第26話

星の鼓動を感じ取れば…


星の息遣いを、肌で感じ取れば…


彼女は、残りわずかな輝きとなった太陽が、一瞬、まばゆい光の点となり、名残惜しそうに、氷平線のむこうに沈んで行くのを、見送ってから、訊いた。


「プル、ンケ、ルム、ベズの火砕流を防ぐ防壁は、どれぐらいの高さの防壁を、どんな方法で造ったらいいのかしら?」

「防壁を造るべき場所の優先順位を考えましょう。

まず、人口の多い地下都市などの居住地の、最も重要な出入口と、その最寄りの吸気口と排気口を、防壁で守るべきです。

次に、地上にある地熱発電所を、防壁で守るべきです。

次に、地下都市などの居住地の、残りの吸気口と排気口を、防壁で守るべきです。

次に、人口の比較的少ない小規模な居住地の、出入口と、吸気口と排気口を、防壁で守るべきです。

次に、灼熱ノ岩流ルル国の大陸間鉄道の駅を、防壁で守るべきです。」

「…

その順位でいいと思う。

もしも、地下都市と地熱発電所での防壁建設を、同時進行で進めて、地下都市での最初の防壁完成が遅れないのなら、地熱発電所でも、同時に建設を進めるべきだね…」

「電力を使って、地下農場の農作物を育てているから、発電所も守らなきゃいけないわね!!」

「では、防壁の高さについて、考えましょう。

各国の地下都市などの居住地に襲来する火砕流の高さを、可能な限り正確に、予想する必要があります。

そして、その予想値に、十分な余裕を加えて、防壁の高さを決めるべきです。」

「各地での火砕流の高さは、やはり、コンピューターシミュレーションを行わないと、正確に予想出来ないね…」

「…

地球でのコンピューターシミュレーションの結果からは、この星の火砕流を、正確に予想出来ないのね?」

「火砕流の質量とエネルギーについて、地球でのコンピューターシミュレーションのデータと、思考実験によって、ある程度、予想出来ましたね…」

「…

火砕流の質量とエネルギーと、火砕流の高さは、必ずしも比例しないと思う。

でも、質量とエネルギーが多いほど、高さも高くなるはずだね…

だから、あくまで思考実験としてなら、質量とエネルギーから、高さも推測してみることは出来るね…」

「…

わかったわ!!

思考実験してみて頂戴!!」

「…

プル、ンケ、ルム、ベズでの、アメリカ西海岸での、火砕流の質量とエネルギーと、灼熱ノ岩流ルル国での質量とエネルギーの比率は、86.8%ですから、プル、ンケ、ルム、ベズでの、西海岸での、火砕流の高さがわかれば、その0.868倍の高さの火砕流が、灼熱の岩流ルル国に襲来すると予想出来ますね…」

「…

地球の西海岸での、火砕流の高さは、シミュレーションのデータでは、30メートルほどだった。

プル、ンケ、ルム、ベズでは、火口から西海岸までの地表の状態と、気象の違いから、火砕流が火口から西海岸に到達するまでの間に、失われる質量とエネルギーは、地球のそれらよりも、少なくなるはずだ。

失われる質量とエネルギーの比率を概算しよう。

地球では、大気からの抵抗力が1.5、海からの抵抗力が1、プル、ンケ、ルム、ベズでは、大気からの抵抗力が1、氷からの抵抗力が0.1だったね。

火口から西海岸の間には、海は無くて、さまざまな地形の地表があるから、地表からの抵抗力を見積もる必要がある。

地球での地表からの抵抗力は…

どれぐらいだろうね?」

「…

カンでいいのね?

3ぐらいかしら?」

「…

森林や都市もあったのですよね?

高山地帯も…

とすると、5ぐらいあるかもしれませんね…?」

「…

じゃ、平均して4にしよう。

思考実験だからね…

とすると、地球での抵抗力の合計は、1.5+4=5.5だ。

プル、ンケ、ルム、ベズでの、抵抗力は、大気からの抵抗力は同じ、1と見なせるけど、氷からの抵抗力は、限リ無キ氷洋とは違って、地球で言うところのロッキー山脈があるから、0.1よりも大きくなるはずだ。

いくつぐらいかな?」

「…

2ぐらいかしら…?」

「…

私も、2ぐらいのような気がします…」

「じゃ、2だね!!

とすると、プル、ンケ、ルム、ベズでの、抵抗力の合計は、1+2=3になる。

とすると、抵抗力の比率は、5.5対3だね。火口から西海岸までの間に、火砕流から失われる質量とエネルギーの比率も、同じと見なせる。

地球では、火口から西海岸までの間に、火砕流の高さは、300メートルから30メートルに減った。

高さが質量とエネルギーに比例するとすると、30÷300=10%に減ったから、90%の質量とエネルギーが失われたことになる。

とすると、プル、ンケ、ルム、ベズでは、90%÷5.5×3≒49%の質量とエネルギーが失われることになる。

とすると、51%の質量とエネルギーが残っていることになる。

300×0.51=153メートル…」

「…

プル、ンケ、ルム、ベズの西海岸では、153メートルもあるの…?」

「…

思考実験です…

落ち着きましょう…」

「…

灼熱ノ岩流ルル国では、153×0.868≒130メートルほどになるね…」

「…

高すぎるわ…!!

そんな防壁、造るのに何年もかかる…!!」

「…

シミュレーションの結果を待ちましょう。

その高さの防壁は、現実的ではありませんから…」

「…

そうだね…

この思考実験では、防壁の高さを決められないね…」


彼女は、夕焼け空を見やりながら、言った。


「プル、ンケ、ルム、ベズの火砕流は、地球の火砕流よりも、はるかに高くなるのね!!」



星の吐息を感じ取れば…


星のあくびを感じ取れば…


彼女は、雲ひとつ無い夕空の、紅から紺までの至上のグラデーションを味わいながら、訊いた。


「プル、ンケ、ルム、ベズの火砕流が、思考実験の結果のような高さであることが、コンピューターシミュレーションでも明らかになった場合、どんな防壁を造ったらいいのかしら?」

「…

たとえば、高さ130メートルの火砕流が襲来するというシミュレーション結果が出たなら、それ以上の高さの防壁を造らなければ、火砕流は、防ぎ切れないでしょう。

シミュレーションの予測精度を上げて、誤差を小さくするには、計算対象の要素を、出来るだけ多くする必要がありますから、そのぶん、計算に時間がかかります。

従って、シミュレーションの結果が出てから、防壁の建設を始めると、噴火に間に合わない可能性があります。

防壁の建設は、今すぐにでも始めるべきでしょう。

そして、シミュレーションの結果が出たら、その予想値に基づいて、最終的な高さの目標値を決めて、出来るだけ早く、防壁を高くして行くべきでしょう。」

「…

噴火がいつ起きるかわからないから、防壁は、たとえば、高さ1メートルごとでもいいから、高さの低いものをまず造って、その上に、コンクリートを追加して、少しずつ、高くして行く工法がいいと思う。」

「…

それなら、防壁が完成する前に、火砕流が襲来しても、可能な限り高くした防壁で、火砕流の下方の部分は、防げるから、被害は軽減出来るわね!!」

「防壁よりも高い位置の火砕流は、防壁の上を越えて、内側に侵入して、守るべき施設、たとえば、出入口や通風口などの上に落下して来るでしょうね…」

「…

上から侵入してくる火砕流には、岩石や溶岩などの重いものは、含まれていないんじゃないかな?

重いものは、火砕流の下のほうに集中していると思う…」

「…

そうね…!!

火砕流には、直径何メートルもの大きな岩石や固まった溶岩や、時には、破壊された建築物や乗り物などが、含まれているけど、それらは、空気よりもはるかに重いから、地上や、氷の上を、転がって来ることになるのね!!」

「…

とすると、重いものは、全て、火砕流の下方に集中して、存在しているのですね!!」

「…

たとえば、直径10メートルもの岩石や溶岩が含まれていたとしても、それは、地上か氷の上を転がって来るから、高さ10メートルの防壁で、防げるんじゃないかな?」

「…

火砕流に含まれているいちばん大きな岩石や溶岩などよりも高い防壁があれば、火砕流に含まれている重いものは、全て、防げるのね?!」

「…

そうなりますね!!

火山灰や、小さくて軽い噴石や、火山性ガスや水蒸気や大気などは、火砕流の高さいっぱいに拡がっているので、防壁の上を越えて、内側に侵入して、守るべき施設の上に落下して来るでしょうが、火山灰と噴石は、軽いですから、施設に被害は及ばないでしょうね!!

火山性ガスや水蒸気や大気は、大気中に放散してしまうでしょうから、被害は無いはずです!!」

「…

出入口の上に火山灰や噴石が堆積すると、ドアを開けた時に、火山灰や噴石が、地下に流れ込んで来る…

通常の火山灰は、降灰量のペースは、ある程度予想できるから、厚く降り積もらないうちに、マメに人手で、取り除けばいいけど、火砕流に含まれている火山灰は、一度に大量に降って来ることになるから、軽いとは言っても、油断は出来ないね…」

「…

火山灰や噴石を取り除く人たちが、あらかじめ、地上に出ていれば、出入口に積もった火山灰や噴石を、安全に取り除けるんじゃないかしら…?」

「…

火砕流が襲来する前に、出入口から出て、氷上車などの中で待機して、火砕流の上のほうの火山灰や噴石が、防壁の中に侵入して、降って来たら、すぐに取り除くのですね?!」

「…

なるほどね!!

火山灰や噴石は、大量に降って来るから、ブルドーザーみたいな重機が使えれば、さらに安全だね!!」


彼女は、虹色の瞳を、天空のグラデーションに染めながら、言った。


「火砕流に含まれているいちばん大きな岩石や溶岩などよりも高い防壁があれば、火砕流に含まれている重いものは、全て、防げるし、火山灰や噴石などの軽いものは、火砕流が襲来する前に、あらかじめ、地上に出ていた人たちが、重機などで、すぐに取り除けば、出入口や通風口などを守れるのね!!」



星の体調を知れば…


星のリズムを知れば…


彼女は、天上のグラデーションのただ中にひときわ明るく輝く、一番星を見つめながら、訊いた。


「火砕流に含まれているいちばん大きな岩石や溶岩は、プル、ンケ、ルム、ベズでは、どれぐらいの大きさかしら?」

「…

正確な大きさは、やはりコンピューターシミュレーションの結果を見なければ、わからないでしょうね…」

「…

地球でのコンピューターシミュレーションのデータを思い出すと、たしか、火砕流発生直後に、最大のものが生まれて、大きさは、20メートルほどだったと思う。」

「…

そんなに大きな岩石が、どうして火砕流に含まれているの?」

「巨大噴火の際に、火山の山体が粉々に破壊されて、その破片が、火砕流の一部となったのだと思います…」

「…

その通りだよ。

イエローストーン火山の山の破片が、最大の岩石になったんだ。

ただ、このような巨大な岩石や溶岩は、ロッキー山脈を越えることは出来なかったから、西海岸や太平洋に襲来した火砕流には、ずっと小さな岩石や溶岩しか、含まれていなかったと思う…」

「…

そうか…

ロッキー山脈があるから、重いものは、山脈の東側に塞き止められてしまうんだわ!!」

「…

とすると、火口から、西に拡がった火砕流には、比較的、軽い岩石や溶岩が含まれていたのですね!!」

「…

地球にあるロッキー山脈は、もちろん、プル、ンケ、ルム、ベズにもある!!

氷に覆われているし、名前も違うだろうけど…」

「…

プル、ンケ、ルム、ベズでも、その山脈が、火砕流から、重い岩石や溶岩を、奪い取ってくれるのね!!」

「…

我々は、スウ、ゴル、ナー山脈と呼んでいます。」

「…

スウ、ゴル、ナー?

どういう意味だい?」

「太陽の寝床という意味です。」

「…

太陽の寝床?

お日さまが寝るところって意味?」

「はい。

黄色キ大地ノ国から見て、西のほうにあるので、そう呼ばれたのでしょうね…」


彼女は、虹色の瞳に、一番星の輝きを宿しながら、言った。


「スウ、ゴル、ナー山脈が、天然の防壁となって、火砕流から、重い岩石や溶岩を奪い取ってくれるのね!!」



星の脈を計れば…


星のたぎる血潮を計れば…


彼女は、一番星が、恒星ではなく、宵の明星であることに気付きながら、訊いた。


「スウ、ゴル、ナー山脈を越えて来る火砕流を防ぐには、どれぐらいの高さの防壁が必要なのかしら?」

「地球でのコンピューターシミュレーションのデータがあれば、その値に少し上乗せして、見積もれば、妥当な推測が出来ると思います。」

「…

地球でのシミュレーションでは、ロッキー山脈を越えて来た火砕流に含まれていた、いちばん大きな岩石や溶岩は、直径1メートルにも満たなかった。

最大でも、50センチメートル以下という、比較的小さい岩石や溶岩が、なんとか、山脈を越えて、西海岸に到達したんだ…」

「…50センチ…?

だとしたら、プル、ンケ、ルム、ベズでは、どれぐらいの大きさかしら?」

「…

スウ、ゴル、ナー山脈は、山肌のほとんどが、氷に覆われています。

地球のロッキー山脈に比べると、地上を転がる物体は、かなり転がりやすくなるはずです。」

「…

ロッキー山脈は、森林が多いから、抵抗力で言うと、かなり大きな値になるね…」

「とすると、スウ、ゴル、ナー山脈を越えて来る岩石や溶岩は、ロッキー山脈を越えたものよりも、大きくなるのね?」

「…

これも、正確な大きさの予測は、コンピューターシミュレーションが必要だね…

ただ、直径数メートルもの岩石や溶岩が、山脈の山肌を駆け登って、乗り越えるられるとは、到底思えない…

やはり、大きくても、1メートル以下じゃないかな?

カンだけど…」

「…

仮に、火砕流に含まれる岩石や溶岩が、最大で直径1メートルとしても、火砕流には、破壊された建築物や植物などが含まれる可能性もありますから、それらも阻止出来る高さの防壁が、やはり、必要でしょうね…」

「なるほどね…

じゃ、破壊された建築物や植物なども含む火砕流を防ぐには、どれぐらいの高さの防壁が必要なのかしら?」

「…

高さ10メートルもあれば、防げると思う…」

「…

余裕を見て、15メートルあれば、大丈夫でしょうね…」


彼女は、宵の明星のまばゆい姿を、虹色の瞳に映しながら、言った。


「スウ、ゴル、ナー山脈を越えて来る火砕流を防ぐには、余裕を見て、高さ15メートルの防壁があれば、大丈夫なのね!!」



星の拍動を計れば…


星の心拍を計れば…


彼女は、紺から黒へと、ゆっくり変化して行く宵闇に、目を休ませながら、訊いた。


「スウ、ゴル、ナー山脈以外の方角に拡がって行く火砕流を防ぐには、どれぐらいの高さの防壁が必要なのかしら?」

「黄色キ大地ノ国から、北と東と南の方角には、スウ、ゴル、ナー山脈のような、天然の防壁となるような高山地帯はありませんから、火砕流に含まれる最も大きな岩石や溶岩も、遮られること無く、遠くまで転がって行く恐れがあります。」

「…

地球でのコンピューターシミュレーションでは、最も大きな岩石や溶岩は、直径20メートルほどだったから、少なくとも、その大きさの岩石や溶岩を防げる防壁が必要だね…」

「…

そんな大きな岩石や溶岩が、遠くまで転がって行けるの?」

「…

自然に生じる岩石や溶岩は、いくつも角のある、いびつな形のものばかりでしょうが、たまたま、球形に近い形のものが生じたり、転がっているうちに、角が取れて、丸くなって、転がりやすくなるものもあるはずです。

そのような、遠くまで転がって行ける岩石や溶岩が、ひとつでも有り得るならば、それに備えた防壁を造らなければなりません。」

「…

最悪の場合を想定して、守りを備えなきゃいけないからね!!

希望的観測に頼っていてはいけないんだ…

たとえば、巨大噴火の際に、たまたま、球形に近い、直径20メートルの岩石や溶岩が生じて、火砕流とともに、東側に転がって行ったとしたら…

氷に覆われた引キ裂カレル氷洋を渡って、アイスランド…引キ裂カレル大地ノ国にまで、到達するかもしれない…」

「…

わかったわ!!

じゃ、どれぐらいの高さの防壁が必要なのかしら?」

「…

20メートルというのは、地球でのシミュレーションの結果ですから、プル、ンケ、ルム、ベズで起きる巨大噴火に、必ずしも当てはまるとは限りません。

十分に余裕を見て、推測値を決めるべきでしょうね…」

「…

正確な推測には、プル、ンケ、ルム、ベズでのシミュレーションが必要だね…

ただ、岩石や溶岩の大きさの最大値については、地球とプル、ンケ、ルム、ベズとで、ほとんど違いは生じないと思う…

巨大噴火で砕かれる大地そのものは、地球とプル、ンケ、ルム、ベズとで、違いはほとんど無いはずだからね…」

「…

カンでいいから、具体的な高さを教えて頂戴!!」

「…

カンは苦手なので、あまりあてにしないで下さい…

おそらく、40メートルあれば、大丈夫でしょうね…」

「…

慎重だね…

マスターは…

僕は、30メートルあれば大丈夫だと思うけどね…」


彼女は、虹色の瞳に、宵闇を映しながら、言った。


「スウ、ゴル、ナー山脈以外の方角に拡がって行く火砕流を防ぐには、まず、高さ30メートルの防壁を造って、出来るだけ早く、高さ40メートルまで、高くする必要があるのね!!」



星の熱き血潮の源を辿れば…


星の熱きプルームを辿れば…


彼女は、いつの間にか見えなくなった夕暮れの残照を惜しみながら、訊いた。


「地下都市などの居住地の出入口と通風口を、火砕流から守るための防壁を、出来るだけ早く造るには、どうしたらいいのかしら?」

「防壁は、大きな岩石や溶岩などを含む火砕流の直撃に耐える、頑丈なものでなければなりません。

そのためには、防壁を建設する地盤または氷に、鉄骨の支柱を打ち込み、防壁を支える基礎を造る必要があります。

地上にある地熱発電所や、大陸間鉄道の駅を守る防壁の基礎は、基本的に、鉄骨の支柱を打ち込むだけで済むでしょうが、地下都市を守る防壁の場合は、地下に居住地などの空間があるので、まず、基礎部分を造る必要があるでしょうね…」

「…

それは、僕も考えていたんだ。

地下都市の出入口と通風口を守る防壁の下には、当然、地下都市の空間があるはずだから、そのまま防壁を造ると、防壁の重さを支えられなくて、地下都市の天井部分が崩落してしまう恐れがあるね…」

「…

じゃ、どうすればいいのかしら?」

「まず、防壁の最終的な重さを決めて、それを支えられる基礎部分を、地中に造ってから、地上に防壁を建設することになるでしょう。」

「…

スウ、ゴル、ナー山脈の西の方角の地下都市の防壁は、高さ15メートルほどでいいけど、それでも、大変な重さだから、地下の空間は、支柱の鉄骨と、コンクリートと、鉄筋で、埋めることになると思う…」

「…

とすると、そこにあった居住地は、無くなるのね?」

「防壁の基礎部分に当たる空間の居住地や、道路などの都市の施設は、別の空間に移転してもらうしか無いでしょうね…」

「…

居住地や、地下農場や、店舗や、企業などは、別の場所に移転してもらえるだろうけど、地下都市のライフラインなどの重要な施設には、移転が困難なものもあるかもしれない。

その場合は、防壁の建設位置を変更して、埋め立て不可能な場所を避けて、埋め立て可能な場所に、防壁を建設することになるだろうね…」

「…

なるほどね!!

防壁は、どんな形でもいいのね!!

守るべき施設、たとえば、出入口と通風口を、必要な高さで、すき間無く囲っていれば、それでいいのね!!」

「…

出来るだけ早く、基礎部分の選定と建設を始めるべきでしょう。」

「…

オーナーさんの力をお借りして、この星の人たちに呼び掛けよう!!

すぐに、防壁の建設を始めるべきだって!!」


彼女は、虹色の瞳を、希望の光でキラキラと輝かせて、言った。


「人口の多い地下都市などの居住地の主な出入口と、その最寄りの通風口を、すき間無く囲う防壁の基礎部分を、埋め立て可能な場所から選ぶことから、防壁の建設を始めればいいのね!!」



星の心臓を見透せば…


星のエネルギーの源を見透せば…


彼女は、列車の窓越しには見えないけれど、夜空に輝き始めたはずの天の川を、想像しながら、訊いた。


「プル、ンケ、ルム、ベズの火砕流は、スウ、ゴル、ナー山脈による抵抗力を考慮に入れると、どれぐらいの高さになると推測出来るのかしら?」

「先ほどの思考実験では、スウ、ゴル、ナー山脈が、重い岩石や溶岩などを塞き止める効果を、考慮していませんでした。

そのため、プル、ンケ、ルム、ベズでの、氷からの抵抗力を、2に見積もって、火砕流の高さを予想しました。

スウ、ゴル、ナー山脈が重い岩石や溶岩などを塞き止める効果を考慮に入れると、抵抗力は、2よりも、はるかに大きな値になるはずです。」

「…

思考実験をやり直すべきだね…

抵抗力の見積りが、あまりにも、的外れだから、そのままでは、先ほどの思考実験の結果には、意味が無くなってしまう…」

「…

じゃ、思考実験をやり直してみて頂戴!!」

「地球では、大気からの抵抗力が1.5、海からの抵抗力が1、プル、ンケ、ルム、ベズでは、大気からの抵抗力が1、氷からの抵抗力が0.1と見積もりました。

そして、地球での、火口から西海岸までの地表からの抵抗力を、4と見積もりました。

プル、ンケ、ルム、ベズでの、火口から西海岸までの氷からの抵抗力を、2と見積もりました。」

「…

地球での、火口から西海岸までの地表からの抵抗力を、見積り直さなければならないね…

どれぐらいだろう?」

「…

ロッキー山脈が、重い岩石や溶岩などを塞き止めたはずだから…

20ぐらいかしら…?」

「…

30はあったかも…?

あまり自信はありませんが…」

「じゃ、25と見積もろう。

地球での、大気からの抵抗力と地表からの抵抗力の合計は、1.5+25=26.5だ。

次は、プル、ンケ、ルム、ベズでの、火口から西海岸までの氷からの抵抗力を、見積り直さなければならない…

どれぐらいだろうね?」

「…

スウ、ゴル、ナー山脈が、重い岩石や溶岩などを塞き止めてくれるはずね!!

でも、ロッキー山脈と違って、ほとんど氷に覆われているから、抵抗力は、地球よりも小さくなるはずね…

15ぐらいかしら…?」

「…

20ぐらいでしょうか…?」

「じゃ、17.5と見積もろう。

プル、ンケ、ルム、ベズでの、大気からの抵抗力と氷からの抵抗力の合計は、1+17.5=18.5だ。

とすると、地球の火口から西海岸までの抵抗力と、プル、ンケ、ルム、ベズの火口から西海岸までの抵抗力の比は、26.5対18.5だね!!」

「…

53対37ね…」

「…

地球では、火口から西海岸までの間に、火砕流の質量とエネルギーの90%が、失われたというシミュレーション結果でしたね…?

とすると、プル、ンケ、ルム、ベズでは…」

「…

90%×37÷53≒60.3%の質量とエネルギーが、火砕流から失われることになるね…!!

とすると、西海岸で、火砕流に残っている質量とエネルギーは、39.7%だね!!」

「…

300×0.397≒120メートル…

これが、プル、ンケ、ルム、ベズの西海岸での、火砕流の高さなのね…?

先ほどの思考実験の結果は、153メートルだったから、低くはなったけど…」

「…

思考実験による推測値です…

それに、いくら高くても、重い岩石や溶岩は、含まれていませんから、大丈夫です!!」

「…

灼熱ノ岩流ルル国に襲来する火砕流の高さは、120×0.868≒104.2メートルほどだね…

先ほどの思考実験の結果は130メートルだったから、少しは低くなったね…」

「…

とすると、熱キ水出ル国では、概算で、88メートルくらいね…」

「…

スウ、ゴル、ナー山脈を越えて西の方角に拡がって行く火砕流には、最大でも、直径1メートル以下の岩石や溶岩などしか含まれていませんから、高さ15メートルの防壁で、氷の上を転がって来るものは、全て防げるはずです!!」

「…

たとえ、計算通りの高さの火砕流でも、15メートルよりも高い位置の火砕流には、火山灰や軽い噴石しか、固体は含まれていないから、先ほど考えたように、あらかじめ地上に出て、待機している人たちが、ブルドーザーのような重機などで、すぐに取り除けば、大丈夫だと思う…」


彼女は、虹色の瞳で、天空の星の大河を思い浮かべながら、言った。


「プル、ンケ、ルム、ベズの火砕流は、スウ、ゴル、ナー山脈による抵抗力を考慮に入れても、地球の火砕流よりもずっと高くなるけど、高さ15メートルの防壁で、氷の上を転がって来るものを防いで、防壁を越えて降り積もる火山灰や軽い噴石は、あらかじめ地上に出て待機している人たちが、ブルドーザーのような重機などで、すぐに取り除けば、大丈夫なのね!!」



星の真ん中を見透せば…


星の核を見透せば…


彼女は、銀河系の星々を、思い描きながら、訊いた。


「プル、ンケ、ルム、ベズの火砕流は、スウ、ゴル、ナー山脈以外の方角に拡がって行くと、どれぐらいの高さになるのかしら?」

「正確な高さを予測するには、やはり、コンピューターシミュレーションが必要でしょうが、先ほどの思考実験と同じような試みによって、ある程度の予想は可能だと思います。」

「…

人工衛星から観測された、地球で起きた巨大噴火のアメリカの東海岸での、火砕流の高さを覚えているけど…」

「どれぐらいの高さだったの?」

「…

240メートルほどだったと思う…」

「…

地上では観測はされなかったのですか?」

「…

観測した人たちはいたはずだけど、その観測データは、生き残った世界には、伝わらなかった…」

「…

火口から東の方角に拡がって行った火砕流には、重い岩石や溶岩なども含まれていたはずね…」

「…

いろんな国の人工衛星が、火砕流を観測して、レーダーやレーザー測距装置によって、火砕流の外形は観測出来たけど、火砕流の内部までは、見透せなかった…

だから、重い岩石や溶岩などが、火砕流にどれくらい含まれているのか、人工衛星からは観測出来なかった。

火砕流に含まれていた重い岩石や溶岩などが、アメリカの都市や街々を、破壊するまでは…

「…

大西洋を渡って行った火砕流が、ヨーロッパやアフリカに襲来したのね…」

「…

ヨーロッパやアフリカでの、火砕流の高さは、観測されたのですか…?」

「…

ヨーロッパやアフリカでは、地上からも観測されたよ…

イギリスでは、高さ60メートルほどだった…」

「…

ヨーロッパやアフリカ大陸西部では、火砕流の襲来で、建物や農作物などに、大きな被害が出たけど、地下や丈夫な建物などに避難していた人たちは、ほとんどみんな、助かったのよね?」

「…

液体の海を渡って来た火砕流なので、重い岩石や溶岩などは、全て、海に吸収されて、火山灰や軽い噴石などと、火山性ガスや水蒸気や大気などの気体だけが、ヨーロッパやアフリカ大陸西部に、到達したのですね?!」

「…ハワイと同じようにね!!

火砕流の高さは、ハワイに到達した高さ10メートルの火砕流よりも高くて、数十メートルもあったけど、避難していた人たちは、ほとんど、全員、助かった!!」

「…

火砕流といっても、ずいぶん違うのね…!!

重い岩石や溶岩を含む火砕流と、それらを含まない火砕流とでは…」

「海や、スウ、ゴル、ナー山脈のような高山地帯を通過した火砕流は、重い岩石や溶岩などを含まないので、破壊力が、大幅に低下しますね!!」


彼女は、虹色の瞳で、生まれ育った星の海の蒼さを思い浮かべながら、言った。


「重い岩石や溶岩などを含む火砕流と、海や高山地帯などを通過して、それらを失った火砕流とでは、破壊力が、ずいぶん違うのね!!」



星の体のしくみを知れば…


星の体のメカニズムを知れば…


彼女は、宇宙に浮かぶ銀河の数々を思い浮かべながら、訊いた。


「スウ、ゴル、ナー山脈以外の方角に拡がって行く、プル、ンケ、ルム、ベズの火砕流は、思考実験による予想では、どれぐらいの高さになるのかしら?」

「地球とプル、ンケ、ルム、ベズでの、火口から東海岸までの間の抵抗力を見積もりましょう。

地球では、大気からの抵抗力を1.5、海からの抵抗力を1、プル、ンケ、ルム、ベズでは、大気からの抵抗力を1、氷からの抵抗力を0.1と見積もりました。

そして、地球での、火口から西海岸までの間の地表からの抵抗力を、25、プル、ンケ、ルム、ベズでの、火口から西海岸までの間の地表からの抵抗力を、17.5と見積もりました。」

「…

まず、地球での、火口から東海岸までの間の地表からの抵抗力を、見積もろう。

どれぐらいだろうね?」

「…

東海岸での火砕流の高さは、240メートルだったのね?

火口で発生した火砕流の高さが、シミュレーション通りの300メートルだったとすると、80%の高さだから、20%の質量とエネルギーが失われたことになるわね…」

「…

地球での、火口から西海岸までの間に、火砕流から失われた質量とエネルギーは、90%と推測しましたね。

ですから、地球での、火口から東海岸までの間に失われた質量とエネルギーと、火口から西海岸までの間に失われた質量とエネルギーの比率は、20対90になりますね…」

「…

2対9か…

4.5倍だね。

火口から西海岸までの間の抵抗力が、火口から東海岸までの間の抵抗力の、4.5倍あったことになるね…!!」

「…

火口から西海岸までの間の抵抗力の見積もりは、1.5+25=26.5だったから、それから計算すると…

26.5×2÷9≒5.9ね…

これが、火口から東海岸までの間の抵抗力ね!!」

「…

大気からの抵抗力は、同じ1.5と見積もれますから、火口から東海岸までの間の地表からの抵抗力は、5.9-1.5=4.4ということになりますね!!」

「…

次は、プル、ンケ、ルム、ベズでの、火口から東海岸までの間の、地表からの抵抗力を見積もろう。

地表と言っても、もちろん、氷に覆われているから、抵抗力は、とても小さくなるはずだね…」

「…

プル、ンケ、ルム、ベズでの、氷からの抵抗力は、0.1と見積もったのよね?

海の上を覆う、まっ平らな氷だけど…」

「…

スウ、ゴル、ナー山脈のような高山地帯はありませんが、海の上を覆う氷洋のような、平らな氷ではありませんから…」

「…

地球での、火口から東海岸までの間の、地表からの抵抗力は、4.4と見積もったから、それと比較すると…」

「…

1.5ぐらいかしら?」

「…

2だと、大きすぎる気がしますから…

私も、1.5ぐらいかと…」

「じゃ、1.5だね!!

プル、ンケ、ルム、ベズでの、大気からの抵抗力は、1と見積もったから、これと合計すると、1.5+1=2.5だね…

これが、プル、ンケ、ルム、ベズでの、火口から東海岸までの間の抵抗力だね!!」

「…

地球での、火口から東海岸までの間の抵抗力は、5.9だったから、抵抗力の比は、5.9対2.5ね…!!」

「…

地球での、火口から東海岸までの間に、火砕流から失われた質量とエネルギーが、20%だったとすると、20%×2.5÷5.9≒8.05%…

これが、プル、ンケ、ルム、ベズでの、火口から東海岸までの間に、火砕流から失われる、質量とエネルギーということになりますね…!!」

「…

とすると、プル、ンケ、ルム、ベズで、火砕流が東海岸に到達した時の、質量とエネルギーは、92%も残っているのか…?!」

「…

300×0.92=276メートル…」

「…

思考実験ですから…

落ち着きましょう…」

「…

凍った引キ裂カレル氷洋を渡って、アイスランド…引キ裂カレル大地ノ国に到達する火砕流は…」

「…

地球のイギリスに襲来した火砕流が、高さ60メートルだったのね?

それから推測出来るかしら?」

「…

地球では、火砕流が、液体の海に到達した際に、大量の岩石や溶岩などが、海中に落下して、質量とエネルギーの多くが、失われたはずです。

プル、ンケ、ルム、ベズでは、この現象は、起きませんから、地球よりも、はるかに大規模な火砕流が、ヨーロッパやアフリカに襲来するでしょうね…」

「…

プル、ンケ、ルム、ベズでの、西海岸での火砕流の質量とエネルギーと、ハワイ…灼熱ノ岩流ルル国での火砕流の質量とエネルギーの比率は、86.8%だったね…

海を覆う氷は、限リ無キ氷洋も引キ裂カレル氷洋も、同じ抵抗力と見なせるから、この数値から、概算出来ると思う…

東海岸から引キ裂カレル大地ノ国までの距離と、西海岸から灼熱ノ岩流ルル国までの距離とを比べると、引キ裂カレル大地ノ国のほうが、遠いのかな?」

「…

概算でいいわよ!!

計算してみて頂戴!!」

「…

じゃ、東海岸での、火砕流の質量とエネルギーと、引キ裂カレル大地ノ国での、火砕流の質量とエネルギーの比率を、80%と見なそう。

火砕流の高さが、エネルギーと比例すると仮定すると、276×0.8=220.8メートル…」

「…

予想通り、大規模な火砕流ですね!!

しかし、先ほどの結論で、高さ30メートルから40メートルの防壁で、重い岩石や溶岩などを防げるはずですから、大丈夫です!!」


彼女は、虹色の瞳で、この星を覆う純白の氷を見ながら、言った。


「スウ、ゴル、ナー山脈以外の方角に拡がって行く、プル、ンケ、ルム、ベズの火砕流は、地球の火砕流よりも、はるかに大規模なものになるけど、高さ30メートルの防壁を、出来るだけ早く造って、40メートルまで高くすれば、重い岩石や溶岩などは、防げるのね!!」



星の特徴を知れば…


星の個性を知れば…


彼女は、宇宙に存在するいろんな星を思い浮かべながら、訊いた。


「プル、ンケ、ルム、ベズで起きると想定した巨大噴火によって発生する火砕流は、惑星全域に拡がったあと、どうなるのかしら?」

「…

正確な予測は、やはりコンピューターシミュレーションの結果を待たなければならないでしょうが、ある程度の推測は、我々にも出来そうですね…」

「…

地球では、太平洋を渡って来た火砕流は、ハワイを通過した辺りで、質量とエネルギーがゼロになって、終息した。

大西洋を渡った火砕流は、ヨーロッパとアフリカに上陸したけど、重い岩石や溶岩などを失っていたから、威力は弱まっていて、東ヨーロッパと、アフリカ大陸の途中で、質量とエネルギーがゼロになって、終息したね…」

「…プル、ンケ、ルム、ベズでは、海が氷に覆われていて、火砕流から、重い岩石や溶岩などが海に吸収されないから、地球よりも、質量とエネルギーを保ったまま、星の裏側まで、火砕流が到達してしまうのね…?」

「…

まず、火口から西の方角に拡がる火砕流について、考えてみましょう。

スウ、ゴル、ナー山脈を越えて、重い岩石や溶岩などを失った火砕流は、西海岸では、質量とエネルギーが39.7%で、高さ120メートルと予想しました。

さらに西に進んで、灼熱ノ岩流ルル国では、104.2メートル、熱キ水出ル国では、88メートルと予想しました。」

「…

質量とエネルギーは、それぞれ、104.2÷300≒34.7%と、88÷300≒29.3%だね…」

「…

ほぼ5%ごと、質量とエネルギーが減るのね…!!

とすると、火口から星を半周した、インド洋の辺りでは、どれぐらいの火砕流になるのかしら?」

「…

直線距離では、ほぼ同じようですが、地球で言うところの、東南アジア諸国を通過しますから、抵抗力は、限リ無キ氷洋よりも上がって、火砕流が失う質量とエネルギーも、増えることになるでしょうね…」

「…

東シナ海とインド洋の間は、マラッカ海峡のような細い海しか無いから、抵抗力は増えて、失われる質量とエネルギーは、5%ほど増えて、10%ぐらいになるかもしれないね…」

「…

とすると、インド洋に到達した時の火砕流の質量とエネルギーは、29.3-10=19.3%ぐらいになるのね?!」

「…

火砕流の高さは、300×0.193=57.9メートルと予想出来ますね!!」

「…

次は、火口から東の方角に拡がって行く火砕流について考えよう。

東海岸での、火砕流の質量とエネルギーは、92%で、高さは、276メートルと予想したね…」

「…

引キ裂カレル大地ノ国では、高さ220.8メートルだから、質量とエネルギーは、220.8÷300=73.6%ね…!!」

「…

引キ裂カレル大地ノ国から、インド洋までの間には、ユーラシア大陸とアフリカ大陸の、山岳地なども含む、さまざまな地形が、立ち塞がっていますから、抵抗力は、相当大きいでしょうね…」

「…

地中海と紅海を抜けるルートは、抵抗力は低そうだけど、海峡が狭いから、そこを通過する質量とエネルギーは、比率的には、僅かだろうね…」

「アフリカ南端と南極大陸の間を抜けるルートも、比率的には、少なそうね…

遠回りになるし…」

「…

地形が複雑なので、カンになりますが、抵抗力を見積もると、スウ、ゴル、ナー山脈と同じ17.5くらいはありそうな気がします…」

「…

少なくとも、同じくらいはありそうだね…

距離も遠いから、抵抗力は、少し増えるかも…

20くらいかな…?」

「…

もっとあるんじゃないかしら?

アルプス山脈やヒマラヤ山脈は、通れないでしょうから…

25はありそうね…」

「…

平均すると62.5÷3≒20.8ですね!!

これに、大気からの抵抗力1を加えると、21.8ですね!!」

「…

引キ裂カレル大地ノ国とインド洋の二点間と距離が近い、灼熱ノ岩流ルル国と熱キ水出ル国の間と比較して、火砕流が失う質量とエネルギーを予想してみよう。

灼熱ノ岩流ルル国と熱キ水出ル国の間の、大気からの抵抗力は1、氷からの抵抗力は0.1だから、抵抗力の合計は、1.1だ。

引キ裂カレル大地ノ国とインド洋の間の抵抗力の合計は、21.8だ。

抵抗力の比率は、21.8÷1.1≒20倍くらいだね…

灼熱ノ岩流ルル国から熱キ水出ル国まで進む間に、火砕流が失う質量とエネルギーは、34.7-29.3=5.4%だね…

とすると、引キ裂カレル大地ノ国からインド洋まで進む間に、火砕流が失う質量とエネルギーは、5.4×20=108%…?」

「…

どういうこと…?」

「…

引キ裂カレル大地ノ国での火砕流の質量とエネルギーは、73.6%ですから、108%の質量とエネルギーを失うと、73.6-108=-26.4%となりますね…?」

「…

負の質量とエネルギー…?」

「…

ちゃんと説明して頂戴!!」

「…

思考実験ですから…

落ち着いて…」

「…

途中で、質量とエネルギーが、ゼロになるんだ…!!

火砕流は、インド洋まで、到達出来ないんだ!!

引キ裂カレル氷洋を渡った火砕流は!!」


彼女は、虹色の瞳に、驚きの表情を浮かべて、言った。


「プル、ンケ、ルム、ベズの火砕流は、限リ無キ氷洋を渡ったものは、地球で言うところのインド洋まで到達するけど、引キ裂カレル氷洋を渡ったものは、ユーラシア大陸とアフリカ大陸に阻まれて、インド洋には到達出来ない可能性があるのね!!」



星のユニークなところを見つければ…


星のキャラクターを見つければ…


彼女は、宇宙に存在するはずの、まだ見ぬ、星々の世界を想像しながら、訊いた。


「プル、ンケ、ルム、ベズの火砕流は、火口から北や南の方角に進むと、どうなるのかしら?」

「火口で発生した火砕流は、360度全ての方向に、同心円状に拡がって行くことになるでしょう。

もし、この星が、凹凸の全く無い、真球であれば、惑星の裏側で、全ての方向からやって来た、同じ規模の火砕流が、互いに衝突するはずです。

しかし、現実には、大陸の山岳地などのさまざまな地形の変化があるので、火砕流が進む方向によって、地表から受ける抵抗力が違いますから、火砕流の質量とエネルギーも、それぞれ、変化して、さまざまな規模の火砕流となって、裏側の衝突点に到達することになるでしょうね…」

「…

精度の高い予測は、コンピューターシミュレーションに頼らなければならないだろうけど、大まかな予想なら、僕たちでも出来ると思う…」

「じゃ、予想してみて頂戴!!」

「…

南北のルートについて考える前に、東西のルートの火砕流について、予想の結果をまとめておきたいのですが…?」

「そうだね。

補足したいこともあるし…」

「…

まとめと補足?

どんなこと?」

「火口から東の方角に拡がった火砕流は、インド洋には到達しない可能性がありますが、小規模ながらも、到達する可能性もあります。」

「…補足したいのは、それだね!!

思考実験は、物理現象の全体的な、あるいは、大まかな予想をするのに、とても役立つけど、現象の細かいディテールを予測することは難しいんだ。

先ほどの思考実験によって、火口から東の方角に拡がった火砕流の、大まかな予想は、明らかになったね。

引キ裂カレル氷洋を渡った火砕流は、ユーラシア大陸とアフリカ大陸に阻まれて、インド洋には到達しない可能性が高い。

しかし、地中海と紅海を抜けるルートや、アフリカ南端と南極大陸の間を迂回してくるルートについて考えると、火砕流は、質量とエネルギーを失いながらも、インド洋まで到達する可能性があることがわかる。

このふたつのルートを通る火砕流こそが、思考実験では予想出来なかったディテールなんだ…」

「…

じゃ、火口から東の方角に拡がった火砕流がインド洋まで到達した場合についても、考える必要があるのね…?」

「…

仮に、火口から東の方角に拡がった火砕流が、インド洋まで到達しても、その質量とエネルギーは、ほとんど失なわれて、とても小規模なものになるはずです…」

「…

多めに見積もっても、5%以下の質量とエネルギーだと思う…

火口から西の方角に拡がった火砕流は、19.3%の質量とエネルギーを持って、インド洋に到達することになるから、ふたつの火砕流が衝突すると、打ち消し合って、おそらく、14%以上の質量とエネルギーを持った火砕流が、衝突点を通過して、西の方角に向かって、さらに進んで行くことになるだろうね…」

「…

ということは、火口から東の方角に拡がった火砕流は、インド洋の衝突点で、消滅するのね…?」

「…

つまり、仮に、火口から東の方角に拡がった火砕流が、インド洋まで到達しても、反対方向から来た火砕流によって、打ち消されるので、インド洋まで到達しなかった場合と、同じような結果になるでしょうね…」

「…

仮に、火口から東の方角に拡がった火砕流が、インド洋に到達する前に、途中で、質量とエネルギーがゼロになって、終息すると…

火口から西の方角に拡がって、インド洋の衝突点に到達した火砕流は、19.3%の質量とエネルギーを持ったまま、さらに西の方角に進んで行くことになるね…

だから、火口から東の方角に拡がった火砕流が、インド洋に到達した場合も、到達しなかった場合も、結果的には、同じような現象になるね…」

「…

どんな結果になるの?」

「火口から東の方角に拡がった火砕流が、5%の質量とエネルギーを持って、インド洋の衝突点に到達した場合は、そこで消滅して、反対方向から来た火砕流が、14.3%の質量とエネルギーを持って、西の方角に進んで、インド大陸とアフリカ大陸の東岸に、上陸することになるでしょうね…」

「…

火口から東の方角に拡がった火砕流が、インド洋に到達する前に、消滅した場合も、同じ現象になるね…

ただ、衝突点から西の方角に進んで行く火砕流の質量とエネルギーが、19.3%になる点が、違うけど…

どちらの場合も、もちろん、スウ、ゴル、ナー山脈を越えて来た火砕流だから、重い岩石や溶岩などを含まないし、質量とエネルギーを多く失って、弱まっているから、インドやアフリカの居住地の人たちも、高さ15メートルの防壁を造っていれば、大丈夫だね!!」

「…

火口から西の方角に拡がった火砕流は、インド大陸とアフリカ大陸の東岸に上陸したあと、終息するのね…?」

「…

それ以上、拡がって行く質量とエネルギーは、無いでしょう…」

「…

それが、まとめだね!!

東西の方角に拡がった火砕流は、最後は、西の方角に向かう火砕流だけが、インド大陸とアフリカ大陸に上陸したあと、消滅することになるね…!!」


彼女は、虹色の瞳で、納得したように頷きながら、言った。


「プル、ンケ、ルム、ベズの火砕流は、火口から東西の方角に拡がったものについては、火口から東の方角に拡がった火砕流が、インド洋の衝突点まで到達する場合と、そこに到る前に消滅する場合の、どちらの場合も、西の方角に向かう火砕流だけが残って、インド大陸とアフリカ大陸の東岸に上陸して、終息するのね!!」



星の心の動きを知れば…


星の波うつ感情を知れば…


彼女は、宇宙の星々の、色とりどりの輝きを想像しながら、訊いた。


「プル、ンケ、ルム、ベズの火口から、南北の方角に拡がる火砕流は、どうなるのかしら?」

「まず、火口から北の方角に拡がる火砕流について考えましょう。

地球で発生した火砕流は、北の方角に進んだものは、どこまで到達したのですか?」

「…

地球では、北の方角に拡がった火砕流は、カナダのほぼ全域を襲って、北極海に進んだ。

一部の海岸線では、重い岩石や溶岩などが海に吸収されたけど、ほとんどは、凍った北極海の上を進んで、北極点を通過し、シベリアやスカンジナビア半島などに上陸した。

ロシアと北欧は、凍結した北極海に接する広い範囲で、重い岩石や溶岩などを含む火砕流に襲われた。

北海に出た火砕流は、重い岩石や溶岩などを海に奪われて、質量とエネルギーを大幅に失って、東欧と西ヨーロッパに上陸して、終息した。

この地域では、火砕流は、ずいぶん弱まっていたから、大西洋を渡って来た火砕流と同じように、避難していた人たちは、ほとんどみんな助かった。

ロシアを南下した火砕流は、モンゴル高原に差し掛かったところで、質量とエネルギーがゼロになって、終息した…」

「…

重い岩石や溶岩などを含む火砕流に襲われた地域では、避難していた人たちも、大勢、亡くなったのよね…」

「…

地上の建物に避難していた人たちは、頑丈な建物でも、重い岩石や溶岩などの直撃によって、窓や壁などが破壊され、火砕流が建物の中に流れ込んで、多くの方が、亡くなったのですね…」

「…

地下に避難していた人たちは、火砕流の直撃は、生き延びたけど、地上に出ようとしても、火砕流の残留物が、出口の上や外に、大量に堆積していて、自力で出られた人たちは、わずかだった…

外からの救助は、可能な限り、行われたけど、国中が、そして、世界中が、同時に、火砕流に襲われたから、救助を必要としている人たちが、あまりにも多過ぎた…

そして、火山灰の地獄が、何もかも、覆い隠してしまった…」

「…

地下に避難した人たちの多くが、地上に出られないまま、水や、食糧や、酸素が無くなって…」

「…

地球の避難先の出入口や通気口には、火砕流を防ぐ防壁は、無かったのですね…?」

「…

無かった…」

「…

防壁さえあれば…

どれほどの人たちが、助かったかしら…?」

「…

なぜ、防壁を造らなかったのですか?」

「…

知らなかったんだ…

防壁が必要だってことを…

火砕流が、襲って来る可能性があることを…」


彼女は、虹色の瞳に、泪をいっぱい溜めて、言った。


「重い岩石や溶岩などを含む火砕流に襲われた場所では、たとえ地下に避難しても、地下からの出口や通気口が、火砕流を防ぐ防壁に守られていなければ、自力では地上に出られなくなって、遭難する恐れがあるのね!!」

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