第4話スティル戦線編「閉幕」

 スティル戦線は終結し、シノア達特務隊も前線基地に戻っていた。






「ん……」


「目を覚ましましたか? まだ眠っていて大丈夫ですよ。」




 はっきりとしない意識の中、目を覚ますとそこには天幕が広がっていた。声のした方を見ると、そこにはスーリが座っていた。ふいに足元に重みを感じ視線をやるとメイが伏せている。



「メイ……?」

「メイは大丈夫ですよ。大した怪我もありません。そのまま寝かせてあげて下さい。三日も眠ったまま起きない貴女に付いて、泣きながらずっと看病していましたから……。さすがに疲れたのでしょう。」


「三日も……? そう……皆には心配かけたわね……メイも大きな怪我が無くてよかった……」

「メイが無事なのはあなたのお陰ですよ。あの時、あなたが庇わなければメイはきっと、命を落としていたでしょう。でも、命に別状がなかったから良かったものの、後少しずれていたら貴女が死んでいました。あまり無茶はしないで下さい。魔砲兵も防壁を張れなければ、普通の人間なのですから。」



「えぇ、ごめんなさい。」



 メイに大きな怪我がないことに安堵し、エリィは再び眠りについた。




















 一方その頃、シノアは司令部に招集されていた。




「魔導砲撃特務隊シノア・フィン・ウィーテル特佐入ります」




 司令部の中にはいかにもな風貌の男と共に、立派な髭を蓄えた老齢男性と、サイルという名の側近一名が立っていた。その男の名はシグン・フィン・ウィーテル。航空魔導隊総司令でありながら作戦本部特務室長、シノア達特務隊直属の上司である。そしてシノアの実の祖父でもあった。


 どうしてそんな立場の人間がこの最前線に来ているのだろう。シノアには理由がわかっていた。側近以外には知られていないが、何を隠そうこの男、孫同然のシノア達特務隊の面々が大好きであり、大の孫馬鹿である。あらかた特務隊の負傷報告を聞き、視察を名目に飛んで来たのであろう。それを上手く処理している側近は有能であるが、その苦労が思いやられる。そして、重苦しい雰囲気を醸し出しながらその男は口を開いた。




「よく来てくれた。活躍は聞いているよ。隊員の容態はどうかね?」



「はっ。重傷者が一名いるものの、命に別状はありません。他の者も負傷はしてますが、軽微であります。」



「そうか、辛い任務をさせてすま「「ガッハッハッ。特務隊ならばその程度の負傷などなんのこともないであろう。あの砲撃の威力、実に見事であった。敵の逃げ惑う姿、実に愉快だったぞ! しかし、あんな餌に釣られるなどやつらも大した事はありませんな。これで私も本国に胸を張って凱旋出来るというものですよ。」




 いかにもな風貌の男は、まるで全て自分の手柄と言わんばかりに割って入り、軽快に話している。どうやらこの男は空気が読めないらしい。側近の表情が変わり、シグンの醸し出す雰囲気が怒りに変わっていくことに気づいていない。








「黙れ!! 貴官の事は全て聞き及んでいる。戦線を終結させたことは褒めてやろう。しかし!! この戦線がここまで長引いた原因に気付いていないと思ったか!! 物資の横流しを行い、自らの私腹を肥やしていた事!! それに気付いた者を前線に送り、死ぬ様な作戦を立てていた事!! その犠牲となった者達の事をなんとも思わんのか!! この様な恥さらしの指揮官がどこにいる!! 貴官は本国に帰りたいようだな。いいだろう。帰してやる。だが本国で安楽な生活を送れると思うな!! この報いは受けてもらう!!」


「そ、そんなことは……」


「サイル!! こやつを捕らえておけ!! グノン、貴官への通達は追って行う。シノア特佐、此度はご苦労であった。こんな作戦を遂行させてすまない、特務隊には短いながら休暇と帰還命令をもらっている。すぐにでも本国に戻って療養してくれたまえ。」



「はっ。ありがとうございます。では、将官はこれにて失礼致します。」








 あのいかにもな風貌の指揮官、名前グノンだったのか…… 

 それにしても、ジジイが真面目に仕事をしている所を見るのは珍しいなと思いつつ指令部を後にした。




 帰還報告を伝えに、エリィが治療されているテントに向かっていると、帰還負傷兵の中にライルを見つけた。どうやら彼も一命は取り留めたらしい。容態を確認するか迷ったものの、その場を後にした。途中、後処理に追われ三日間あまり食べていなかった事を思い出し、食料をもらいに配給所へよると、リーシャとエーファを見かけた。エーファは尋常じゃない量を食べている。その様子にリーシャが困っていたので、制裁をくわえておいた。共に戻ることにしたが、それでもエーファ手には大量の食料が抱えられていた。お前今大量に食ってただろう……。テントに着くとエリィも目を覚ましていた。




「エリィ!! 目覚めていたか!!」

「心配かけてごめんね。もう大丈夫よ?」

「エリィはまだ寝ていないとダメなのですよ」




 エリィは大丈夫と言っているが、明らかに顔色は悪く大丈夫そうではない。きっと、メイにこれ以上心配かけまいと、多少無理をしているのだろう。






「そうだぞエリィ、無理はするな。そして諸君! 本国への帰還命令と休暇が出ている! 帰ってゆっくり休もうではないか!!」

「ようやくですね。滅多にない休暇ですので、ゆっくり休みましょう。」

「うちはなぁ、とりあえずなぁ、シャワー浴びて暖かいお風呂入りたいわぁ、もうべっとべとやからなぁ。しーちゃん、帰ったら一緒にはいろなぁ?」



「ふぃっふぉにふぁふぉ?! ふぁふぇふぁ!!|ふぁふぁふぃふぁふぃっふぉふぃふぁふぃふ!!」



「喋るか食うかどっちかにしろ!! そしてお前とは絶っっっ対、一緒には入らんからな!! 私はリーシャと入るんだ!! スー!! 戻ったらこいつを監禁しておけ!!これは命令だ!!」

「隊長、休暇中に仕事をさせることは、如何に上官命令とはいえ、職務規定違反ですよ? お断りします。」


「しーちゃん、えーちゃんがなぁ? なにいってるかよぉわかるなぁ?」

「このド変態の言いたいことなど簡単にわかるわ!」



「んっく、ぷはぁ! わかるのは愛の力だ!! 恥ずかしがるなよぅ?? ふひひひ!! もはや|最終防衛線は突破したも同然だぁ!! 諦めて一緒に入ろうぜ隊長ぉ!!」

「んなわけあるか!! えぇい!! 離せ!! よるな!! 絶対に嫌だぁ!!」






 捕まえて離さないエーファに嫌がるシノア。いかに軍人として優秀であろうと、いかに死神と言われようと、彼女達が普通の少女でもあることは、この光景が物語っている。戦場に似つかわしくない和やかな空気だが、こういう時間こそ、彼女達が過ごすべき本来の時間なのではないだろうか……。










「ふふ、あの二人は本当に仲良しね」

「あれは仲良しというのでしょうか……」




「メイはずっとエリィの看病するのですよ?」

「ありがとうメイ。お願いするわね?」

「えへへ、任せるのですよ!」




 メイに笑顔が戻り、特務隊にも明るさが戻った。いつものやりとりである。

 こうして特務隊は本国への帰路についた。

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