第21話
火山噴出物の量のわずかな違いで、凍りついたプル、ンケ、ルム、ベズと、凍らずに済んだ地球…
そして、今、地下深くのマントル対流やマグマ溜まりや地殻の状態などの、わずかな違いで、40年以上ずれた巨大噴火のタイミング…
自然は、気まぐれだ。
残酷なほどに…
彼女は、虹色の泪を溢(こぼ)して、訊いた。
「…
オーナーさん、お力を貸して下さいますか?」
「…
やるわ…
貸すわよ…
私の命…
まるごと…」
とめどなく流れる泪を、拭きもせず、オーナーさんは、言った。
「気まぐれなクソ火山に、思い知らせてやるわ!!
人間を舐めるんじゃないって!!」
星は、生き物の事など、知りもしない。
自分の表面に、小さな生命が生まれて、何十億年も進化を続けて、さまざまな姿形になって、いっぱい増えて、生き続けていることに、気付きもしない。
だから、気まぐれに、巨大噴火を起こして、情け容赦もなく、生き物たちを滅ぼすのだ。
無慈悲な星の上で、私たちは生きている。
彼女は、泪を拭いて、頷きながら、訊いた。
「ありがとうございます!!
オーナーさん!!
今、どちらにいらっしゃるんですか?」
「…
今は、黄色キ大地ノ国にいるわよ。
『無限分岐宇宙』への通り道のあるアパートの近くよ。」
「…
わかりました!!
私たちは、大陸間鉄道の列車に乗って、熱キ水出ル国に向かっているところです。」
「…
熱キ水出ル国?
日本へ?
なぜ?」
「熱キ水出ル国の異世界研究所に招待されたんです。
マスターの紹介で…」
「異世界研究所ね…
当然、そこが出て来るわね…
まあ、そこなら、一応、大丈夫よ。」
「…
オーナーさんも、行かれたことがあるんですか?
異世界研究所に…?」
「もちろん、何度も行ってるわ。
熱キ水出ル国に行ったときは、いろいろ助けてもらってるわ。」
「そうですか!!
じゃ、安心ですね!!」
「…
それよりも、これからどうするかが問題ね…
今から大陸間鉄道に乗っても、1日以上かかるわね…
そちらに着くのに…」
「…
来て下さるんですか?!
熱キ水出ル国に?!」
「行くに決まってるじゃない?!
一緒に戦うんだから!!」
彼女は、泪の跡を拭いながら、オーナーさんに微笑んだ。
「私も、戦います!!
オーナーさんと一緒に!!」
星に、もしも、心があったら…
星と、もしも、話せたら…
彼女は、覚悟を決めて、訊いた。
「オーナーさん、とても大切なお願いがあります。
聞いて頂けますか?」
「…
もちろんよ。
何かしら?」
「…
黄色キ大地ノ国の人たちに、巨大噴火の可能性が高まっていることを伝えて、避難を呼び掛けて欲しいんです!!」
「…
私が…?」
「オーナーさんが、この星に来られてから、何があったのか…
どれほど、この星の人たちの心を、変えたのか…
マスターから聞きました!!」
「…
心…?」
「オーナーさんのお話しなら、みんな、信じてくれるはずです!!」
「…」
「お願いです!!
出来るだけ早く、黄色キ大地ノ国の人たちに、外国に移住してもらわなければならないんです!!
噴火が始まる前に、みんな避難出来るように!!」
オーナーさんは、ニッコリして、言った。
「お安いご用よ!!
すぐに、黄色キ大地ノ国のマスコミの人たちに頼むわ!!
とても大切なことをお知らせしたいから、取材に来て下さいって!!」
彼女は、泪の乾いた顔をほころばせて、言った。
「ありがとうございます!!
オーナーさん!!」
星が、生き物だったら…
星と、コミュニケーションが取れたら…
彼女は、少し不安そうに、訊いた。
「オーナーさん、私たちは、どうすればいいですか?
何かお手伝い出来ることがありますか?」
「…
う~ん…
そうねぇ…」
私は、カード端末に顔を近付けて、言った。
「必要なら、熱キ水出ル国に着いても、すぐに大陸間鉄道に乗って、黄色キ大地ノ国にとって返すことも出来ますよ。」
「…
でも、それでも、おふたりが、こちらに戻られるまでは、今から1日以上かかるでしょ?
一刻も早く、黄色キ大地ノ国の人たちに、避難を呼び掛けたいから、私ひとりで、なんとかやってみるわ!!」
「わかりました!!
宜しくお願いします!!」
「いつでもご連絡下さいね!!
オーナーさん!!」
「記者会見することになると思うけど、予定が決まったら、お知らせするから…」
「はい!!
頑張って下さいね!!」
「頑張って!!
オーナーさん!!」
「頑張るわ~!!
じゃね~!!」
めっちゃ明るい笑顔を、カメラに近付けて、手を振りながら、オーナーさんは、通話を終えた。
とたんに、彼女は、座席から立ち上がり、両手を突き上げて、ピョンピョン飛び跳ねた。
「やった~!!
オーナーさんが、助けてくれるわ!!
オーナーさんが呼び掛ければ、みんな避難してくれるわ!!
きっと!!
みんな助かるわ!!
人間も…
栽培や飼育や養殖してる生き物たちも…
ああ、なんて素敵な人なんでしょ?!
綺麗で…
明るくて…
礼儀正しくて…
思いやりがあって…
大切なもののために、命懸けで、戦う勇気があって…
強くって…
頼りがいがあって…
カッコよくて…
笑顔がめっちゃ可愛くて…
…もう、私、すっかり、オーナーさんのファンになっちゃったわ!!」
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