じベッドで寝るわけにはいかない。普通に通報案件である。


あれ、てか今思ったけどこんな小さな女の子を家に泊めてる時点で俺犯罪者じゃない? 俺はロリコンではないので大和に発情することなど万が一にもないのだが、世間的にまずいのには変わりないだろう。俺はいつか自分が警察に捕まらないことを願いながら、ソファーで寝たのであった。

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