第17話 33.見えない戦車 34.時空の助け
「全く、あたしツイてないわ」
「なことないって、僕がお姉ちゃんたちを守るから」
キョロキョロするへムル。
「あれ、スピさんは」
「あのコなら、…いない。もうまた迷子、あのコ幾つなの?」
すると前の方から声がする。
「あなたより二つ上よ。年齢はお互い非公開ということで」
「いつの間に」
驚くジーンの目線の先を、スピが颯爽と歩いていた。
「どうして、あんなに、前と違う」
「びっくりでしょ?あれがあのコのミラクルなのよ」
「ミラクル?」
ポカンとするへムル。
「へムル、あの村でいいの?」
「え…あ、ここが僕の…」
10分掛からなかった。
お姉ちゃんたちに何があったんだ?
血を流し倒れている。
多重交通事故の現場を見ているようだ。
へムルは恐れ戦き、
「みんな、何でこんな?嘘だ(嘘だ)(嘘だ)(嘘だ)」
カラフルに激しく揺れながら少年の体を何かが震撼していく。
「ここは任せて、出来るだけのことはしてみる」
スピのペインキラーを持ってしても一度に何人も救えない。
それに100人程の村の半数を超える人が数分以内絶命していく。
「へムル!!」
スピがへムルを抱きしめる。
「君のその力、今目覚めたのね」
放心状態のへムルはこくりと頷く。
「分かったわ。何も言わないで、大丈夫。手を貸して」
ジーンは息のある者に添え木をし、包帯を巻き応急処置をする。
だが間に合わない。
「…右手よ。そっと」
スピは辺りを見回す。
「ジーン!今から全員の救助を行う!」
「分かったわ。この敵はあたしに任せて!」
力強くジーンは呼応する。
「へムル、あなたの力はまだ分からない。だけどあなたには広範囲に届く音響のような出力を持っている。私があなたの指先で出力を最大値まで調整するからヒーリングを多くの村人に届けるの。いい?」
「みんなが死んじゃう。早く始めて!」
「凄いパワーね。あたしのペインキラー送ったわ」
へムルとスピの間には金色の光がとても不安定な輝きを見せていた。
その間、ジーンは紛うことなくその場に立っていた。
鋭い眼差しは既に次を決めている。
次の自分、次の敵の動き、先手を取れると確信した眼差しだった。
スピたちの光が安定して周りを丸い円を描いて徐々にそれが大きくなる。
三姉妹のトーが目を覚ます。
ポーは眠っている。
意識を取り戻していない。
フーの手指が震えた。
「フー、起きて起きないとあんたの秘密バラすわよ。お願い死なないで!あのアイス食べていいから。だから死なないでよ」
フーに縋りつく。
すると意識のないはずのポーがうわ事でトーに話しかける。
「フーは大丈夫よ。あたしが背中を押したから、その内意識を取り戻すわ。だからトーあなたは安心して…」
トーは涙で体中が濡れている。
「無事なの?ポー」
ポーは動かない。
「ねぇ、何言ってるのよ。あたしたち一つなのよ。3人で一つなのよ!あたしをひとりにしないでよ!」
それから何時間経ってもポーの意識が戻ることはなかった。
フーは目覚めたとき、フーは既に泣いていた。
顔をしかめて泣いていた。
「ポーお姉ちゃん」
長いトンネルの中を強く怒鳴ったようにフーの声は枯れていた。
トーとフーは抱き合い哀しみにくれた。
「へムル?出来るだけ多くの村人の命を救うのよ」
もはや、この攻撃は島全域に及んでいた。
その時、ジーンの刃はまっすぐ敵を捉えた。
「ずっとあなただと思っていたわ」
「久しぶりなのにずいぶんな態度だな?君って女性(ひと)は」
ハッチが開く音がする。
「高い所から失礼するよ」
闇の中から顔を出す。
「指導者からは禁じられていた遊びをしたくなってね」
「はぁいガイ変わらないわね。あなたは本当に血も涙もないのね?」
「おれの強さが分からないとは!」
「そこが魅力だと思っていたあたしが甘かった」
ジーンの刃の一振り毎にガイを追い詰めていく。
ハッチの中に戻ろうとするガイ目掛けてナイフを投げた。
投げたナイフはジーンの胸に吸収(マージ)され突き刺さったものだった。
それを引き抜いたことでジーンの白いシャツに出血を抑えきれない。
ハッチを閉めたガイの右大腿部にはジーンが投げた鋭いナイフが突き刺さっていた。
「ガイあなたの強さは箱物の中からしか発揮できない訳?」
「ああ、その通りさ。見せてやるよ」
「…ん?……あれ、動かないぞ?」
必死に操縦桿を握り戦車のアクセルを踏む。
「バカね。あたしが何もしないとでも思ったの?」
体の中の何本かのナイフが戦車のキャタピラーに刺さっている。
するとそこに全身を覆う分厚い布キレをグルグルに巻いた異様な人物が立っていた。
顔はよく見えないが、この口調は!
「いつでも一思いにやっておくれ。これ程不出来な息子(部下)を見ると№3の座は奴に勿体なかったな」
「グロリアは、どうしたの?」
「愚弟の末路に特等席を用意したんだが、あっさり、断られたよ。誰も殺らないならこの私が手を下そう」
しゃがみ込み一撮みの砂を拾うと弾丸と化した砂が手のひらを広げただけで戦車の装甲を貫きガイの脳天を直撃した。
「ドクタァー!…」
あの男の断末魔がへムルの耳には聞こえたという。
毛布のようなフードで頭を覆い、スカーフで鼻から下を隠し、頑丈な紐で至る所を結った衣の珍妙な指導者は、
「もうじきこの私を倒そうとする手練れがここにやって来る」
周囲は固唾を飲んで耳を傾ける。
「だが…結局この私を倒せる者など何処にもいない。これ以上助けなど当てにしないことだな」
「スピ、へムル!村人と共に今すぐここから逃げて!聞こえたでしょ!早く逃げるのよ!」
「……」
へムルは押し黙り、彼の指をギュッとするスピを見る。
「ジーン、それがそうも行かないみたいよ」
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