英雄譚の始まり 2
最後尾の列車は木造の椅子とテーブル、花々などの装飾と周囲がガラス張りの展望室となっていて、その海岸線が一望できる席の1つに海と奈美は隣同士に座っている。
ウットリ海岸を見渡している奈美とその奈美をじっと見つめている海。
「すごいよねぇ………正面は海で反対側は草原地帯なんだよね。もう少ししたら湿地帯になるんだよね?」
「らしいよ。いくつかの山を越えて湿地帯になるらしいね。丸一日の列車旅…か、向こうで過ごしていると中々見れない景色だね」
「うん! 楽しい! ガイノス帝国って広いんだね。草原も結構凸凹しているし……私草原ってまっ平ってイメージだった」
「俺も。でも結構丘とか崖とかあるんだね」 「湿地帯ってどんな場所なのかな? そういえば海都オーフェンスってどんな場所?」
「そうだね」
海はオーフェンスと携帯で検索すると、画面いっぱいに水路とレンガ造りのような建物が続く映像が現れた。
奈美は興味津々な表情で覗き込み、海の視界に奈美の胸元が嫌でも協調されてしまう。
「すごい! 水の都みたい! 車が見えないけど全部船で水路を移動するのかな?」
「みたいだね。陸路があるみたいだけど、基本は歩きか船みたいだ。自転車も禁止だって、理由は陸路が狭いからだね」
「港があるんだよね。漁業が盛んなのかな?」
「うん。だから魚料理が豊富なんだね。色々と見どころもあるみたいだけど、水族館など色々と」
胸元がチラチラと見えていて困っている海、奈美は全く気が付かない様子ではしゃぎ回っている。
携帯を一旦ポケットに収め直し、興奮が止まない様子の奈美に顔を真っ赤にしながらチラチラと視線を胸元に向けながら小声で喋り始める。
「それと……奈美」
「? なに?どうしたの?なんかさっきから元気ないね」
「いや………その…む、」
「む?」
「胸元がさっきから………見えてて」
奈美はようやく自分の体勢上海には胸の谷間などが見えていることに気が付いて急いで椅子に座り海に背を向ける。
「ご、ごめんね。気が付かなくて……」
「いや、俺こそ………その、セクハラみたいな…」
二人で顔を真っ赤にしながら背を向け合うが、そんな中万理とメイちゃんが元気よく展望室に入ってくる。
「あ! 海お兄ちゃんと奈美お姉ちゃんだ!」
「ほんと、二人共ゲート……? どうしたの? 二人して顔を真っ赤にして」
「「ううん。なんでもない」」
「「?」」
俺はジュリとレクターは三人で前方食堂のドアをゆっくりと開け、広い車両内は四人席が四つとカウンター席が六個存在している。
カウンター席の1つにまるでカッコつけるようにレイハイムが本を読みながら佇んでいる。
レクターがクスクス笑いながらからかう為に近づいていくのを俺はほっといて、ジュリと共に四人席に座りこむ。
すると、同時にレイハイムが冷酷な目つきをレクターに向けているが、レイハイムの心の中にきっと殺意に似た感情があるに違いない。
一人で大人しく本を読んでいたいという気持ちがきっとストレートパンチが人中を捕らえた。
「全く昔から変わらん奴だな。しっかし、喫茶店みたいな簡単なメニューばかりだな」
「もっと前に行けば高級レストランもあるけど?」
「母さんと父さん一緒に食事をしていたら胸やけがして一日喉に食事が通らなくなる」
俺はメニュー表の中からサンドイッチの簡単なメニューとオレンジジュース、ジュリも全く同じものを頼み、レクターには大盛ミートボールスパゲッティーを注文。
メニューがやってくるまでの間携帯で海洋同盟の情報を検索してみるのだが、どうもこれと言った情報が出てこない。
「なあ、海洋同盟の情報がまるで出てこないんだけどこれってわざとか?ジュリ」
「そうだよ。あそこは閉鎖的な国で、周辺国や自国で問題が起きた場合鎖国して周囲から完全に情報を閉ざしてしまうの。最近は共和国と帝国の戦争状況や、帝都でのクーデター事件、日本を中心とした
「全く、なんで俺が六日後に首相に合わなくちゃいけないんだ」
六日後に俺は海洋同盟事正式名『バルメール海洋連合国同盟』の首相『マーベル・ファン・レム』にお呼び出しを受けている身分。なので、五日まで海都で過ごし、六日後には海洋同盟に向かう手筈になっている。
「海洋同盟………か、なんか嫌な予感がするんだよなぁ」
「気のせいじゃないかな? そこは独自の英雄がいるって話だし」
独自の英雄ね………何か会いたくないんだよなぁ。
戦いそうな予感がするし……気のせいならいいけどなぁ。
「それで? その英雄様を俺は会う事になるのかね?」
「どうだろう。でも会うのは首相なんだよね?英雄じゃないわけだし関係ないんじゃないかな?」
「ふーん。ならいいけどな」
どうも俺は海洋同盟の事を信用できない。
そもそも周辺国に問題が生じる度に鎖国するような国を信用するという方が問題だと思うのだが。
俺は英雄譚を語るつもりでは無いし、他人の英雄譚何て特に興味なんてない。
海洋同盟の英雄。
真っ赤な髪が特徴でその髪から英雄の名に『烈火』がつけられたほどである。
しかし、この英雄は鎖国解除の一週間前に行方不明になっていた。
首相のマーベルは秘書の男性の前で腕を組みながら苛立ちをぶつけている。
「で? まだ見つからないの? 問題を起こしてからでも遅いのよ?」
「すみません。首相。例の問題が表ざたになれば帝国が侵略何て騒ぎになりかねません」
「だからよ。国内では改革だという若者が多くて困っているのに、英雄が独自に動き出したなんて騒ぎ、今はガイノス帝国が問題をおこしていたら鎖国出来ていたけど、問題が解決されてしまった以上何とかここで解決する必要があるのよ」
首相は爪を噛みながらストレスを表面化させる。
「特に『あの問題』だけは知られるわけにはいかないのよ。だからこそ危険を承知で『星屑の英雄』をここに呼ぶことにしたのだから」
「うまくいくでしょうか?『星屑の英雄』はそこそこ感が良いと聞いたことがありますが」
首相は思いっきり机をたたき、秘書の男性はその行為に怯えを見せる。
「所詮はただのガキでしょ!? 今の私達は一刻の猶予も無いのよ。今までの態勢が試されてしまうわ………何としても烈火の英雄を排除しなくては」
「うまくいけばいいのですが……」
「なんとしてもだまし切るしかないでしょ?」
時を同じくして海洋同盟の端の島、深々と生い茂る木々と、寂しい孤島はこの海洋同盟の中で唯一橋で繋がっていない場所でもある。
そんな寂しい島に烈火の英雄は一人佇んでいた。
この島にも数年前まで小さいながらも村が存在していた。
一つの家の前に花束を置く烈火の英雄、何もない家ばかりで寂しさすら感じさせる。
「父さん。母さん。俺………なんで英雄になったんだろ。もう………分からないんだよ」
烈火の英雄が握りしめる新聞には『星屑の英雄現る!』と書かれており、新聞のトップにはソラ・ウルベクトの写真がデカデカと掲載されている。
そんな新聞を強く握りしめ、自らの怒りなのかそれとも英雄への怒りなのかそれすらも感じさせない烈火の英雄は、自ら握りしめる新聞をびりびりに破いて捨ててしまう。
「英雄………そんなものにどんな価値があるんだ。俺は………!」
彼は自らの怒りをただ増大させるだけだった。
今二人の英雄譚がぶつかる時が近づこうとしていた。
一週間後、この海洋同盟の地に置いて二人の英雄がぶつかる。
その予言が聖竜の手によって下された事を知っているのは皇帝一家だけだった。
『星屑の英雄と烈火の英雄は海洋同盟の地にてぶつかり合い、今二人の正義が問われるだろう。救いの道はたった一つのみ、星屑の英雄の心のままに進むことが大切である』
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