3.4 ミドル2:楽園(エデン)に必要な犠牲とは

■エデン役所

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複数の受付が横並びに並んでいる。

神官申請所、定額給付金申請所などの受付は大変賑わっている中、"新規住民対応"と書かれた受付だけ人っ子一人いない。受付嬢も暇そうにしている。

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リアトリス : 頼むぜギズさん。

マリーナ : ぜ~。


PC一同相談した結果、

一番世慣れしているガイゼリックを先鋒として、役所の新規住民対応の受付に一人で行きつつ……問題なさそうなら後の面子が続く、という形になりました。

特に、どことなく、身の危険を感じているリアトリスとマリーナは隠れ気味にこっそり様子見。


ガイゼリック : 「頼もう」新規住民対応の受付に。

受付嬢 : 「ひまだなァ……ん? もしかしてお客さんですか?」

ガイゼリック : 「もしかしなくてもその通りだが」

受付嬢 : 「おおお客様だアアアアぁぁ! やったぁ、初めてのお仕事だぁ! これで他部署から実質ニートってバカにされないです!! ウェッヘッヘ、大丈夫ですか、私ちゃんとしゃべれてますかね?」

ガイゼリック : 「うむ。騒がしい」(一同笑)

外のリアトリス:圧が強いなこの受付嬢。

外のアミ:かわい~!


かわいい女の子の立ち絵なのですが、テンションとキャラが濃い。


受付嬢 : 「これは失礼、わたしついついテンション上がっちゃいましたぁ! え~とえ~と、新規のエデン来場者でお間違えないですかね?」埃被ったマニュアルをガン見。

ガイゼリック : 「相違ない」

受付嬢 : 「そうですかそうですか、ここまで来るの大変だったでしょう? ではエデンについて私がお教え…………あれ、エデンって今完全鎖国状態じゃなかったっけ? ……ま、いっか、初めてのお客さんだし! へい、らっしゃい~、ご注文は?」急におやじ口調になります。

ガイゼリック : 「……冗談はいいから、早いところ済ませてくれ……」

受付嬢 : 「えへへ。はいはい、新規住民受付ですよね~。え~と~」ぱらぱらめくりながら「まず、エデンの住民証明書を発行する前に~このエデンの歴史について軽くご説明しますね!」

ガイゼリック : 「三行で頼む。お主は余計に長くなりそうだが」

受付嬢 : 「エデン創立の歴史は50年前から始まります」聞いてない


聞いてない。

そんなわけで、まったく三行で終わらない受付嬢の説明が始まりました。


受付嬢 :

「昔々、エレン・カースンというそれはえらーいテイダン神官様がヴァルハラに流れてきました」

「彼女は、奈落の魔域内で数少ない資源を人蛮で奪い合っている惨状を憐れみ、人族と蛮族でいがみ合っている場合ではなく共に魔域脱出を志すべきだと唱えました」

「しかし、当時蛮族とバリバリ戦争していた人々は中々その理想に共感できずにいました」

「そこでエレン様は、自分一人で蛮族領に入り、蛮族たちに人蛮融和を唱えることで理想を実現して見せると人々に返しました」

「エレン様は有言実行で本当に単身で蛮族領で教えを説き始めました」

「そして蛮族領土の最深部にまで到達したのです」

「人々は、あの聖女なら戦争を終わらせてくれるかもしれないと淡い希望を抱きました」


ガイゼリック : 「豪胆だなぁ」

受付嬢 : 「ですよね!私もこの話好きなんですよ~!なんていうんです、腕っぷしでブイブイ言わせる女性神官ってかっこいいっていうか!」

ガイゼリック : 「正に豪傑だな」(脳内に広がるゴリゴリしいエレンの図)

受付嬢 : 「ね~!!……こほん、話が逸れましたね」


受付嬢 :

「しかし結局エレン様は人族領に帰ってくることはありませんでした」

「残虐非道な蛮族たちに騙され、惨殺されたのです」


外のリアトリス:エレン……(ぶつぶつ)

外の“ヘーゼル” : マスター?

外のリアトリス:いや、どっかで聞いた名前のような気がして……。


受付嬢 :

「エレン様の顛末に、人々は大いに悲しみました。ああ、結局蛮族たちとの融和など夢物語に過ぎないのだと」

「……だがしかし、そこで諦めない人がいました。20年前、初代エデン最高指導者となったテイダン神官様は言いました」

「蛮族が我々との融和を理解できないのならば、彼らが理解してくれるまで教育すればよいのだと」

「蛮の生き方しか出来ぬ奴らに、我々人族の在り方を強要すればよいと」


ガイゼリック : (あー、ヘドが出るやつだこれ)

受付嬢 : 「そうすればいつの日か、蛮族と分かり合える日がくる。その新たな教えをもとに15年前に結成されたのがエデンとなるのです!」


歴史を語り終え、えっへんと胸を張る受付嬢。


ガイゼリック : 「へーすごいなー」(棒読み)

受付嬢 : 「すごいですよね~! なので、このエデンでは人蛮が一緒に暮らすことを目標にしているんですよ~。素敵ですね!」

ガイゼリック : 「しかし、街中にはほとんど蛮族はいなかったようだが……つまり目標は依然達せられてないと?」蛮族、いなかった、よな?

GM:まあはい、そうですね。皆さんが街を歩いてきた限り、蛮族は見かけませんでした。ただ、受付嬢ちゃんは首を傾げます。

受付嬢 : 「?達成されてますよ? 蛮族さんたちが恥ずかしやがり屋で街中に出てこないだけで。……あ、やっぱり外から来ると、蛮族たち恐ろしいですか?」

ガイゼリック : 「うんにゃ、全く」

受付嬢 : 「いえいえ、大丈夫ですよ誤魔化さずとも! そうですよね恐ろしいですよね!」

ガイゼリック:オーケーわかった。こいつ、完全に話を聞かんタイプだな……。

受付嬢 : 「ご安心ください!」


これまた胸を張った、笑顔でいっぱいの受付嬢ちゃん曰く。

「このエデンでは蛮族たちがちゃんと人族社会に溶け込めるように"加工"しておりますので!」


外のリアトリス:加工。

ガイゼリック : 違和感のある言葉を聞いた瞬間、奥歯がぎりっといった気がするが気のせいだろう。

受付嬢 : 「順に説明しますね! まずドレイク種ですけど。彼ら、飛んだりドラゴンに変身したり怖いじゃないですか?」

ガイゼリック:そもそも怖くないって言ってるんだが……。いや。じっと睨みつけながらも聞いてる。

受付嬢:「なので、竜化用の魔剣をへし折って、ついでに翼も片方折っています! 空を飛べなくなるのは悲しいけど、その分地上で私たちと語り合えますね!」


相変わらずの満面の笑顔で、えらいことを告げてくれる受付嬢ちゃん。


外のリアトリス:(悲鳴)やめろー!!ドレイク、魔剣折られるのめっちゃ痛いんだぞ!! 下手したら死ぬぞ!!?

ガイゼリック : 完全に据わった目で聞いている……


受付嬢 : 「続いてバジリスクはですね、目を見るだけで石化するなんて恐ろしいですよね?」

ガイゼリック : (半ば遮りながらの棒読み)「へー目をえぐると。なるほどなー」

受付嬢 : 「その通り、魔眼をくりぬきます! まあ、魔眼じゃない方の目が残っていれば目は見えますね!」

外のリアトリス:……!! ……!!(※声になっていない悲鳴)

受付嬢:「あ、でもバジリスクの中には両目魔眼の方もいらっしゃいます。そういう方は……ね」

ガイゼリック:ね、じゃないが。


裏で聞いていたPC一同の中。

リアトリスは本人がバジリスクな上に、割と同族意識に付随する誇りが高いせいで、ここで一度完全に絶句。(PCに引きずられてPLも絶句)


外のリアトリス:……。

外のアミ:こいつ、今まで見たことないくらいしょぼくれてる……

外のマリーナ:まあ最悪の場合~、ヘーゼルが目になってくれるでしょう~??

外のヘーゼル:ええ、私があなたの目になりますよ、マスター!!

外のリアトリス:やだ……そういう問題じゃない……


怯えるリアトリスに、ここで“ヘーゼル”からさらに一言。


外のヘーゼル:大変なことに気が付いたんですが。マスターマスター。

外のリアトリス:なんでしょうか子犬さん。

外のヘーゼル:正直ここでマスターの両目どっちもくりぬいて貰った方が、「私に頼らざるを得ないマスター」が出来上がるので私的には幸せなのでは?

外のリアトリス:なんて????

外のアミ:ヘーゼルさん……?


何かの深淵を見た。(ヘーゼル「冗談です」リアトリス「本当!? なあ本当に冗談だよな!!?」)


受付嬢 :「さて、どんどん話しますね!」

ガイゼリック : 「いや、儂人間だから正直どうでもいいというか……聞きたくないんだが……」


完全にじっとりとした目になったガイゼリックに気が付くこともなく、受付嬢はどんどん「加工」の説明を続けます。


受付嬢 :

「ボルグ等筋肉隆々な方たちは、片腕を頂きます」

「ディアボロは古代魔法文明時代に、魔法王の人体実験で宝玉を埋め込まれた種族だとか。かわいそうなので、身体中の宝玉を取り除いてあげています」

「最後にオーガとラミアたちですが彼らは人を食べますからね。なので歯を抜きます! ただしくは犬歯ですね~、噛むためだったり吸血に使う歯です。これで彼らも野菜の美味しさに目覚めてくれるはずです!」


外のリアトリス : (意識を取り戻して抗議)死ぬが~~~~???? オーガは最悪いいとして、ラミアは血を吸えないと死ぬぞ~~~????

受付嬢 : 「……あ、でも、ラミアさんがこの街から完全に消えた~とか噂で聞いたことがあるのです。残念、お友達になりたかったのに~」

外のリアトリス:ほらそれ!! 餓死してんの!!!!

受付嬢 : 「はい、以上が加工の話ですね!どうです、これなら蛮族でも安全でしょう? いや~、こうすることで初めて蛮族たちが私たちと一緒に暮らせるのですから、彼らも幸せなはずです!!」いい笑顔。

ガイゼリック : 「うむ、食事中には絶対に聞きたくないな」……なあ。

外のアミ:はい。

ガイゼリック:この受付嬢、そろそろ斬るが、いいか?

外のアミ:すて〜い、すて〜〜い!!!

受付嬢 : 「あ、ついでに犯罪歴ある蛮族たちには全員奴隷の首輪が付けられてます。首輪をしめるコードが一般市民に公開されてるので、脱走とかされても安心ですね!」


完全に暴れだしたい気持ちを抑えながら、なんとか、本当に何とか説明を聴き終えたガイゼリック。


受付嬢:「は~い、以上で説明終わりで~す。何か質問とかありますかぁ?」

ガイゼリック : げっそり「……この街に法はあるのか?」

受付嬢 : 「法ありますよ? 人族間でも、盗難とかあったら嫌ですからね」

ガイゼリック : 「聞きたいのはそういうことじゃな……いや……。うん、そうか」

受付嬢 : 「それでは手続きに移りますね~。え~と、まずこの申請書に名前、種族、性別、年齢を記入していただいてェ」

ガイゼリック : 黙々。

受付嬢 : 「あ、あと申請前にバニッシュとデイテクトフェイスをかけさせていただきます!」

外のリアトリス:バニッシュ!(悲鳴)

外のマリーナ:ディテクトフェイス!(悲鳴)

ガイゼリック : 「なんじゃそら」

受付嬢 : 「蛮族かどうかと、信仰している神が分かる魔法です!まあ一応ね?」

ガイゼリック : 「ほー、知らんかったわー!種族と信仰かー!」(待機してたリアトリスに) いいから出ろお前ら!!

リアトリス : はっはっは。ダメだこりゃ。「具合悪くなってきちゃったなー。また今度来ようか妹よー」さりげなーく、マリーナとイチャイチャ()しながら役所を離れるよー。酒場いこっか、酒場。

マリーナ : 「わかった~。おうちかえろ~、おねえちゃん」

ガイゼリック : (あれ?なんでマリーナまで)

リアトリス:……そういえばギズ、マリーナの第二の剣の信仰に気づいてないんだっけ?

ガイゼリック:そうなのだ。


そういえばそうだった。

リアトリスがバジリスクなのは最早パーティ内でも公然のことですが、人族二人(アミ、ガイゼリック)はマリーナがエイリャーク神官なのがわかっていない。


ガイゼリック:知らない奇跡を使ってるのは知ってんだが、セージもライダーも取っていないので『なんか知らん小神か?』と思ってんだわ。

マリーナ:あはは~? とりあえず~、ほんとディテクトフェイスは詰んじゃう。このまま住民登録できなかったら、マリーナ、居場所を追われて下水道の中で「一時間息継ぎなしで行けます!」って言いながら浮いてるだけの存在になっちゃう~。

リアトリス:優しき水で私のことも救ってくれ、マリーナ。あきらめて二人で下水道の魔物になろう。

マリーナ:なろなろ~。

アミ:諦めないで?? 

リアトリス:まあ、実際半分冗談だが半分本気。正規手段ではどう頑張ってもここ二人(リアトリス・マリーナ)は住民登録できないことが分かった。……レアは、こうなること見越して酒場に来いって言ったんだろうな。


マリーナ・リアトリスはここで完全に役所から退場。

ただ、人族であり、第二の剣信仰でもないガイゼリック・アミ・“ヘーゼル”に関しては、申請自体に問題はなさそうということで三人そろって住民証明書をもらうことに。


受付嬢 : では滞りなく申請は済みます。「いやぁ、今日だけで三人分もお仕事しました!! 私偉いぞ、偉いぞおおおおおお!」

アミ : 「はいはい、えらいえらいねー……はぁ、長かった……」

“ヘーゼル” : 「ご苦労様でございました」


愉快な受付嬢から、決して愉快ではない楽園(エデン)の内部事情を聴いたPC一同。

想像以上に危険な香りにため息をつきつつ……さてこれからどうするか。全員五体満足で無事に帰れるよう、作戦を練らねばなりません。

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