第15話
この星の人たちは、昔から、地下に住んでいる。
寒さから逃れて生きるための彼らの選択は、この星が、彼らに課そうとしている全く別の苦難からも、彼らを守ってくれるだろう。
彼女は、深呼吸して、マスターに訊いた。
「巨大噴火から、この星の人たちと生き物たちを守るために、どんな対策が考えられているの?」
「黄色キ大地ノ国…皆さんの地球で言うところのイエローストーンは、巨大噴火が起きると、マグマが噴出する巨大な火口になってしまうと考えられているので、そこに住んでいる人々は、噴火が起きる前に避難する必要があります。」
「巨大噴火がいつ起きるか、わかるの?」
「残念ながら、今のところ、正確な噴火時期はわかっていません。」
「僕たちの地球では、40年ほど前に巨大噴火が起きたんだから、この星でも、そう遠くない未来に、巨大噴火が起きると思う。」
「今すぐ巨大噴火が起きても不思議は無いのね?」
「はい。
今の我々には、巨大噴火が、明日起きるのか、1週間後に起きるのか、1ヶ月後に起きるのか、1年後に起きるのか、10年後に起きるのか、100年後に起きるのか、全くわからないのです。」
「僕たちの地球でも、噴火の直前まで、わからなかったね。」
「イエローストーンの地下で、地震が頻発して、マグマが上昇して来ていることがわかってから、3日後に、噴火が始まったのよね…」
「仮に、我々の星でも、3日前に噴火の予知が出来たとしても、黄色キ大地ノ国の人々を避難させるのには、遅すぎます。
全人口の70%以上の人々が、逃げ遅れることになるでしょう。」
「避難って、どうやるの?」
「大陸間鉄道をフル稼働させて、灼熱ノ岩流ルル国や熱キ水出ル国に、人々を避難させる計画です。
引キ裂カレル大地ノ国への路線が開通すれば、そちらへも避難させます。」
「地球では、ハワイ…灼熱ノ岩流ルル国も、火砕流に襲われてしまったんだよ?」
「街は、地下にあるので、火砕流による直接的な被害は、被らずに済むはずです。」
「黄色キ大地ノ国の人々を全員避難させるためには、何日前に噴火が予知出来る必要があるの?」
「大陸間鉄道の輸送可能人数から考えると、13日前までに予知する必要があります。」
「13日か…」
「私たちの地球では、3日前に、ようやく、噴火が差し迫っていることがわかったのよ…
同じことが、この星でも起きたら、避難が間に合わないじゃない?!」
「おっしゃる通りです。
噴火の13日前までに予知するための研究が、世界中の大学や研究機関で行われています。」
彼女は、腕を組んで、しばらく考えていたが、ため息をついて、言った。
「このままじゃいけないわ!!
巨大噴火は、いつ起きるかわからないんだから!!」
私たちの地球では、巨大噴火を予知出来たのは、噴火の3日前だった。
巨大噴火が起きる可能性があることを知っていたのに、巨大噴火への備えをしていた人は、多くは無かった。
何故なのだろう?
おそらく、私たち地球の人間は、巨大噴火を一度も経験したことが無かったから、それに備えようという意欲が起きなかった人が多かったのではないだろうか?
たとえば、地震や津波などの災害は、巨大噴火に比べて、遥かに高い頻度で発生するので、私たち地球の人間も、経験したことがある人が多いので、それらの災害に備えようという意欲を持つ人が多い。
40年ほど前に、巨大噴火を経験した私たちは、誰もが、新たな巨大噴火への備えをするという意欲を持っている。
私たちの地球では、巨大噴火後に作られた全ての街が、地下に作られたり、シェルタリングスカイのドームによって覆われたりして、新たな巨大噴火に備えたものとなっている。
雪の星の人々は、40年ほど前の巨大噴火を経験する前の私たちと同じように、一度も巨大噴火を自ら経験したことが無い。
にもかかわらず、彼らが、巨大噴火に備えようという強い意欲を持っているのは、64万年前の巨大噴火が、彼らの星を凍らせたことを知っているからだろう。
巨大噴火そのものは経験していないが、巨大噴火によって起きた寒冷化を、彼らは、毎日、経験しているのだ。
巨大噴火のような、極めてまれに起きる大規模な災害、低頻度大規模災害を、一度も経験しないまま、それに備えようという意欲を持てるようになれたら、未来は、もっと明るくて、幸多いものになるだろう。
彼女は、迷いの無い表情で、言った。
「黄色キ大地ノ国の人たちと生き物たちを、どうしたら助けられるのかしら?」
「黄色キ大地ノ国の人口は40万人ほどです。大陸間鉄道をフル稼働させて、灼熱ノ岩流ルル国に避難させられる人数は、1日あたり33000人が、今のところ、限度です。」
「だから13日かかるんだね。」
「列車の数は増やせないの?」
「もちろん、可能な限り急いで、新しい車両を製造しています。
しかし、新しい列車を路線に追加するには、3ヶ月はかかります。」
「列車に乗せる人数は、増やせないのかな?」
「15両編成の列車1便の定員は、1500人ですが、定員よりも10%ほど多めに乗せて、食堂車にも乗ってもらうことを考えています。」
「列車は何便あるの?」
「今は、半雪星時間ごとに1便あるので、1日20便です。」
「列車をスピードアップ出来ないかな?」
「安全を考えると、現在の時速500キロメートルほどの最高速度がベストだと思われます。
黄色キ大地ノ国と灼熱ノ岩流ルル国の間を、ほぼ1日で往復出来ます。」
「1日あたり1500×1.1×20=33000人が今の限度なのね…」
「…
だとしたら、人口が、もし99000人なら、3日で避難出来るんだね?」
「…
それは、確かにそうですが…」
「…
そうか!!
あらかじめ人口を減らしておけばいいんだわ!!」
「40万人のうち、301000人の人たちに、出来るだけ早く、他の国に移住してもらって、残った99000人の人たちは、3日の間に、灼熱ノ岩流ルル国に避難させることが出来るね!!」
「事前に移住するのですか?
なるほど…」
彼女は、虹色の瞳を輝かせて、笑った。
「ちょっと強引に思われるかもしれないけど、黄色キ大地ノ国の人たちにも、わかってもらえるはずだわ!!
巨大噴火の可能性があるって、ちゃんと説明すればね!!」
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