第3話 ⑤Geo・cruise ⑥マネキンの本領

ジオは克明に記憶していた。

これまでに被験者として来た延べ90人の名前性別、年齢、出生地と家族や身寄りの有無を。

ただ一人、ジオ自らの国籍や本名を知る者はいない。

ジオにとってはお伽話で信憑性に欠ける話、ジオの両親はとても裕福だった。

ジオは休日ともなるとパパに連れられ、パパのクルーザーで沖に出た。

海を見るのが好きな子だった。

物欲はまるでなく、何でも体感できる自分に満足していた。

そして天使爛漫のこの笑み。

パパはそんな娘のジオを甘やかし、すべてが暖かだった。

あの日、豪華クルーズ船で地球一周旅行なんて言い出すまでは、

あれは誰が言い出したのかな?パパ?ママ?私?

また、すべてが波に消えて何も思い出せない。



「いいか?マネキン使いジャンよ。空振りの方が大事なんだ」

ジャンは仕方なく頷く。

「おっと何だったかな?」

「eyesだ」

「それだ。それとあと」

earを記す。

「後はいいのか爺さん?」

ジャンを小突く

「レジナルドと呼べ?これでもまだバリバリの現役だ」

フォトショップキラーは政府要人の殺害の罪に問われている殺人のプロフェッショナルだ。

昔も今も殺しのやり方は変えていない。

しかし、この新しいやり方を覚えてからは10は若くなったともらしている。


「細工は念入りに」

ドア下にA4サイズの茶封筒、これは誰が開いても現実になる。

タイミングは各自が入室して寛いでいる頃合。

ジャンは街中の人間をマネキン(言いなり)に変えた。

ホテルの従業員は張りぼて(とはいえ見た目まるで人間そのもの)のマネキンに自由意志を持たせたもの。

ジオたちは不気味に思うだろう。

この違和感はホテルに入った者しか分からない。同じ観光客だと思っていたら、さっき道を尋ねた近所のオバチャンだったり、だからターゲットは自ずと限定され、一般人も巻き添えを食らう。


「あの白いコートの女、ホテルの周囲を疑っているぜ」

「ほう、気づかれたか?」

「いや、すんなり入った。あの女、エーッと」

ジャンは観光客に撮らせた写真と手書きの名前を見る。

「あいつノーマークだ。あの女、これを受け取らなかったんだ。安くしてやったのに」

「それで一番乗りは誰だ?」

「背のデカい奴だ」

「タワーか。地元民らしい」

「爺さん大丈夫か?あの茶封筒、従業員が先に始末するかも?」

しばらく間があり、吹き出すジャン。

「大人をからかうな!若造め」

だがそのジャンの目は狂気に満ちていた。


30分後、部屋は三つ共、動きがあった。

カーテンを閉める2階5室ある一番右端、その隣は通話中、「またあのデカい女だ。もう一人は姿を見せない。上階を見る」

ホテル最上階に当たる3階、その中央の部屋に(反射しない)双眼鏡を当てているジャン。

「ノーマークだ。歯磨きしている」

レジナルド・ロスは眉間に皺を寄せ遠くを睨む。

「妙だな」

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