第33話

パヌ、シー、レカ、ンネさんから体を離したネー、ベルは、体を少し反らすようにして、見上げながら、言った。


「お久し振りです。

パヌ、シー、レカ、ンネさん!!」


彼女と私は、唖然として、ふたりを見つめた。


パヌ、シー、レカ、ンネさんは、微笑みながら、言った。


「1年ぶりぐらい?

お元気そうですね!!」


ネー、ベルは、小さく頷きながら、答えた。


「そうですね。

あなたがこちらに戻られた時以来だから、1年ぐらいですね…

あなたもお元気そうで…

お会い出来て、嬉しいです。

お出迎えご苦労様です!!」


彼女は、我慢し切れなくなったように、少し上ずった声で、尋ねた。


「…あの~…

おふたりは、お知り合いなんですね?」


パヌ、シー、レカ、ンネさんとネー、ベルは、彼女を見て、仲良く頷いた。


そして、お互いの顔を見合わせて、質問に答える役を譲り合っていたようだったが、ネー、ベルが、こちらを向いて、話し始めた。


「…

3年ほど前に、オーナーに連れられて、地球に初めて行った時に、パヌ、シー、レカ、ンネさんも、一緒に地球に行ったのです。

『無限分岐宇宙』で働きながら、地球の皆さんの文明…科学、歴史、文化、言葉などを学びました。

パヌ、シー、レカ、ンネさんは、とても優秀で、1年ほど前に、留学を終えて、こちらに戻り、異世界研究所で、地球の皆さんとの相互理解を深めるために、活躍されています。」


パヌ、シー、レカ、ンネさんは、慌てたように、ネー、ベルの肩に手を置いて、言った。


「…優秀だなんて…!!

私は、地球の皆さんの言葉を覚えるのが、少し早かっただけなんです。

通訳器だけでは、まれに誤訳や、翻訳不能な言葉があるので、人間の通訳者として、異世界研究所に雇われて、こちらに戻ったんです…

言葉以外は、まだまだ勉強の途中で、本当は、地球で、もっともっと、いろんなことを学びたかったのですが…」


ネー、ベルは、パヌ、シー、レカ、ンネさんの顔を見上げながら、言った。


「彼女は、2年間のうちに、日本語をすっかりマスターしてしまいました!!

私などは、未だに通訳器のお世話になっているというのに…」


通訳器を摘まんで見つめるネー、ベルを、パヌ、シー、レカ、ンネさんは、励ました。


「あなたは、科学やテクノロジーを学ぶのが得意なんだもの…!!

私たちの星よりも、多くの分野で進んでいる、地球の科学やテクノロジーを学ぶには、時間がかかるのは当然よ…!!」


私は、恐る恐る、ネー、ベルに尋ねた。


「…じゃ、君は、地球に、留学に来てたのかい?」


ネー、ベルは、頭を掻きながら、答えた。


「…それだけではありませんが…

主な理由は、それです…」


…それだけでは無い?

別の理由はなんだろう?

…しかし、パヌ、シー、レカ、ンネさんのいる前で、そこまで突っ込んで尋ねるのは、なんとなく、憚られた…


彼女は、なにやら妖しい含み笑いをしながら、言った。


「…な~るほど!!

ということは、おふたりは、2年間も一緒に、『無限分岐宇宙』で働きながら、勉強してたのね?!

…互いに励まし合いながら…

切磋琢磨しながら…

時には、故郷を離れた寂しさを、慰め合いながら…ね?!」


パヌ、シー、レカ、ンネさんは、少しの間、キョトンとしていたが、慌てて、ネー、ベルの肩から手を離して、シャチホコばって、言った。


「…あら?!

なにか、とんでもない誤解が生じたみたいですね?!

…私たち、ただの友達ですよ!!

ね~?

ネー、ベル、プン、ユフさん?」


ネー、ベルは、頭を傾げながら、答えた。


「…誤解?

どういう意味でしょう?

私とパヌ、シー、レカ、ンネさんは、地球で2年間一緒に学んだ、学友ですよ。」


彼女は、妖しい含み笑いを絶やさず、問い詰めた。


「…学友ね~…

ただのお友達が、あんなに情熱的に抱き合うものかしら…?」


そう言いながら、彼女は、私に目配せした。


私は、渋々、彼女に加勢した。


「…さっき、おふたりとも、スゴくしっかりと抱き合ってたから…

恋人なのかなと思っちゃったよ?!

久し振りに会えた…」


パヌ、シー、レカ、ンネさんとネー、ベルは、互いに顔を見合わせた。


そして、答える役を、再び譲り合っていたようだったが、今度は、パヌ、シー、レカ、ンネさんが、こちらを向いて、少し紅い顔で、ニッコリしながら、口を開いた。


「あれは、プル、ンケ、ルム、ベズの一般的な挨拶の仕方なんです!!

長い間、会えなかった者同士が、再会した時の…

抱き合って、お互いの暖かさを分かち合うことで、再会出来たことを、体でしっかりと確かめるのです。

とっても寒い星だから、スキンシップが発達したのでしょうね…!!

地球の皆さんよりも…

どうか、誤解しないで下さいね!!」



…挨拶の仕方にすぎなかったのか!!


この星の…


彼女と私は、自分たちの勘違いに、恥じ入った。


「…長めのハグみたいなものかしらね…」

「プル、ンケ、ルム、ベズと地球には、僕たちの知らない、いろんな違ったところが、いっぱいあるんだろうね…」


きまりわるそうな私たちの顔を見て、ネー、ベルが、言った。


「お気になさることはありませんよ!!

私たちだって、地球に行ってしばらくの間は、2つの星の生活習慣の違いに、ずいぶん困惑したものです…

たとえば、地球の皆さんが、お顔の表情で、さまざまな感情や情報を伝え合う、コミュニケーションの方法は、我々の星には無かったので、最初見た時は、とても驚きましたし、皆さんのお顔の表情の意味を覚えるのにも、ずいぶん時間がかかってしまいました…」

「…表情か…

プル、ンケ、ルム、ベズの人たちと違って、僕たちは、普通、互いの顔を見ながら、話をするからね…」


彼女は、ネー、ベルの白い毛に覆われた顔を見ながら、言った。


「…この星の人たちは、寒さに耐えるため、身体中がモフモフになったから…

お顔の表情ではコミュニケーションが出来ないのね…」


ネー、ベルは、頭を掻きながら、答えた。


「おっしゃる通りです。

…その代わり、と言ってはなんですが…

先ほどのような、スキンシップや、身振りや手振りなどのボディアクションを用いて、さまざまな感情や情報を伝え合うコミュニケーション方法が、自然に発達したのでしょうね…!!」


パヌ、シー、レカ、ンネさんが、ニコニコしながら、言った。


「…でも、オーナーさんがいらっしゃってからは、この星でも、顔の毛を剃って、互いの顔を見せ合ったり、メイクをしたり、顔の表情でコミュニケーションを試みたりする人たちが、どんどん増えて、ずいぶん様変わりして来たんですよ!!」


彼女が、待ちかねたように、尋ねた。


「…ね?!

パヌ、シー、レカ、ンネさんは、地球の女性にしか見えないわ!!

プル、ンケ、ルム、ベズの出身なんでしょ?

…どうやってるの?!」


パヌ、シー、レカ、ンネさんは、照れ臭そうな笑顔で、答えた。


「地球の女性の皆さんの美しさに憧れて、メイクやヘアスタイル、ファッション、シェイプアップや健康的な体作りなどを、留学中に学ばせて頂いたんです!!

ちょっとお恥ずかしいのですが…

むだ毛は、永久脱毛しました!!」


私は、想像力を抑えるのに苦労して、赤くなった…


…彼女は、私の顔を横目で見ながら、にこやかに答えた。


「スゴイわ!!

だから、こんなに素敵なのね!!

銀色に輝く髪も、スゴく綺麗でエキゾチック!!

ヘアスタイルも、お仕事にマッチして、それでいて、キュートだわ!!

ダークグレーのスーツも、メガネも、知性とキャリアを、さりげなく感じさせて、最高にカッコいい!!

高過ぎないヒールも素敵よ!!」


パヌ、シー、レカ、ンネさんは、紅くなった頬を両手で押さえて、嬉しそうに答えた。


「地球の方から、そんな風に誉めて頂けるなんて…

嬉し過ぎますわ…!!

こんなとき、どうお応えしたらいいんでしょう?!

葵様も、旦那様に愛されて、お幸せなオーラが、眩しいほど、溢れていらっしゃって、本当にお美しいわ!!

お羨ましい限りです!!」


…彼女とパヌ、シー、レカ、ンネさんは、その後も、しばらく、プル、ンケ、ルム、ベズと地球での流行のファッションやアクセサリーやメイクやヘアスタイルやブランド品やボディメンテナンス方法や美容にいい食べ物の話などを続けて、女性同士にしかわからない方法で、相互理解を深めたようだった…


タイミングを見計らって、ネー、ベルが割り込んだ。


「夜もだいぶ更けて来ましたね…

そろそろ、宿泊先のほうにご案内頂けると有難いのですが…?」


パヌ、シー、レカ、ンネさんは、ニッコリして、答えた。


「…ホントだ!!

お話が楽しくて、つい夢中になっちゃいました…!!

お車を用意してありますから、そちらにお乗り下さい。

迎賓館ゲストハウスにご案内致します!!」

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