第14話

食料も、住める土地も、厳しく限られていたこの星で、人々は、どんな歴史を紡いで来たのだろう?


彼女は、マスターに尋ねた。


「歴史上のエポックメイキングな出来事を教えて頂戴。」

「青銅器が、2万年ほど前から、作られるようになりました。」

「どんなものを作ったの?」

「器や鏡や楽器や装身具や美術品や工具や刃物や武器などです。」

「武器?」

「剣や斧や槍や鎧や盾などです。」

「この星にも、戦争があったの?」

「はい。

限られた食料と土地の支配権を巡って、領土争いが、長い間、続きました。」

「長い間って、どれくらい?」

「100年ほど前の世界大戦まで、いろんな国々の間で、国境争いが、断続的に繰り返されました。」

「世界大戦があったの?」

「はい。

世界のほとんどの国々が、ふたつの陣営に分かれて、近代的な兵器を用いて、激しく戦いました。

多くの街や村も戦場になり、民間人も多数犠牲になりました。」

「…

そんな…」


彼女は、虹色の泪をこぼした。


私は、マスターに訊いた。


「どんな兵器が使われたんだ?」

「機関銃や大砲や戦車や火炎放射器や潜水戦艦などです。」

「飛行機は無かったのかい?」

「大戦以前に発明されて、敵陣の偵察に用いられました。」

「戦闘機や爆撃機は?」

「基地や街などの重要な拠点は、全て地下にあるので、爆撃機や攻撃機は使用されませんでした。

戦闘機は、主に、敵の偵察機を撃ち落とすために使用されました。」

「船は無いんだよね…

潜水戦艦というのは、どんな兵器なんだい?」

「海を覆う氷の下の深海を進んで、敵陣に攻め込む戦艦です。」

「…その潜水戦艦の動力は?」

「バッテリーです。

基地で充電し、深海に潜ったまま、作戦を行い、基地に帰ります。」

「氷が厚すぎて割れないから、浮上して内燃機関を動かすことは出来なかったんだね…」

「内燃機関は、戦車などの車両と、飛行機の動力として用いられました。」

「…

核兵器は、まだ無かったよね?」

「我々が原子力エネルギーを利用し始めたのは、30年ほど前に始まった原子力発電が最初だったので、核兵器は無いのです。」

「核兵器は、今も無いの?」

「我々の星には、核兵器はありません。」

「そりゃ、安心だね。

そもそも、世界大戦の起きた理由は、なんだったんだい?」

「200年ほど前の産業革命後、さまざま産業に必要な金属や石油などの地下資源が重要になって、その奪い合いが、国々の間で起きて、次第にふたつの陣営に分かれて、対立が深まり、ついに、戦争になってしまったのです。」

「産業革命前の戦争とは、理由が違うんだね。」

「産業革命前の戦争は、食料生産可能な土地を巡って、国境を接した国々が争うものが、ほとんどでした。

世界大戦は、食料ではなく、地下資源が、争いの理由になったのです。」

「今も、軍拡競争は、続いてるのかしら?」

「世界大戦は、両陣営の国々が、人口と国力を大きく減少させて、どちらも、続けられなくなったため、10年ほどで終わりました。

世界大戦後、戦争を防ぐための国際機関が設立されました。

その後は、国家間で、戦争は起きていません。」

「何年間、平和が続いているんだい?」

「90年ほどです。」

「軍隊は、まだあるの?」

「国々の国防軍は、今もありますが、国家間で、均衡を維持しながら、計画的に削減されています。」

「素晴らしいな!!」


彼女は、こぼした虹色の泪を拭いて、笑った。


「よかった!!

この星の人たちに…

いや、宇宙の、どんな存在たちにも…

戦争なんか、もう、してほしくないわ!!」



自分たちの力で、平和を守り続けて来た、この星の人たち…


彼らが戦うべき相手は、同じ星に住む仲間たちではない。


同じ星に棲む生き物たちでもない。


彼らを産み、はぐくみ、気まぐれに巨大噴火を起こし、自分自身を凍りつかせ、彼らと、生き物たちに試練を強いる、この星。


気まぐれに、隕石や小惑星や彗星と、この星を衝突させる宇宙。


自然が、彼らが戦うべき相手なのだ。


彼女は、明るく微笑みながら、マスターに訊いた。


「巨大噴火などの災害に、どう備えているの?」

「64万年前に、黄色キ大地ノ国…皆さんの地球で言うところの、イエローストーンの火山が、巨大噴火を起こして、この星は寒冷化しました。

巨大噴火は、我々人類が、最も関心を持つべき自然現象のひとつなので、昔から、最も力を注いで、研究されて来ました。」

「巨大噴火以外の災害…地震や津波や高潮や台風や豪雨や竜巻や天体衝突などについては、どんな対策が取られているの?」

「我々の星では、津波と高潮と台風と豪雨の災害は、発生しないのです。」

「海が厚い氷に覆われているから、津波と高潮は起きようがないね。

大気と地表にある水分は、ほとんどが氷の状態で、地表と海の上にあるので、空気はカラカラに乾燥していて、雨はほとんど降らないんだね。」

「水蒸気が発生する地熱湧出地域では、雨がまれに降るのですが…

ほとんどがすぐに雪に変わります。」

「竜巻は起きないの?」

「竜巻などの強風は、まれに発生しますが、地表にあるのは、農耕地がほとんどなので、農作物が被害を受ける程度で済みます。」

「地震は?」

「地震は、もちろん発生します。

地表を覆う氷も、海を覆う氷も、地震波が伝わります。

海底で、地震が発生した場合、海にも地震波が伝わります。」

「地震への備えは?」

「我々の地下都市などの住居は、規模の大小を問わず、想定される最大の地震波にも、余裕を持って耐えるように、作られています。」

「天体衝突への備えはしているの?」

「宇宙開発については、我々は、地球の皆さんに比べて、かなり遅れを取っています。

宇宙観測は、もちろん、昔からしているのですが…」

「理想を言えば、太陽系全体に、天体の観測網を張り巡らせて、危ない天体を見つけたら、天体に推進器を取り付けて、安全な軌道に変えるのが、いいと思うけどね…」

「仮に、天体が、この星に衝突した場合、起きる自然現象と、それによる被害は、巨大噴火が起きた場合のそれらに似ているところがあるので、巨大噴火に対する備えが、天体衝突への備えにもなるはずです。」

「なるほどね…」


彼女は、小さく頷いて、言った。


「じゃ、そろそろ、巨大噴火から、この星の人たちと生き物たちを守る方法を、考えましょ!!」

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