第23話

星が生命だったら…


星とコミュニケーションが取れたら…


彼女は、導き出された答えに震撼しながら、訊いた。


「地球で発生した火砕流と、プル、ンケ、ルム、ベズで発生すると想定した火砕流の、2つめの相違点を考慮に入れると、被害範囲は、どれくらいになるのかしら?」

「先ほどの思考実験では、火砕流が海の上を拡がって、灼熱ノ岩流ルル国に到達するまでの間の、質量とエネルギーの消費量を、地球での消費量と同じ値の、30%と想定しました。

地球では、液体の状態を保った、波打つ海面の上を、火砕流が拡がりました。

火砕流は、波打つ海面との摩擦を繰り返しながら、質量とエネルギーを海に奪われつつ、進んで行ったことになります。

2つめの相違点を考慮に入れて、思考実験をやり直すと、波打つ海面の代わりに、ぶ厚い氷の平原の上を、火砕流が拡がることになります。」

「…

氷の上を移動する物質は、とても小さな摩擦抵抗しか受けないから、奪われる質量とエネルギーは、波打つ海に比べて、大幅に減るだろうね…」

「…

どれくらい減るの?」

「正確な値を知るには、コンピューターシミュレーションが必要でしょうね…」

「…

想像してみよう…

火砕流が、波打つ海の上を拡がる様子と…

火砕流が、まっ平らな氷の上を拡がる様子と…


彼女は、窓の外に広がる、白い氷洋を見つめた。


「…

火砕流から奪われる物質とエネルギーは、10分の1以下になりそうな気がするわ…」

「…

もっと減るかもしれませんね…」

「…

僕も、10分の1以下になると思う…

「とすると、火砕流が、灼熱ノ岩流ルル国に到達するまでの間の、物質とエネルギーの消費量は、30%の10分の1の、3%…?」

「…

多くても、ですね…

シミュレーションの結果だと、もっと少なくなる可能性がありますね…」

「…

火砕流が、灼熱ノ岩流ルル国に到達する時の、質量とエネルギーは、100-3=97%になるね…」

「…

ほんの少ししか減らないの…?」

「…

ある意味、理想的な地形なのですね。

物体が、水平に地表を移動する場合の…」

「…

スケートリンクみたいなものだね…

わずかな力で、スイスイ滑って行ってしまうんだ…!!」

「…

熱キ水出ル国は、どうなるの…?」

「…

あぁ…

なんてことだ…」

「…

火砕流が、熱キ水出ル国に到達する時の、質量とエネルギーは、97-3=94%になるね…」

「…

もちろん、止まらないのね…

火砕流は、どこまで、行くの?」

「…

インド洋まで行っても、90%ほどはありそうだね…

つまり、イエローストーンから…黄色キ大地ノ国から、この星の裏側まで行っても、西海岸を通過した際の火砕流の、1割ほどしか、質量とエネルギーを失わないことになるね…

この星の全域が、灼熱の火砕流に襲われることになるね…」

「…

そんな…」

「…

標高の高い山岳地などは、火砕流も上がってこれないでしょうが…

標高の低いところは、全て、火砕流に覆われる可能性が高いですね…」

「…

限リ無キ氷洋について思考実験をしたけど、引キ裂カレル氷洋でも、同じような結果になるだろうから、火砕流は、ヨーロッパやアフリカやアジアや、北極や、南極にも、拡がって行くだろうね…」

「…

そのあと、どうなるの?」

「おそらく、インド洋の辺りで、四方八方から集まって来た火砕流同士が、衝突するでしょう。」

「…

巨視的な現象としては、津波に似て来るかもしれない…

衝突したあと、反射して、また、同心円状に、氷の上を拡がって行く可能性があるね…」


彼女は、虹色の瞳を、不安に曇らせながら、言った。


「プル、ンケ、ルム、ベズで起きる火砕流は、地球で発生した火砕流よりも、はるかに大規模なのね!!」



星に、何を話せばいいのだろう?


星に、何を願えばいいのだろう?


彼女は、想像を絶する推論結果に、慄然としながら、訊いた。


「プル、ンケ、ルム、ベズで発生すると想定した火砕流による被害を、最小限に食い止めるには、どうしたらいいのかしら?」

「地球では、火砕流の被害を受けたのは、北アメリカ大陸と、中央アメリカと、南米のアマゾン川流域と、北極圏と、ヨーロッパと、ロシアと、アフリカ大陸の西部と、ハワイ諸島と、アリューシャン列島の島々などでした。

それ以外の地域、すなわち、極東アジア、東南アジア、中央アジア、オーストラリア、ニュージーランド、インド、中東、アフリカ大陸の中央部と東部、南極は、火砕流による被害を免れたのです。

しかし、プル、ンケ、ルム、ベズでは、標高の高い山岳地や高原地帯など以外の全ての場所が、火砕流による被害を受けることになります。」

「…

しかも、地球のハワイを襲った火砕流よりも、はるかに大規模で、温度の高い火砕流が、世界中を襲うことになるね…」

「…

地球の火砕流と、プル、ンケ、ルム、ベズの火砕流の、相違点として、3つの違いについて考えたけど、他には、何か違うところはないのかしら?」

「…

2つ、違うところがあるようですね…

気象の違いと、居住地の違いです。」

「…

地球の気象と、プル、ンケ、ルム、ベズの気象は、ずいぶん違うからね…

地球では、大気中に、水蒸気や、液体の状態の水、つまり、雨や雲や霧や、固体の状態の水、つまり、雪などが、大量に存在していて、エネルギーを得たり、放出したりして、上昇したり、下降したり、気体と液体と固体の状態を、それぞれ遷移して、さまざまな気象現象を起こしている。

雨や、雪や、雷や、台風などの嵐や、竜巻などの強風など…

プル、ンケ、ルム、ベズでは、地熱湧出地の上空に、雲が発生して、雪が降ることがあるくらいで、ほとんど、晴天が、ずっと続いている。地球では、いろんな気象現象が、火砕流のエネルギーを奪って、そのぶん、被害範囲を小さくしてくれたはずだ。」

「…

プル、ンケ、ルム、ベズでは、火砕流のエネルギーを奪うような、気象現象が無いのね…?」

「我々の星では、台風やハリケーンのような嵐は、発生しません。」

「…

大気の影響を忘れていたね…!!

火砕流は、気体と固体の混合物だから、気体の部分は、大気の影響を、大きく受けるはずだ…」

「…

たとえば?」

「もし、火砕流の進行方向に、台風が発生していたら、火砕流から、大量のエネルギーが、奪われて、場合によっては、火砕流が、霧散して、消滅してしまうことがあるかもしれません…!!」

「…

そういった場合についても考えるべきだけど、まず、先ほどの思考実験を、やり直す必要があると思う…

大気が、火砕流に及ぼす抵抗力を、考えに入れてなかったんだ…!!」

「…

抵抗力?」

「…

確かに、火砕流は、大気を押しのけながら、拡がって行きますから、大気からの抵抗力は、無視出来ませんね…」

「…

うっかりしてた!!

海と氷の違いに気を取られて、大気のことを、見落としていたよ…!!」

「…

わかったわ。

先ほどの思考実験を、やり直してみて頂戴!!」

「…

火砕流に及ぼされる抵抗力は、大気からの抵抗力と、海からの抵抗力と、氷からの抵抗力の3つになります。

地球では、大気からの抵抗力と、海からの抵抗力が、火砕流に及びます。

プル、ンケ、ルム、ベズでは、大気からの抵抗力と、氷からの抵抗力が、火砕流に及びます。」

「…

抵抗力の比率を推測しよう。

地球での、大気からの抵抗力と、海からの抵抗力の比率は…

やっぱり、とても複雑だから、正確な値は、コンピューターシミュレーションでないと、わかりそうもないね…」

「…

そうみたいね…

じゃ、カンでいいわ!!」

「…

カンですね…?

う~ん…」

「…

五分五分かなぁ?

火砕流が受ける、大気からの抵抗力と、海からの抵抗力は、同じくらいと、想定してみてもいいかもしれない…」

「じゃ、比率は、1対1ね?!

プル、ンケ、ルム、ベズでの、大気からの抵抗力と、氷からの抵抗力の比率は?」

「氷からの抵抗力は、海からの抵抗力の10分の1以下と、先ほどの思考実験で、想定しましたから、0.1と見なせますね…

したがって、1対0.1となりますね。」

「地球の大気からの抵抗力は、気象の違いによって、プル、ンケ、ルム、ベズでの大気からの抵抗力よりも、増すことになるだろうから、1よりも大きくしたほうがいいね。

火砕流がハワイに到達するまでの間の太平洋の気象は、台風などの特別な現象は、無かったから、雨が降った範囲があったくらいだろうから、1から増やして、1.5ぐらいかな?」

「…

地球では、大気からの抵抗力と、海からの抵抗力の比率は、1.5対1ね…?」

「地球での、火砕流が受ける、抵抗力の合計は、1.5 +1 =2.5ですね。

プル、ンケ、ルム、ベズでの、火砕流が受ける、抵抗力の合計は、1 +0.1 =1.1ですね。」

「…

とすると、プル、ンケ、ルム、ベズでは、地球での抵抗力の1.1÷2.5=44%の抵抗力が、火砕流に及ぶことになるね…」

「…

灼熱ノ岩流ルル国に火砕流が到達するまでに、火砕流が失う、質量とエネルギーは?」

「…

30%×0.44=13.2%になりますね。」

「とすると、灼熱ノ岩流ルル国に火砕流が到達する時の、質量とエネルギーは、100-13.2=86.8%になるね…」

「…

先ほどの思考実験の97%から、10%ほど減ったのね…

それでも、大規模な火砕流であることに、変わりは無いわね…!!」

「…

熱キ水出ル国に火砕流が到達する時の質量とエネルギーは、86.8-13.2=73.6%になりますね…」

「…

インド洋に火砕流が到達する時の質量とエネルギーは、73.6-13.2≒60%ほどになるね…」


彼女は、虹色の瞳をキラキラさせて、納得したように、頷いて、言った。


「大気からの抵抗力を考慮しても、プル、ンケ、ルム、ベズで発生する火砕流は、地球の火砕流よりも、ずっと大規模になるのね!!」



星は、何を欲しているのだろう?


星は、何を望んでいるのだろう?


彼女は、古里の街並みを思い浮かべたような、遠い目をして、訊いた。


「地球とプル、ンケ、ルム、ベズの居住地の違いは、火砕流による被害に、どんな影響をもたらすのかしら?」

「約40年前の巨大噴火時の地球では、都市や町や村などの人間の居住地は、ほとんどが、地上にありました。

地下街や地下室のある住居などもありましたが、比率的には、ごくわずかでした。

プル、ンケ、ルム、ベズでは、地上にあるのは、農耕地と養殖施設と地熱発電所と太陽光発電施設と大陸間鉄道の一部の駅と軌道などだけで、人間の居住地は、全て、地中にあります。」

「この星の地上は、寒過ぎるから、この星の人たちは、昔から、断熱性の高い土や岩で覆われた地下に、住んで来たんだね…」

「温泉地や火山などの地熱湧出地には、地上に住めるくらい暖かいところもあるけど、そういった場所には、ジャガイモなどの農耕地が作られているのね…?」

「住居は、地下で済みますが、ジャガイモなどの農作物には、太陽の光が必要ですから、地上の温暖な場所は、農耕地に充てられています。」

「…

地球では、火砕流に襲われた居住地の建物は、大きな被害を受けてしまった…」

「…

地下街や地下鉄の施設や地下室などに避難していた人たちは…?」

「…

地下なら、火砕流の被害を受けずに済むはずです…!!」

「…

イエローストーンでは、巨大な火口が出来て、何もかもが、溶岩に飲み込まれた。

火口から、半径200キロメートルほどの範囲は、あふれ出た溶岩に覆われた。

その範囲では、地下に避難していた人たちは、地上に出られないまま、亡くなったはずだ…

その周りの、火砕流に襲われた範囲では、地下に避難した人たちの多くが、火砕流そのものでは、死なずに済んだはずだ…

でも、助かったのは、電話や通信回線や無線機などで、運良く外部と連絡が取れた、ごく一部の人たちだけだった…

地下に避難したまま、外界との通信手段を失った人たちは、地上の状況が、わからなくなったはずだ…

火砕流に襲われた範囲では、火砕流がおさまったあとも、高温の残留物が、大量に堆積していて、温度が十分に下がるまでは、地上に出られない。

外界と通信出来た地下の避難先では、地上の火砕流の残留物などの情報を、主にアメリカ軍から、得ることが出来たので、火砕流の残留物の温度が十分に下がるまで、地上に出ようとはせずに、救助を待った。

しかし、外界との通信手段を失った地下の避難先では、助けを呼ぶことも出来ないまま、地上の温度もわからないまま、危険を犯して、地上に出ようとするしかなかったはずだ…

熱すぎて、出られなかった人たちもいるだろう…

温度は十分に下がっていても、堆積した残留物に埋もれて、出られなかった人たちもいるだろう…

ようやく、地上に出ても、そこには、大量の火山灰が、降り積もり続けていたはずだ…

密閉性の高いマスクとゴーグルが無ければ、息をすることも出来ない、火山灰の地獄が、広がっていたはずだ…」


彼女は、虹色の瞳を、泪でいっぱいにして、言った。


「地下に避難すれば、火砕流の直接的な被害は、防げるけど、外界との通信手段を失ってはいけないのね!!」



星の秘密を知れたら…


星の奥底を知れたら…


彼女は、この星の街並みに思いを馳せるように、視線をさ迷わせながら、訊いた。


「プル、ンケ、ルム、ベズでは、発生すると想定した火砕流によって、居住地に、どんな被害が及ぶのかしら?」

「この星では、人間の居住地は、全て、地中にあるので、火砕流による直接的な被害は、被らずに済むはずです。」

「…

地球風に言うと、地下シェルターに住んでいるようなものだね…

大昔から、ずっと…」

「…

寒さを避けるために、そうせざるを得なかったんだけど…

寒さだけはでなく、火砕流からも、人々を守ってくれるのね!!」

「…

火砕流だけではなく、火山灰からも、人々を守ってくれます。

地下の居住地は…!!」

「…

地球とは大違いだ…

地球でも、そうしていれば…」

「…

約40年前の巨大噴火のあと、新たに造られた居住地は、ほとんどが、地中か、海底に建設されたから…

地球でも…」

「…

地球では、火砕流の被害を受けなかった国々で、降り積もった火山灰を取り除いて、地上の古い街並みが、復活したところも多いのですね!!」

「…

日本だと、東京とかね…

イエローストーン火山は、今も、断続的に、小規模な噴火を続けているから、火山灰を避けるために、シェルタリングスカイのドームで、東京を覆っているけど…

シェルタリングスカイでは、火砕流は防げないからね…」

「日本でも、新しい住宅やお店は、みんな、地下街に建てられているわね!!」

「…

『無限分岐宇宙』は、復活した古い街にある、噴火前に建てられた住宅を、オーナーが買い取って、喫茶店に改装したものなので、もちろん、地上にあるのです。」

「…

オーナーさんは、なぜ、あそこに、喫茶店を開いたんだろう?

地下街にテナントとして新しく開店したほうが、お客さんも多いはずなのに…?」

「…

ホントね…

もしかして、この星への通り道と、何か関係があるのかしら?」

「通り道は、オーナーが喫茶店を開いたあとに、出現したのです。」

「…

オーナーさんに訊ける機会があったら、訊いてみよう。

話を元に戻そう!!

プル、ンケ、ルム、ベズでは、火砕流によって、居住地には、被害は出ないはずだね…」

「…

黄色キ大地ノ国の居住地はどうなるの?」

「黄色キ大地ノ国の居住地も国土も、火山とその周辺の地熱湧出地にあります。

巨大噴火が起きると、居住地と国土そのものが、巨大な火口と、溶岩に飲み込まれるでしょう…」

「…

黄色キ大地ノ国は、64万年前に巨大噴火した、イエローストーン火山の真上にあるんだ…

地下都市全体が、上昇して来るマグマに、飲み込まれてしまうだろうね…」

「…

黄色キ大地ノ国では、地下も、安全では無いのね?!」

「巨大噴火が起きると、黄色キ大地ノ国に、安全な場所は、無くなるでしょう…」

「…

黄色キ大地ノ国そのものが、巨大な火口に飲み込まれてしまう可能性が高いと思う…」


彼女は、虹色の瞳を輝かせて、まなじりを決して、未来を見据えながら、言った。


「プル、ンケ、ルム、ベズでは、黄色キ大地ノ国は、国土全体が溶岩に飲み込まれる可能性が高いけど、黄色キ大地ノ国以外の地域では、居住地は、火砕流による直接的な被害を受けずに済むのね!!」



星の体の奥底まで潜れたら…


星の心の奥底まで潜れたら…


彼女は、窓の外に広がる白い氷洋を見ながら、訊いた。


「プル、ンケ、ルム、ベズでは、発生すると想定した火砕流によって、居住地以外の場所に、どんな被害が及ぶのかしら?」

「この星の地上には、農耕地と養殖施設と地熱発電所と太陽光発電施設と大陸間鉄道の一部の駅と軌道があります。

火砕流が発生すると、これらは、全て、破壊されて、利用出来なくなるでしょう。」

「…

地球でも、火砕流の被害範囲では、都市や町や村などの居住地以外にも、ありとあらゆる場所が、火砕流によって破壊されて、残留物で埋め尽くされて、さらにその上に、火山灰が降り積もって、全く利用出来なくなった。

ハワイでは、火砕流のエネルギーが弱まっていたこともあって、地下に避難していた人たちと、アメリカ軍によって、港湾などの復旧作業が行われた。

そこを拠点として、アメリカ本土で、生き残った人たちの救出活動が行われた。

アメリカ本土は、長期間、放棄されたままだったけど、数年前から、海辺の港湾都市の港の復旧活動が始まって、少しずつ、人々が住み始めた。」

「…

火砕流の被害を受けた場所を、再び利用出来るようにするには、大変な労力と、物資とエネルギーと、お金と、時間がかかるのね…」

「農耕地と養殖施設が破壊されると、この星の食料生産力の45%ほどが、失われることになります。」

「…

45%?

あとの55%は?」

「…

ほとんど半分じゃない?!

食べ物が、足りなくなるわ…!!」

「地下農場と野菜工場と果物工場での食料生産が、45%ほどです。

残りの10%ほどは、深海での潜水ロボット艇による底引き網漁の収穫です。」

「…野菜工場と果物工場も、地下にあるんだね?」

「…

地下での食料生産が、地上での食料生産と、同じくらいあるのね?!」

「お二方のおっしゃる通りです。

野菜工場と果物工場も、地下にあります。

産業革命で、電灯が発明されてから、電灯の灯りで植物を育てる地下農場が作られるようになりました。

地上では、地熱湧出地にしか、農場が作れませんが、地下では、いくらでも、農場が増やせるのです。

地中の空間を掘り拡げて、電力で、灯りと空調を維持すれば…」

「…

農作物は、光合成をして、二酸化炭素を吸収して、酸素を出してくれるから、地下に住む人たちが呼吸する空気も、作ってくれるんだね!!」

「…

素晴らしいわ!!

でも、そのためには、電力が必要なのね…」

「その通りです。

しかし、地上の地熱発電所と、太陽光発電施設が破壊されると、この星の総発電力の30%ほどが失われることになります。」

「…

30%?

あとの70%は、地上には無い発電所なのかい?」

「…

地下にも発電所があるのかしら?

確か、原子力発電もあるのよね?」

「おっしゃる通りです。

地熱発電所による発電力が5%、火力発電所による発電力が30%、原子力発電所による発電力が35%ほどです。」

「…

火力発電所も、原子力発電所も、地下にあるんだね?!」

「地熱発電所が地下にもあるの?」

「地熱発電は、発電機が発明されて、すぐに利用され始めました。

昔からある発電所がほとんどで、それらは、地上に作られました。

しかし、最近新設された地熱発電所は、大気に奪われる熱エネルギーのロスを最小限にするために、地下に造られました。

その結果、地上にある地熱発電所よりも、発電効率が、15%ほど向上しました。

火力発電所と原子力発電所も、大気に奪われる熱エネルギーのロスを最小限にするために、地下に造られました。

ただ、火力発電には、酸素が必要なので、地上に、酸素を取り込む吸気口と、二酸化炭素を排出する排気口を設置して、石油や天然ガスなどの化石燃料を燃やして、発電しています。」

「…

なるほどね…

地下に発電所を造ったほうが、熱エネルギーのロスが減って、発電効率がよくなるんだね!!」

「あとは、大陸間鉄道の一部の駅と軌道ね…

これらも、火砕流によって破壊されてしまうのね…?」

「…

何らかの対策を講じなければ、地上と氷洋にある駅と軌道は、全て破壊されて、残留物や火山灰に埋もれて、利用出来なくなるでしょう…」

「…

黄色キ大地ノ国の駅は、地下都市にあったけど、灼熱ノ岩流ルル国の駅は、地下都市から離れた、海の上の氷洋にあったね!!」

「…

列車は、熱キ水出ル国の駅やトンネルに、退避させれば、全部無事でしょうけど…」

「火砕流発生後は、軌道が復旧するまでの間、大陸間の移動手段が、自動車などに限られてしまいますね…」

「…

どこもかしこも、火砕流の残留物と火山灰が積もっているから、わずかな距離しか、歩いては行けないね…」

「…

火山灰の積もった場所を走れる自動車って?」

「…

氷上車なら、キャタピラーで進むので、ある程度は、走れるはずですが…」

「…

積もった火山灰が、あまりにも深いと、車体の重さで、沈んでしまって、遭難してしまうかもしれない…!!」

「…

火山灰に沈まないように、とても大きなキャタピラーを付けた車が、必要かもしれないわね…?」

「…

その期間は、大陸間の移動は出来ないと、考えておいた方がよさそうですね…」

「…地球では、自衛隊やアメリカ軍などの病院船などの船が、海を渡って、救助活動や、必要な物質の輸送を行ったけど、この星には、船は無いからね…」

「…

オーナーさんも、自衛隊の病院船に救助されたって言ってたわね…」

「…

それは、私は、初耳でした…

オーナーは、当時のことを、あまり話して下さらないので…」

「…

日本は、火砕流の被害は受けなかったけど、巨大噴火の空振、つまり、大気中を伝わる衝撃波と、地震によって、日本中で、建物や送電線や道路などのインフラが被害を受けて、大量の帰宅困難者が出た…

その混乱の中で、オーナーさんは、ご家族とはぐれて、怪我をして、気を失って…」

「…

気が付いたら、病院船のベッドに寝ていたのね…」

「…私も、初めて聞いたんです…」

「…

船があれば…

そうだ!!

潜水艇があった!!」

「…

潜水ロボット艇のこと?」

「…

深海の底引き網漁を行う?」

「…

潜水ロボット艇なら、氷の下の海中を進んで、大陸間を移動出来る!!」


彼女は、虹色の瞳を、煌めかせて、言った。


「氷の下の海の中を進めば、安全に、大陸間を移動出来るのね!!」

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