第7話 ⑬やさしく愛して 戦士ロン ⑭マージ/パージ

「闘うことで苦しみは消える」

「自分がどういうものかを考え込む必要がなくなる」

ロンは孤児だった。

何故かしら自分と関わる人たちは不幸になる。

信頼していた大人が首を吊ったり、預けられた先の夫婦が離婚したり、そのせいで忌み嫌われたりもして来た。

だから、島でのことや船に乗り込みジオと現在、スピの国に向かう航路の中でもひたすら自分を消して来た。

ロンは今、躍動感に燃えていた。

だから手渡されたトランシーバーはOFFにしていた。

「何よ?あの女」

怒りと共に体から放射される複数の淡色系に染まった柄の大中小様々の包丁。

「船底のエンジンの調子が良くないから見てきて」ってノーマークに言われたから来ては見たもののあたしたちが乗ってきたクルーザーのエンジンとは訳が違う。

近海ならクルーザーでも事足りるけど次の大陸は遥か先。

でもあたしたちが乗船するにはお金が足りない。

パスポートもあの島に関わるとき死亡者としてあらゆる機関に届け出されていて手元にあるのは使えない。

妻に逃げられ、飲んべえの船長の代わりに客船を出航させなきゃイケない。

あたしたちは乗船するお金がないけどノーマークは操縦マニアで知識はある。

もちろん航行中に船長には正気に戻ってもらうけど、こいつ!

「ずいぶんクレイジー女ね!いつ潜り込んだのよ?」

レースの淡青ワンピース、あの細いモデルのような体のどこにあんな戦闘力が?

あの手力男(タヂカラオ)も同じようなクセはあったと聞いたけど、体から放射する刃物は一回に数十本(手力男のようにデカい斧一本じゃない)

5から6回程度投げたら自分が刃物の一部になって飛んで行った刃物と合流して肉体を形成する。

「名付けてペイルエッジドトゥールマージ長ったらし…」

船底なのに容赦なくナイフを当ててくる。

体を捩らせ蹴り返したり、防戦一方、あたしにも何か取り柄があるんじゃない?戦士ロン、ロンは自分に問いかける。

そして息を整える。

「改めて敵の名はキッチンナイフマージ」

あたしの心を揺り動かすものは怖れない勇気あるのみ。決意し猪突猛進で敵に目掛けて突っ込んで行く。

一、二度体にダメージはあったけど、もう今はない。

痛みを覚えて普通に体が強化されている。

攻撃を弾いている。まるで自分じゃない。

自分という乗り物に乗っているみたい。

数秒間、敵の胸倉を掴んで確かな手応えを感じた。

その数秒間にこの体を駆け抜けた奇妙な奇跡に驚きと肉体の進化を感じた。

「あんたもこれでお終いね」

「バカね」

すると淡青ワンピの女は全身を脱力して倒れ込む。

胸には包丁が、複数回刺された傷も。

「あんた、おい!死ぬな」

その後、船は難なく出航した。

トランシーバーをONにしてノーマーク船長に、

「OK」とだけ、答えた。

多分、何が?という反応を示しただろう。

あの女、まだ僅かに息はあった。

さてどうしたものか。



ジオを始めとする彼女らの能力はある一定の病気と関連する結び付きに他ならない。

病気の名前はマージ、そしてそれを取り除く作用がある治療薬(抑制剤)はパージ。

パージを遺伝で多く受け継いでいるのがジオ。そのジオのパージとマージの割合は7:3、パージ7のマージが3。

この能力の影響を受けている者はパージが全体の割合を高く占めると肉体の形成が困難になる。

治療薬(抑制剤)パージによる健康被害もある。

逆にマージが高くなると融合体となり、様々な吸収合併の依存性が高まる。

研究対象になった被験者にマージの過剰接触をすることが多々あり、この5名も漏れることはなかった。

安定している被験者は体質に異常はなく力自体を思う存分発揮できる。

尚、ジオのパージは先天性のものであり、例え8割を超えていても肉体形成に何の問題もなかった。

本名、ジョージア“ジオ”レイン、19歳。

少女時代はほぼハーフパンツ、寒い所も好き。

元気で陽気なコだった。

島での生活ではスカートを穿き、まるでお嬢様のような服装をするようになる。

ストレートヘアが多かったが成長につれ、気を使い、緩いカールのミディアムヘア、サイドをぎゅっとリボンで留めた髪型に移行(名女優ヴィヴィアン・リーに寄せている)。

現在車椅子生活。

だが本来スポーツ万能、記憶はないがヨガ経験者。

それと、免許はないけどクルーザーの操縦はお手の物。

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