第11話

次の日、お昼頃出発の大陸間鉄道に乗った。


「1日と3時間くらいね。

ハワイ…

灼熱ノ岩流ルル国滞在!!」

「そうだね。

もっとゆっくりしたかったけど…」

「元々1日の滞在予定に、私たちの都合で、結婚式までしてもらったんだから、幸せよね?」

「うん。

最高に、幸せ。」


私たちは、見つめ合って、微笑んだ。



駅は、氷洋の上にあった。


遠くに、火山と、その周りに広がる黒い溶岩大地と、緑の耕作地帯が見えた。


時折、赤い溶岩の欠片を含んだ噴煙が、火口から吹き上がった。


私たちを駅まで送り届けてくれた氷上車が、今度は、列車から降りたばかりの訪問者たちを乗せて、地下都市の出入り口に向かって、走って行くのが見えた。


噴火活動の影響を最小限に押さえるために、駅も、軌道も、火山から遠く離れた場所に作られたのだ。


駅のホームには、先ほど着いた列車が、優美な体を長々と横たえて、休んでいる。


「いつか来たいわ。

また…」

「そうだね。

でも、その前に、やっておかなければならないことがあるね。」


彼女は、私の手を、ギュッと握りしめながら、虹色の瞳をキラキラさせて、言った。


「この星の人たちと生き物さんたちを、巨大噴火から守ることね!!」




列車の出発時刻が迫って来た。

しかし、マスターが戻って来ないので、私たちは、ヤキモキした。


「なにしてんのかしら?

マスター?」

「改札の向こうのお店に行ったみたいだけど…」


マスターは、ホームまで一緒に来たが、急に「買うものを思い出しました!!」と言って、改札を出て行ったのだ。


カード端末の電話機能を使って連絡してみようかと考えていると、マスターが、改札を通って、息せき切って、走って来た。


「お待たせして、申し訳ありません!!」

「出発に間に合ったから、大丈夫だけど…

どうしたの?」

「買い物に時間がかかってしまいまして…」

「なに買ったんだい?」

「ちょっと、私用で…」

「私用?」

「お土産かなんか?」

「…あ?

そうです。」


見ると、両手に、紙袋を下げている。

中から、いろんなお土産品が、覗いていた。


「へぇー。

どなたにお土産を?」


マスターは、なんだか、きまり悪そうに、モジモジした。


「故郷の家族や親戚や知り合いに…」

「故郷?」

「熱キ水出ル国です。

久しぶりに戻るので…」

「マスター!!」


彼女は、ニッコリ笑って、マスターの両肩を、グッと掴んだ。


「それ早く言ってよ!!

なんで今まで言わなかったのよ?」


マスターは、タジタジとなって、小さな声で答えた。


「すみません…

個人的なことなので…

おふたりのご迷惑になってはいけないと思いまして…」

「迷惑?

迷惑になんか、なる訳無いでしょ!!

出身地知らせたぐらいで…」

「はあ…」


私は、言った。


「この星の人たちは、僕たちの地球よりもずっと厳しい世界で、寒さと戦いながら、互いに助け合って、生き延びて来た人たちなんだ。

自分のことよりも、他人のことを大事にするのが、当たり前なのかもしれないよ?」

「…

なるほどね。

わかったわ。

別に、他人行儀で、隠してた訳じゃないのね?」

「違います。

おふたりは、お忙しいので、必要の無いことは、お知らせしないほうがいいと思いまして…」

「必要無いこと、ね…」


彼女は、少し考えていたが、ふと、なにかを思いついたような顔をして、マスターに訊いた。


「もし、私から出身地を尋ねてたら、答えてくれてたの?」

「もちろん、喜んで、お教えしたはずですよ。熱キ水出ル国出身ですと。」


彼女は、虹色の瞳を輝かせて、ニッコリしながら、言った。


「雪の星の人たちは、謹み深い人柄なのかもね。

これからは、知りたいことは、私のほうから、ガンガン遠慮無く質問するから、覚悟しといてね!!」

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