第40話

私は、カード端末を、私の左隣に座っているネー、ベルの前に置いた。


ネー、ベルは、カード端末のモニターに、自分が映っていることを確かめて、話し始めた。


もちろん、ネー、ベルは、プル、ンケ、ルム、ベズ語で話したが、ここには、通訳器によって逐次通訳された日本語を記すことにする。


「プル、ンケ、ルム、ベズの黄色キ大地ノ国にある火山が巨大噴火を起こすと、どのような現象が起きるのか?

我々は、思考実験を繰り返して、近い将来、この星で起きる巨大噴火について、ある程度まで、予想することが出来ました。

火山の噴火には、さまざな自然現象が伴います。

地震、空振、噴石の落下、火砕流、溶岩の流出、火山性ガスの流出、火山灰の放出、水蒸気爆発、地下水の異常、山体崩壊、山体崩壊による津波の発生などです。

これらの自然現象のうち、この星で起きる巨大噴火によって、最も大きな被害をもたらす恐れのある、火砕流と火山灰について、お話しさせて頂きます。

火砕流とは、火山の噴火によって発生した、岩石、溶岩、噴石、火山灰、火山性ガス、水蒸気、大気などが混ざって出来た混合物が、火口から、周囲の地表に拡がって行く現象です。

40年ほど前に、地球で起きた巨大噴火によって発生した火砕流のデータを元に、プル、ンケ、ルム、ベズで発生する火砕流を予想しました。

この火砕流は、火口で発生した時の高さは、300メートルほどと予想されます。

そして、火口から、360度全ての方向に向かって、拡がって行きます。

火口から西の方角に向かった火砕流は、スウ、ゴル、ナー山脈に到達すると、重い岩石や溶岩などを失って、重い岩を含まない火砕流になります。

そのため、スウ、ゴル、ナー山脈の西側の地域は、重い岩を含まない火砕流に襲われると予想されます。

その質量とエネルギーは、火口で発生した時の39.7%で、高さは、120メートルほどと予想されます。

そして、東限リ無キ氷洋を渡った火砕流は、灼熱ノ岩流ルル国に到達します。

その質量とエネルギーは、34.7%で、高さは、104.2メートルほどと予想されます。そして、西限リ無キ氷洋を渡った火砕流は、熱キ水出ル国に到達します。

その質量とエネルギーは、29.3%で、高さは、88メートルほどと予想されます。

そして、火口から惑星を半周して、地球で言うところのインド洋を覆う氷洋に到達します。

その質量とエネルギーは、19.3%で、高さは、57.9メートルほどと予想されます。

そこでは、火口から東の方角に拡がった火砕流と衝突する可能性があります。

その質量とエネルギーは、多くても、5%以下と思われます。

衝突点で、互いに打ち消しあった火砕流は、西の方角に向かうものだけが残って、14.3%以上の質量とエネルギーを持って、さらに西の方角に向かいます。

そして、地球で言うところのインド大陸とアフリカ大陸の東岸に上陸して、終息すると予想されます。」



ネー、ベルは、話を続けた。


「火口から東の方角に向かった火砕流は、地球で言うところの北アメリカ大陸の東海岸に到達します。

その質量とエネルギーは、92%で、高さは、276メートルほどと予想されます。

そして、北引キ裂カレル氷洋を渡った火砕流は、引キ裂カレル大地ノ国に到達します。

その質量とエネルギーは、73.6%で、高さは、220.8メートルほどと予想されます。そして、さらに東の方角に向かった火砕流は、地球で言うところのユーラシア大陸に上陸して、大陸の奥深くまで到達して、終息すると予想されます。

一方、南引キ裂カレル氷洋を渡った火砕流は、地球で言うところのアフリカ大陸西岸の全域に上陸して、大陸の奥深くまで到達して、終息すると予想されます。

さらに、地球で言うところのジブラルタル海峡を通って地中海と紅海を覆う氷洋を渡り、インド洋の衝突点にまで到達する可能性があります。

また、地球で言うところのアフリカ大陸南端と南極大陸の間を抜けて、インド洋の衝突点にまで到達する可能性があります。

それらの火砕流の質量とエネルギーは、多くても、5%以下と思われます。

したがって、火口から西の方角に向かった火砕流と衝突して、終息すると予想されます。

火口から東の方角に拡がった火砕流は、スウ、ゴル、ナー山脈のような高山地帯を通過しないまま、前述の地域に到達するので、いずれの地域も、重い岩を含む火砕流が、襲来すると思われます。

火口から北の方角に向かった火砕流は、重い岩を含む火砕流のまま、地球で言うところのカナダに襲来します。

そして、地球で言うところの北極海を覆う氷洋を渡って、北極点を通過して、ユーラシア大陸の広い範囲に襲来して、アルプス山脈やモンゴル高原、あるいはヒマラヤ山脈やコンロン山脈まで到達して、終息すると予想されます。

そして、熱キ水出ル国にも、重い岩を含む火砕流が到達する可能性があります。

火口から南の方角に向かった火砕流は、重い岩を含む火砕流のまま、地球で言うところの南アメリカ大陸と南限リ無キ氷洋を縦断して、南極大陸に上陸して、南極点を通過して、インド洋を覆う氷洋の全域に拡がって、アフリカ大陸、中東、インド大陸に上陸して、高山地帯の麓まで到達して、終息すると予想されます。

そして、地球で言うところの東南アジアの島々とオーストラリア大陸を通過した火砕流は、重い岩を含む火砕流のまま、熱キ水出ル国に到達する可能性があります。」


ネー、ベルは、結論を話した。


「地球で起きた巨大噴火による火砕流は、液体の海や熱帯雨林などの森林地帯に、重い岩石や溶岩を奪われて、重い岩を含まない火砕流となり、質量とエネルギーを失って、惑星の半分ほどの範囲に到達して、終息しました。

しかし、プル、ンケ、ルム、ベズでは、地熱湧出地以外の全ての場所が、氷に覆われているため、火砕流が地表から受ける抵抗力がきわめて小さくなるので、火砕流は、地球よりも、はるかに遠くまで到達すると予想されます。

そして、高山地帯などを通過した火砕流以外は、重い岩石や溶岩を含んで、地球で発生した火砕流よりも多くの質量とエネルギーを保ったまま、拡がって行くと予想されます。

その結果、プル、ンケ、ルム、ベズでは、高山地帯などの標高の高い地域以外の惑星の全域が、火砕流に襲われると予想されます。

ただ、スウ、ゴル、ナー山脈の西側の地域と、灼熱ノ岩流ルル国には、重い岩を含まない火砕流が襲来すると予想されます。

それ以外の地域には、重い岩を含む火砕流が襲来すると予想されます。」



ネー、ベルは、話を続けた。


「次に、火山灰について、お話しさせて頂きます。

火山灰とは、火山の噴火によって、火口から放出される微小な固体で、そのほとんどは、溶岩の微小な破片です。

また、噴火によって破壊された岩石の破片が含まれる場合もあります。

40年ほど前に、地球で起きた巨大噴火によって発生した火山灰のデータを元に、プル、ンケ、ルム、ベズで発生する火山灰を予想しました。

プル、ンケ、ルム、ベズで発生すると予想される火山灰は、地球で発生した火山灰よりも、わずかに多くなると予想されます。

その差は、0.01%以下と予想されます。

64万年前に起きた巨大噴火でも、この星で発生した火山灰は、地球で発生した火山灰よりも、わずかに多かったために、この星だけが、全球凍結して、恒久的に寒冷化したと推測されます。

ちなみに、全球凍結とは、惑星の全域が、氷に覆われる現象です。

40年ほど前に、地球で発生した火山灰によって、太陽光が長期間にわたって遮られ、地球も寒冷化しましたが、全球凍結は起こりませんでした。

そして、大気中の火山灰が沈降して、大気中の火山灰の濃度が下がるに連れて、次第に、気温が上昇しつつあるということです。

地球では、64万年前に起きた巨大噴火でも、40年ほど前に起きた巨大噴火でも、噴出された火山灰の量が、全球凍結を起こす閾(しきい)値に足りなかったために、全球凍結が起きなかったものと推測されます。

一方、この星では、近い将来、起きると予想される巨大噴火によって発生する火山灰によって、この星は、さらに寒冷化すると予想されます。

近い将来、黄色キ大地ノ国にある火山が巨大噴火を起こすと、火口から、大量の火山灰が放出されて、成層圏まで上昇します。

そして、ジェット気流によって、惑星の全域の大気中に拡散します。

そして、重力によって、ゆっくりと沈降して、地表に降り積もります。

大気中に滞留する火山灰は、太陽光を反射するので…」


ネー、ベルは、突然、沈黙した。


そして、少しの間、何かを考えているようだったが、また、話し始めた。


「…

失礼しました…

先ほど申し上げました予想に、誤りがあったようです。

近い将来、起きると予想される巨大噴火によって発生する火山灰によって、この星は、温暖化する可能性があります。

火山灰は、人間の目で見ると、灰色から黒色に見えます。

太陽光に含まれる光のうち、火山灰に吸収される波長の光があるために、そのように見えるのです。

おそらく、赤外線についても、火山灰に吸収される帯域の波長のものもあると思われます。

一方、氷は、人間の目で見ると、白く見えます。

太陽光に含まれる光のうち、ほとんどの波長の光が、吸収されずに、反射されるためです。

火山灰と氷とは、太陽光の吸収率が、大きく異なります。

したがって、プル、ンケ、ルム、ベズが、火山灰に覆われると、現在よりも、太陽光の吸収率が上がって、惑星が太陽から受け取るエネルギーが増えて、気温が上昇します。

火山灰が、大気中に滞留している場合は、火山灰に吸収された太陽エネルギーは、熱となって、大気を温めます。

火山灰が、地表の氷の上に降り積もっている場合は、火山灰に吸収された太陽エネルギーは、熱となって、地表の氷と、地表の近くの大気を温めます。

したがって、巨大噴火が起きた直後から、この星が受け取る太陽エネルギーが増えて、気温の上昇が始まります。

気温がどの程度上昇するかについては、まだ十分考慮していませんので、現時点ではわかりません。

申し訳ございません…

おそらく、コンピューターシミュレーションを行えば、ある程度まで予測出来るでしょう。

もしかしたら、氷点下を上回る気温になる場所が生じる可能性もあります…

惑星などの天体の反射率を、アルベドと呼びます。

プル、ンケ、ルム、ベズのアルベドは、巨大噴火が起きると、大幅に低下して、太陽光の多くを吸収するようになると予想されます。

宇宙から見たこの星は、真っ白ですが、巨大噴火後は、灰色から黒色に見えるようになるでしょう…

火山灰が大気中に滞留していると、地表に届く太陽光が減って、暗くなります。

噴火直後は、昼間でも、日暮れ後のような暗さになります。

地上の農耕地で栽培されているジャガイモなどの農作物は、日照不足のために、光合成が十分に出来なくなって、生育が出来なくなります。

火山灰が沈降するにしたがって、大気中の火山灰の濃度が下がって、次第に明るくなりますが、少なくとも半年間以上は、地上での食料の生産が出来なくなると予想されます。

火山灰は、人間などの気管や肺などの呼吸器に入ると、呼吸困難を引き起こします。

大気中の火山灰の濃度が高い場合は、気密性の高いマスクとゴーグルが必要です。」


ネー、ベルは、結論を話した。


「プル、ンケ、ルム、ベズで起きると予想される巨大噴火によって発生する火山灰は、地球で発生した火山灰よりも、0.01%以下だけ多くなると予想されます。

したがって、地球よりもわすがに、大気中に火山灰が滞留する期間が長くなると予想されます。

そして、火山灰と氷の太陽光の吸収率の違いによって、巨大噴火が起きた直後から、この星の太陽エネルギーの吸収率が上がって、気温の上昇が始まると予想されます。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る