第35話

お腹一杯になって、眠くなった私たちは、部屋に戻った。


洞窟のような部屋で一夜を過ごして、カード端末のアラームで目覚めた。


「おはよう!!」

「おはよう!!」


朝食に行く準備をしていると、カード端末に電話がかかって来た。


…オーナーさんからだ!!


私は、慌てて、身だしなみを整えた。


カード端末のディスプレイに、微笑むオーナーさんの姿が映った。


「こんにちは!!

…そちらは朝ね?

おはようございます!!」

「…おはようございます!!」

「万事順調かしら?」

「…はい!!

…パヌ、シー、レカ、ンネさんにお出迎え頂いて、ゲストハウスに宿泊中です。」

「パヌ、シーから、私との電話の件も聞いてますね?」

「はい!!

パヌ、シー、レカ、ンネさんも、ご協力くださると言ってくださいました!!」

「もちろんよ!!

彼女は、とても優秀なのよ。

地球のこともよく知ってるし…」

「はい!!」

「…で、さっそくだけど…

明日、記者会見を開くことになったから、それまでに準備をしておいて欲しいの。」

「…記者会見?

…明日ですか?!」

「そうよ。

出来るだけ早くしなきゃいけないからね…!!

明日の…そちらの時刻だと、正午ごろからね。

こちらの…黄色キ大地ノ国の夜のテレビで、生放送されるの。」

「…生放送?!」

「そうよ!!

黄色キ大地ノ国だけじゃなくて、いろんな国に、同時中継される予定よ。

私から、プル、ンケ、ルム、ベズの人たちに、是非ともお伝えしたいことがあるので、記者会見を開かせて頂く…という内容よ。」

「…テレビ局の責任者の方は、オーナーさんのお話の内容は、ご存知なんですか?」

「もちろん!!

黄色キ大地ノ国の火山が巨大噴火を起こす恐れが高まっているから、避難などの備えをすぐに始めるべきだという話をするつもりだとね!!

そして、そうする必要があると、テレビ局の社長さんも、わかってくれたのよ!!」

「…そうですか…!!

よかった!!

…で、私たちは、何をすれば…?」


彼女が、電話に気付いて、私のそばに来た。


「…あら?!

おはよう!!

星美さん!!」


彼女は、ニコニコして、答えた。


「おはようございます!!

オーナーさん!!」

「…今日も、綺麗で可愛いわね…!!

…新婚さんだものね…

…フフッ…」

「…アハハッ…!!

ありがとうございます…」

「…羨ましいわねぇ~…

どうして、私は独身なんだろ…」

「…

そんな…

オーナーさんなら、いくらでも、お相手は…」

「…それがねぇ~…

…世の中、そう簡単には、いかないのよね…」

「…はぁ…

そうなんですか…?」

「…そうなのよ…

って、そんな話してる場合じゃないわね!!」


オーナーさんは、カメラに顔を近付けて、ニコニコしながら、言った。


「おふたりも、記者会見に同席して欲しいのよ!!

私と一緒にね!!」



私は、耳を疑った。


彼女も、同じように感じたのか、すぐに訊き直した。


「今なんとおっしゃいました?」

「…私と一緒に記者会見に同席して欲しいの。」

「…私たちが、ですか?」

「そうよ!!」

「…」


彼女と私は、顔を見合わせた。


私は、オーナーさんに尋ねた。


「どうして私たちが記者会見に?」


オーナーさんは、私たちの質問を予期していたようだ。


「この星で起きると予想されている巨大噴火と、それに対する備えについて、誰よりもよく知っている人たちだからよ!!」

「…

それは…

そうかもしれませんが…」

「私だけ出て行って、巨大噴火が起きる恐れが高まっていると言っても、説得力が無いわ。

ちゃんと説明出来る人が必要なの!!

巨大噴火が起きる恐れが高まっているという根拠をね!!」


彼女は、口をきつく結んで、考えていたが、なにかを思い付いたように、尋ねた。


「私たち、火山噴火の専門家ではありません…

地球での仕事は、普通の会社員ですから…

…肩書きは…?」


オーナーさんは、少し考えて、答えた。


「肩書きなんて気にしてる場合じゃ無いでしょ!!

…って言いたいところだけど…

まあ、確かに、専門家という肩書きがあったほうが、説得力はあるでしょうね…

でも、大丈夫!!

…「地球からの来訪者」

この肩書きで十分よ!!」


私は、胸の高鳴りを感じながら、訊いた。


「オーナーさん!!

明日の正午頃とおっしゃいましたね?

こちらの時刻で…

記者会見の生放送が…

今から、26…地球時間ぐらいしかありませんよ?!

黄色キ大地ノ国まで、戻るのですか…?

…大陸間鉄道で?!」


オーナーさんは、ニッコリして、答えた。


「その必要は無いから安心して。

電話でいいのよ!!

今話してるように…

記者会見場に、あなた方の電話の画面と音声をモニターで流すから…

リモートで、同席してくれればいいの!!」


彼女は、虹色の瞳を輝かせて、言った。


「わかりました!!

私たちも、全力で、オーナーさんを応援しますね!!」



オーナーさんは、ニッコリして、頷いた。


「記者会見の手順を説明するわね…」


私たちは、オーナーさんから、記者会見の手順を説明してもらった。


「おふたりには、この星で巨大噴火が起きる恐れが高まっていると判断する根拠と、巨大噴火がどんな規模になるかという予測と、巨大噴火による被害を最小限に食い止めるための備えについて、お話ししてもらうわ!!」


私たちは、頷いた。


オーナーさんは、笑顔を絶やさずに、言った。


「何か質問があったら遠慮無く訊いて。」


彼女が、先生に質問する生徒のように、手を上げて、訊いた。


「私たちが話すことは、原稿を用意してもいいんですか?」

「もちろんよ。

原稿を読みながら話していいわよ。」


私も、手を上げて、訊いた。


「話す時間は、どれくらいですか?」

「記者会見は、記者さんたちからの質問に答える質疑応答の時間があるから、時間は決めていないわ。

生放送の番組は、この星の時間で、半時間だから…地球の時間で言うと、1時間12分ぐらいね…」

「…半雪星時間ですね…

…確かに、1地球時間と12地球分ですね。」

「…

ゆきほし時間?」

「プル、ンケ、ルム、ベズと地球では、時間や暦の単位が違うので…

区別しやすいように、私たちで勝手にそう呼んでいるんです。

この星の時間は、雪星時間。

地球の時間は、地球時間と…」

「…

ゆきほし…雪の星ね!!

いいわね!!

分かりやすくなるわ!!

雪星…時間と…

地球…時間ね…

覚えたわ!!」

「…で、私たちが話す時間は?」

「…

話す時間は、出来るだけ短くして欲しいの。

伝えるべきことだけ話して、伝える必要の無い話はせずに…

そのほうが、伝えるべきことが、人々に、ちゃんと伝わりやすくなるからね…!!」

「…わかりました!!」


彼女が、手を上げて、訊いた。


「私たち、日本語で話していいんですか?」

「もちろんよ。

あなた方からの電話の音声を、通訳器に通して、日本語からプル、ンケ、ルム、ベズ語に訳して、記者会見場に流すから、大丈夫よ。」

「…私たちは、プル、ンケ、ルム、ベズ語を聞き取るには、どうすれば…?」

「通訳器を首に掛けて、逐次通訳された音声をイヤホーンで聞けばいいのよ。

私もいつもそうしてるの!!」

「…もし、通訳器の訳に、誤訳があっても…

すぐには、私たちにはわからないと思うのですが…?」

「…

誤訳か…

有り得るわね…

誤訳が原因で、とんでもない誤解が生じたりしたら、大変ね!!

パヌ、シーにチェックしてもらいましょ!!

通訳器の訳に、間違いが無いかどうか…」

「…なるほど!!

パヌ、シー、レカ、ンネさんに、私たちと同席してもらうんですね?!」

「そうね!!

もし、通訳器の訳に、間違いがあったら、パヌ、シーに、すぐに訂正してもらえばいいわ!!」

「わかりました!!」

「…誤訳の件は、思い付かなかったわ…

さすが、星美さんね!!」

「…いえ、そんな…」


私は、手を上げて、訊いた。


「ネー、ベルは…

マスターは、記者会見に参加しないんですか?」

「…マスター?

どうして?」

「…マスターも、私たちと一緒に、ずっと考えてくれたんです…

プル、ンケ、ルム、ベズの巨大噴火が、どんな規模になるのか…

巨大噴火による被害を最小限に食い止めるには、どうすればいいか…

星美と、ネー、ベルと、私…

3人で、考えたんです。

そして、3人で、答えを見つけたんです!!」


オーナーさんは、目を丸くして、言った。


「…マスターが…?

…本当に?!」


私たちは、頷いた。


「本当です。

プル、ンケ、ルム、ベズについて、私たちが知りたいと思ったことを、ネー、ベルは、ほとんど全て、教えてくれました。

まるで、生き字引のように…」


オーナーさんは、赤い唇をツンと尖らせて、ぷぅっと頬を膨らませて、言った。


「…もう、あの子ったら…!!

自分のことは、ホントに、なんにも話さないんだから…!!」


彼女は、怪訝そうな顔で、訊いた。


「…あの子…?」


オーナーさんは、苦笑しながら、答えた。


「マスターは、スゴイ控えめな性格なの。

自分のことを、自分から言うことは、ほとんど無いのよ…

プル、ンケ、ルム、ベズの人たちには、控えめな性格の人たちが多いんだけど…

マスターは、その典型ね!!」


私は、オーナーさんに尋ねた。


「では、ネー、ベルからは、何と、お聞きになっていたんですか?」


オーナーさんは、ため息をついて、言った。


「あなた方が、いろんなことを考えて、答えを見つけたって…

自分のことは、なんにも言わなかったわ…」


彼女は、虹色の瞳をキラキラさせて、言った。


「マスターも…

ネー、ベルも、私たちと一緒に、記者会見に同席させてくださいね!!」



オーナーさんは、苦笑しながら、答えた。


「マスターにも、記者会見に同席する資格があるって訳ね…

わかったわ!!

あなた方おふたりと、マスターの3人で、電話を使って、記者会見に同席して頂戴!!

そして、パヌ、シーに、通訳のチェックをしてもらうわ!!」


私たちは、声を揃えて言った。


「ありがとうございます!!」


オーナーさんは、頷いて、訊いた。


「他に質問は?」


彼女が、手を上げて、訊いた。


「テレビの生放送なんて、スゴイ緊張しちゃうと思うんです…

どうしたらいいですか?」


オーナーさんは、微笑んで、答えた。


「大丈夫よ!!

あなた方は、原稿を読むだけでいいんだから…

ただ、質疑応答では、記者さんたちからの質問に答えなきゃいけないから、臨機応変さが必要になるけど…

もし、どう答えたらいいか、わからない場合は、私に任せて頂戴。

思い付いた答が正しいかどうか、自信が無い場合も、無理に答えないで、私に任せて。

間違ったことを話すことこそ、いちばん避けなきゃいけないことだからね!!」


私たちは、頷いた。


「他に質問は?」


私たちは、首を横に振った。


オーナーさんは、ニッコリして、言った。


「明日の朝にリハーサルしてみるから、それまでに、話すことの原稿を用意しておいてね。

それじゃね!!」


明るい笑顔で手を振りながら、オーナーさんは、通話を終えた。


カード端末をポケットにしまいながら、彼女が呟いた。


「明日の朝までに…

頑張んないといけないわね…!!」


私たちは、大急ぎで朝食を摂った。


お土産を持って実家に里帰りしていたネー、ベルも、オーナーさんから電話で話を聞いて、私たちと合流した。


そして、部屋に籠って、3人で原稿を書いた。


コーヒー代わりの紅茶で眠気と戦いながら…


真夜中に、一応、原稿が出来上がった。


彼女は、虹色の瞳を、眠そうなまぶたの下から煌めかせながら、言った。


「プル、ンケ、ルム、ベズの人たちに、伝えなきゃいけないことを、頑張って、伝えましょうね!!」

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