英雄譚の始まり 1

 七夏祭ななかさいも無事終わり帝都ていとは元通りの賑わいに戻っていき、世界中でも一通りの安定を見せていると、日本とガイノス帝国を中心に二つの異世界は一つにまとまる気配を見せ始める。

 しかし、そんな平和とは全く違い、まだ様々な国々では争いを続けており、一部の国では紛争が始まるなど不安定さを見せている。


 実際、日本の周辺国では紛争や国同士の争いを見せており、日本はガイノス帝国の力を借りながら周辺国からの侵略に対応している最中だった。


 帝国立士官学校では七夏祭が終わると一学期の期末テストが控えており、かいやメアリーと一緒に実技テストの準備に追われていたのもすっかり終わった話である。

 七月下旬を迎えいよいよ各学校では夏休みを迎えており、各学生が浮ついた気持ちがやって来た。


 帝都では特に夏祭りがあるわけが無く、結果から見れば金持ちなんかは避暑地や別荘地に移動することが多い。

 実際帝都では人がごそっと減った気がする。

 そんな帝都から列車で一日掛かる場所にある海都オーフェンスに訪れる為に列車に乗っていた。



「すごい! ねえ! 見てみて海岸線沿いを列車で移動できる機会なんて中々ないよ!」


 妹の奈美がはしゃぎ回っているのは、帝都発海都かいとオーフェンス行きの列車である。列車は木造を連想させるような内装をしており、少々豪華さを見せている。

 俺は奈美の上下服をじっと見つめる。


 白いパーカー付きの上着の中に簡単なTシャツ、下は水色のミニスカートを履いており黒い髪は長すぎず短すぎない長さに昨日デート中に購入した花の髪留めを付けている。

 隣のジュリ事ジュリエッタは白のワンピースという夏らしい服装に、長い髪をストレートに伸ばして、細く白い腕が涼しさを感じさせる。


 どうでもいいのだが、窓際で窓を全開で開けているとミニスカートが揺れて中のパンツが見えそうになっている。

 実際俺斜向こう側に座っている海は黒い短い髪を弄りながらチラチラと奈美の方を真っ赤な顔で見ている。


「奈美ちゃん。座ったら? ミニスカートが揺れて中が見えそうになってるよ」

「え? きゃ!?」


 急いで俺の反対側のベットに座り急いでスカートを押さえるが、時すでに遅しと言った所だった。

 海は青いTシャツと簡単な上着を着ており、半ズボンの端を掴みながら未だに真っ赤になっている。


「海君……も見えた?」

「だ、大丈夫。見えてないから」


 顔を真っ赤にして言われてもまるでである。

 上のベットからはお菓子の食べる音が聞こえてくるので、未だにエアロードとシャドウバイヤはお菓子を食べているのだろう事は予想できる。

 俺は大きく息を吐き出しながらこの簡易な寝室を眺める。


 木造の二段ベットが左右に二つ、合計で四人が寝泊まり出来る空間が用意されているだけの場所。

 ドア近くには荷物を置くだけスペースが用意されている。


 窓から海岸線が見えるこの景色は帝国でもこのオーフェンス行き列車でしか見えない景色だ。


「でも晴れてよかったね。この二週間は晴れ続きらしいし。奈美ちゃんは気合入った格好しているね」

「勿論だよ。まさかお兄ちゃんを入れた幼馴染の四人で旅行できるなんて思わなかったし、それにジュリお姉ちゃん達と旅行って楽しみだもん」


 純粋な目をしている気がしてならないわけなのだが。まさか親が俺と奈美の両親しか付いて来ていないのは如何なものか。


「父さんとサクトさんは仕事なんですよ。アベルさんしか来れなかったですからね」

「というか、二人なり………海のお父さん的に気を使っただけじゃないのか?先日結婚したばかりだしな。まさかこの年になって結婚式に息子として参加することになるとは思わなかったが」

「だね。私も少しだけ恥ずかしかったよ」

「そんなこと言っちゃ駄目よ。二人何り考えての行動何だろうから」


 俺と奈美の言葉にツッコムジュリの言葉で一旦閑話休題。


 息を整え直し、帝都を出て二時間。

 まだまだ海都までは時間が掛かりそうだが、しかしやることが無いのも事実である。

 他の部屋では何をしているだろうか。なんて考えているが足音が規則的に近づいてくるが、俺は急いで立ち上がりドアをしっかり占めて鍵をかける。


「鍵がかかっている!? どうして!?」

「どこかの馬鹿がやってくるからだよ! レクター」


 ドア越しにレクターの元気いい声が聞えてくる。

 全く、こいつの声はどこにいても元気な声をして居るので分かりやすい。

 強引にドアを壊そうとするので、ベットに腰掛けた俺に変わってジュリがカギを開ける。


「結構綺麗だよねぇ! 後方車両に展望レストランがあってめっちゃ綺麗だよ!」

「え!? 本当ですか? 海君一緒に行こう!」

「え? でもまだ昼前だよ。お昼ごろにしない?」

「こういうことはお昼ごろに人混みが出来るからその前に行くのがいいの! お兄ちゃん達はどうするの?」

「え? 行かないけど? 前方車両の食堂に行くから」


 俺がバッサリ断ると、そのまま人の話を聞かないまま海の右腕をしっかり掴んで走り去って行く。

 レクターは先ほどまで二人が据わっていたベットに腰掛け、何かを見付けようと視界を左右に振っている。


「お菓子なら上のベットの奴に言って分けてもらえ」

「「やらん。絶対にやらん」」

「ならいいや。あの二人に勝てる気しないし」


 食欲にどこまでも貪欲な二人の竜、レクターは茶色のズボンのポケットを弄り携帯を取り出そうとしているが、どうやら見つからないらしい。

 俺はレクターが来ている緑色の上着の右ポケットを指さす。

 レクターが携帯をポケットの中から携帯を取り出す。


「みんな浮ついているんじゃないか?」

「え? でもレイハイムは食堂で本読むって言ってたし、エリーとキャシーは前方で景色を眺めてくるって言っていたよ。はしゃいでいるのさっきの二人とソラの両親ぐらいじゃない?」

「俺を入れないのは優しさからかな」

「え? 空ってはしゃぐの?」

「まあレクターを基準にすればしない方だけどさ」


 お前ほどはしゃぐ人間なんてさほど居ないだろうし。

 揺れる列車の中、窓から見える景色は全く変わり映えのしない海岸線沿いがずっと見えていて、少々飽きてきたところだった。


 俺はジュリが握りしめている魔導機をじっと見つめる。

 魔導機、竜が与える魔導を疑似的にでも再現できないかと考案された機械だけど、実際の魔導と比べるとやはり見劣りするし、それでも万能なのは変わらないんだろう。

 実際生活にも活用されているし………西暦世界の国々が求めているのも分かる話だった。

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