第27話

星の秘めた心を知れば…


星の秘められた願いを知れば…


彼女は、宇宙に存在するさまざまな惑星の、多様な姿を、思い描きながら、訊いた。


「プル、ンケ、ルム、ベズの、火口から北に拡がる火砕流は、どうなるのかしら?」

「プル、ンケ、ルム、ベズの地表と、北極海は、いずれも、ぶ厚い氷に覆われているので、地球よりも、大幅に抵抗力が下がって、より遠くまで、重い岩石や溶岩などを含む火砕流が、到達することになるでしょうね…」

「…

地球の北極海の一部と、北海は、凍結していなくて、火砕流から、重い岩石や溶岩などを奪ったけど、プル、ンケ、ルム、ベズでは、全ての海が凍結しているから、その現象は起きない。

だから、東欧と西ヨーロッパにも、重い岩石や溶岩などを含む火砕流が、襲来することになるだろうね…」

「…

発生したばかりの火砕流は、重い岩石や溶岩などを含むけど、海や高山地帯などを通過すると、重い岩石や溶岩などを失って、軽くなるのね…

これを、軽い火砕流と呼んでみるわ!!」

「…軽い火砕流、ですか?

なるほど…」

「…

わかりやすくて、いいと思うよ!!

とすると、重い岩石や溶岩などを含む火砕流は、重い火砕流だね?」

「…

そうね…

地球では、東欧と西ヨーロッパは、大西洋を渡って来た火砕流も、北海を渡って来た火砕流も、軽い火砕流だから、避難していた人たちの多くが、助かったのね!!」

「…

プル、ンケ、ルム、ベズでは、カナダはもちろん、ユーラシア大陸の広い範囲で、重い火砕流が、襲来することになるでしょう…」

「…

重い火砕流が襲来する地域の居住地では、高さ30~40メートルの防壁が必要になるね…」

「…

ユーラシア大陸を南下した火砕流は、どこまで到達するのかしら?」

「…

ヨーロッパでは、アルプス山脈まで到達して、そこで終息すると思う…」

「中央アジアでは、モンゴル高原を通過する可能性がありますね…

地球では、モンゴル高原に差し掛かったところで、終息したということですが、プル、ンケ、ルム、ベズでは、火砕流の質量とエネルギーが、より多く残っているはずですから、もしかしたら、モンゴル高原まで上がって、さらに南下して、ヒマラヤ山脈まで、到達する可能性がありますね…」

「…

ヒマラヤ山脈は、さすがに、越えられないでしょうから、そこで終息するのね…?」

「…

中央アジアではね…

東アジアでも、広い範囲で、重い火砕流が南下してくるだろうね…

コンロン山脈までは…」

「…

極東アジアにも、重い火砕流が南下してくる恐れがありますね…!!」

「…

極東?

じゃ、もしかしたら、熱キ水出ル国にも、北から、火砕流が到達する可能性があるの?

重い火砕流が?!」

「…

そういうことになるね…

日本海も、凍結してるから…!!」

「…

とすると、高さ15メートルの防壁では、足りません!!

限リ無キ氷洋を渡って来る火砕流は、スウ、ゴル、ナー山脈を越えて来るので、軽い火砕流ですから、15メートルで足りるはずですが…

北から南下して来る火砕流は、重い火砕流のはずですから…!!」


彼女は、虹色の瞳に、火砕流が秘めた重い岩石や溶岩を思い描きながら、言った。


「プル、ンケ、ルム、ベズでは、火口から北に拡がる火砕流は、重い火砕流のまま、カナダとユーラシア大陸の広い範囲に襲来して、アルプス山脈やモンゴル高原、あるいは、ヒマラヤ山脈やコンロン山脈まで到達して、終息するだろうけど、熱キ水出ル国では、東から来る軽い火砕流に加えて、北から来る重い火砕流に備えて、高さ30~40メートルの防壁が、必要になるのね!!」



星のエネルギーの偏りを知れば…


星のエネルギーの非対称性を知れば…


彼女は、さまざまな惑星の表面から見えるはずの、限り無く多様な、千変万化に富んだ風景を、想像しながら、訊いた。


「プル、ンケ、ルム、ベズの、火口から南に拡がる火砕流は、どうなるのかしら?」

「地球では、火口から南に拡がった火砕流は、どこまで到達したのですか?」

「…

ロッキー山脈から東の、アメリカ中部と南部と、メキシコを襲った火砕流は、重い火砕流だったから、地上の建物に避難していた人たちはもちろん、地下に避難していた人たちも、ほとんど、助からなかった…

カリブ海に出た火砕流は、重い岩石や溶岩などを、海に奪われて、軽い火砕流になって、中央アメリカとキューバに上陸した。

この地域では、避難していた人たちの多くが助かった…

中央アメリカを横断した火砕流は、熱帯雨林のジャングルに、火山灰や噴石などを大量に奪われて、弱体化し、太平洋に出たあと、イースター島に到達する前に、質量とエネルギーがゼロになって、消滅した。

カリブ海を南下した火砕流は、南アメリカ大陸に上陸して、アンデス山脈の東側に沿って、さらに南下したけど、アマゾンの濃密なジャングルに、質量とエネルギーを吸い取られて、密林地帯の途中で、終息した…」

「…

そこから南のブラジルやアルゼンチンや、アンデス山脈の西側のペルーの人たちは、火砕流の被害は受けなかったのよね…」

「…

熱帯雨林のジャングルが、火砕流から、人々を守ってくれたのですね…?!」

「…

アマゾン川の密林が、火砕流のたけりを、鎮めてくれたんだ!!

神話に出て来る英雄たちが、女だけの国のアマゾネスに、荒ぶる心を奪われたように…」


彼女は、虹色の瞳を、キラキラさせて、言った。


「熱帯雨林のジャングルが、天然の防壁となって、まるで、人々を守ってくれる女神のように、人間たちを守ってくれたのね!!」



星の体から生まれた生き物たちを見れば…


星が産んだ生き物たちを見れば…


彼女は、いろんな星に生まれたはずの、限り無く多様な、生き物たちを想像しながら、訊いた。


「プル、ンケ、ルム、ベズで発生する火砕流は、火口から南に拡がると、どうなるのかしら?」

「…

残念ながら、プル、ンケ、ルム、ベズには、地球の熱帯雨林のようなジャングルは、ありません…

液体の海は、ぶ厚い氷の下に閉ざされたままです…

唯一、高山地帯だけが、天然の防壁として、我々を守ってくれるでしょう…」

「…

カリブ海も凍結してるから、火砕流は、重い火砕流のまま、中央アメリカを横断して、限リ無キ氷洋に出て、イースター島も通過して、南極大陸に上陸するだろうね…」

「…

キューバも、重い火砕流に襲われるのね…

そこから、カリブ海を南下した火砕流は、南アメリカ大陸に上陸して、アンデス山脈の東側に沿って、さらに南下して行くのね…

ブラジルには、アマゾン川も無ければ、ジャングルも無い…

あるのは、ただ、真っ白い、氷の平原だけなのね…?」

「…

おっしゃる通りです。

火砕流は、易々と、南アメリカ大陸を縦断して、海峡を渡り、南極大陸に上陸するでしょうね…

南極大陸は、皆さんの地球でも、ぶ厚い氷に覆われていて、プル、ンケ、ルム、ベズと変わり無いのですね…」

「…

アンデス山脈によって分けられたふたつのエリアを南下して、南極大陸に上陸した火砕流は、南極点を通過して、インド洋の全域に拡がるだろうね…

そして、オーストラリア、東南アジア、インド大陸、中東、アフリカ大陸に上陸することになるね…

重い火砕流のまま…!!」

「…

引キ裂カレル氷洋に面したアフリカ大陸の西岸にも、拡がって来るかもしれないわね…?

インド洋だけではなくて…」

「…

火砕流の拡散の仕方によっては、有り得ますね…

思考実験では、可能性があるということしか、言えませんね…

アフリカ大陸西岸に、火砕流が到達するかどうかは、コンピューターシミュレーションの結果を待たなければ、判断出来無いでしょうね…」

「火口から東に拡がる火砕流が、拡散して、アフリカ大陸西岸の全域に上陸するだろうから、火口から南に拡がる火砕流が、アフリカ大陸西岸に到達しても、あるいは、しなくても、備えるべき防壁は、高さ30~40メートルで、同じになるよ…!!」

「…

そうね…

アフリカ大陸に上陸した火砕流は、どこまで到達するのかしら?」

「…

高山地帯の麓まで達して、そこで終息するでしょうね…」

「…

ルウェンゾリやキリマンジャロなどの山の麓まで、到達するかもしれないね…!!」

「…

地球だと、コーヒーの名産地だけど、プル、ンケ、ルム、ベズでは…無かったのよね?」

「…

残念ながら、我々の星には、コーヒーはありません…」

「…食堂車で聞いたね…

話を元に戻そう。

中東に上陸した火砕流は、おそらく、トルコあたりまでは、到達して、終息するだろうね…」

「…

インド大陸では、ヒマラヤ山脈まで、到達する可能性があるのね…!!」

「…

東南アジアでは、アジア大陸に上陸した火砕流は、コンロン山脈の麓まで、到達する可能性がありますね…!!」

「…

火砕流は、インドネシアやマレーシアやフィリピンなどの島々を通過して、東シナ海に到達するかもしれないね…!!」

「…

オーストラリアに上陸した火砕流は、標高の低い地域を通過して、限リ無キ氷洋に到達するかもしれないわね…?!」

「…

エアーズロックのような山以外は、火砕流に襲われる可能性があるね…」

「…

とすると、この方角からも、熱キ水出ル国に、火砕流が到達する可能性がありますね…?!」

「…

東シナ海も凍結してるから…!!」

「…

火口からの距離を考えると、さすがに、質量とエネルギーの多くを失って、弱まってはいるだろうけど…

高山地帯は通過していないから、重い火砕流と見なすべきだね…

だから、この方角からの火砕流に対しても、高さ30~40メートルの防壁が必要になるね!!」


彼女は、虹色の瞳に、荒ぶる火砕流のオロチのような姿を、思い浮かべながら、言った。


「プル、ンケ、ルム、ベズでは、火口から南に拡がった火砕流は、南アメリカ大陸と南限リ無キ氷洋を縦断して、南極大陸に上陸して、南極点を通過して、インド洋の全域に拡がって、アフリカ大陸、中東、インド大陸、東南アジア、オーストラリアに上陸して、アフリカ大陸と中東とインド大陸とアジア大陸に上陸した火砕流は、重い火砕流のまま、高山地帯の麓まで達して、そこで終息するだろうけど、東南アジアの島々とオーストラリアを通過した火砕流は、重い火砕流のまま、熱キ水出ル国に到達する可能性があるのね!!」



星が育んだ生き物たちを見れば…


星で進化した生き物たちを見れば…


彼女は、宇宙に生まれた生き物たちの姿の、無限のバリエーションを想像しながら、訊いた。


「プル、ンケ、ルム、ベズで発生する火砕流による被害を最小限に食い止める方法をまとめると、どうなるのかしら?」

「プル、ンケ、ルム、ベズで起きると予想されている巨大噴火によって発生する火砕流は、地球で発生した火砕流よりも、0.007%ほど、質量とエネルギーが増す可能性があります。

そして、プル、ンケ、ルム、ベズの地表と海のうち、地熱湧出地以外のほとんどの場所が、氷に覆われていること、地球にあるような液体の海面や、熱帯雨林のジャングルなどの森林が無いこと、気候が穏やかであることなどの違いによって、地球で発生した火砕流よりも、地表と大気から受ける抵抗力が減って、より多くの質量とエネルギーを保ったまま、高山地帯や高原などの標高の高い場所以外の、惑星の全域に、襲来する可能性があります。」

「…

スウ、ゴル、ナー山脈などの高山地帯を通過した火砕流は、重い岩石や溶岩などを失って、軽い火砕流になる。

高山地帯を通過していない火砕流は、重い岩石や溶岩などを含むので、重い火砕流のままだ。」

「…

軽い火砕流という呼び方についてなんだけど…

重い岩石や溶岩などを含んでいないという意味だから、火砕流の質量とエネルギーが小さいという意味では無いんだけど…

初めて聞いた人が、そういうふうに誤解するかもしれないわね…?」

「…

確かに、その恐れはありますね…

軽い火砕流と言っても、火山灰や噴石は、大量に含んでいますから、そのぶん、質量とエネルギーは、残っていますから…」

「…

そう言われてみれば、そうだね…!!

例えば、スウ、ゴル、ナー山脈を通過したばかりの火砕流は、重い岩石や溶岩などを含んでいないから、軽い火砕流ということになるけど、西海岸での質量とエネルギーは、39.7%で、高さ120メートルあるから、まだまだ、大量の質量とエネルギーを保っていて、危険だね…!!」

「…

軽い火砕流という呼び方は、誤解を招きやすいから、止めたほうがいいわね…!!

どう呼べばいいかしら?」

「…

重い岩石や溶岩などを含んでいない火砕流…では、ダメですか?」

「…

もっと短く、わかりやすくしたいね…

溶岩も、岩だから、岩石とまとめて…

重い岩を含まない火砕流、にしたらどうかな?」

「…

重い岩を含まない火砕流…

いいわね!!

その呼び方にしましょ!!

とすると、重い火砕流は…

重い岩を含む火砕流、ね!!」

「…

いいですね!!

誤解が生じる心配が無くなるでしょうね…!!」

「よし!!

じゃ、まとめに戻ろう!!

スウ、ゴル、ナー山脈などの高山地帯を通過した火砕流は、重い岩石や溶岩などを失って、重い岩を含まない火砕流になる。

高山地帯を通過していない火砕流は、重い岩石や溶岩などを含むので、重い岩を含む火砕流だね。

重い岩を含まない火砕流が襲来する可能性がある地域は、北アメリカ大陸のスウ、ゴル、ナー山脈の西側と、灼熱ノ岩流ルル国と、熱キ水出ル国と、アリューシャン列島と、極東アジアと、東南アジアと、オーストラリアと、ニュージーランドと、インド大陸の東岸と、アフリカ大陸の東岸だね。

中東のインド洋沿岸と、南アメリカ大陸のアンデス山脈の西側も、重い岩を含まない火砕流が襲来する可能性が、わずかながらあるけど、中東は、南極大陸を通過して北上して来る、重い岩を含む火砕流が襲来するだろうし、アンデス山脈の西側は、中央アメリカを横断して南限リ無キ氷洋を南下して来る、重い岩を含む火砕流が、東方に拡散すると、襲来する可能性があるから、重い岩を含む火砕流に備えなければならないだろうね…」

「…

重い岩を含まない火砕流だけが襲来する地域は、どこかしら?」

「…

北アメリカ大陸のスウ、ゴル、ナー山脈の西側の地域は、重い岩を含む火砕流は、おそらく、どの方角からも、到達しないでしょう…」

「…

灼熱ノ岩流ルル国も、同じように、スウ、ゴル、ナー山脈を通過して来た火砕流だけが、襲来するだろうね…」

「…

ニュージーランドは?」

「…

南極大陸を通過してオーストラリアを横断した火砕流が拡散すると、重い岩を含む火砕流が到達する可能性がありますね…」

「…

中央アメリカを横断して南限リ無キ氷洋を南下する火砕流も、西に拡散すると、ニュージーランドとオーストラリアに到達するかもしれないね…

これも、重い岩を含む火砕流だね…」

「…

アリューシャン列島は?」

「…

スウ、ゴル、ナー山脈の北端を通過した、重い岩を含む火砕流が、西に拡散すると、アリューシャン列島に襲来する可能性がありますね…」

「火砕流が拡散する範囲を予測するには、コンピューターシミュレーションが必要だね…」

「…とすると、北アメリカ大陸のスウ、ゴル、ナー山脈の西側の地域と、灼熱ノ岩流ルル国の、ふたつの地域だけが、重い岩を含まない火砕流だけに襲われるのね?!」

「…

そういうことになりますね…!!」

「…

北極海を通過して、シベリアを南下して、モンゴル高原に差し掛かった、重い岩を含む火砕流は、重い岩を失って、高原に到達する可能性があるけど、重い岩の全てを失うかどうかは、思考実験では、判断出来ないね…

もしかしたら、重い岩を含む火砕流のまま、高原に上がって来るかもしれないね…」


彼女は、虹色の瞳に、希望の輝きを宿しながら、言った。


「北アメリカ大陸のスウ、ゴル、ナー山脈の西側の地域と、灼熱ノ岩流ルル国では、重い岩を含まない火砕流だけに備えた、高さ15メートルの防壁を、そして、それ以外の地域では、重い岩を含む火砕流に備えた、高さ30~40メートルの防壁を造ればいいのね!!」

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