第3話スティル戦線編「共鳴魔導砲」

 進軍開始の指示と共に、轟音が鳴り響いた。中央の部隊が前進していく。シノア達特務隊も配置についていた。






「昨日の人なぁ、生き残れるとなぁ、ええよなぁ」

「悪そうなやつじゃなかったもんな」

「でも、あの場所で生き残れるわけがないのですよ」

「せめて、出来うる限りの援護をしましょう」






 皆の表情は暗い。何も知らない味方を餌に背後から撃つなど、気分がいいものではない。しかし任務である以上やらないわけにはいかない。そんな葛藤をしていても戦況は進んでいく。そして、開始の時が訪れた。




「悩んでいても仕方がない。私達はやれることをやるしかないんだ。始めるぞ」

「共鳴魔導武装展開! 飛翔・共鳴開始! 目標、前方アラフィア軍、距離、千八百、標準合わせ!」




 武装を展開し共鳴を始めた。共鳴による背後への光の放射と展開した魔導陣、その姿はまるで天より使わされた神の御使いのようであった。





「共鳴魔導砲、放てぇ!!」





 シノアの指示により放たれた魔導砲は前方の全てを光に包み込んだ。暖かく、優しい印象を受ける光である。しかし、そんな見た目とは裏腹に、放射線上の地形は変化し物体は溶解、生物は炭と化し、膨大な熱量による影響か、各地で上がった火の手は激しく燃え盛り、炎の渦となって天高く昇った。また、孤軍奮戦していた味方の部隊も跡形なく消えていた。


 少数を犠牲にしてでも損害を抑え、相手に甚大な被害を与える。戦争としては正しいのかもしれない。しかし、犠牲となる者からするとどうなのだろう。なにも知らされず、餌として死ぬことを強いられる。考えるだけ無駄なのだろうか。所詮は数字上の犠牲。上の連中は手を下す者、下される者のことなど、きっと考えてもいまい。




「共鳴魔装解除、個別魔装展開、リーシャ・エーファはスーの指示に従い左へ、メイとエリィは私と共にこい!」

「了解!」

「誰一人死ぬことは許さん! 必ず生きて戻れ、いくぞ!!




 シノア達の砲撃とその被害を見た敵軍は、もはや戦意を喪失していた。特務隊の噂は聞けど、その威力を目の当たりにしたことが無い者達にとって当然のことであり、そんな者達を相手に戦うそれは、もう戦争とは呼べない代物。航空部隊は壊滅、残った地上部隊は圧倒的な戦力差にすり潰され、一方的に行うその蹂躙は、もはや戦争というよりは虐殺そのものであった。








 そして、スティル戦線は瞬く間に決した。








「もう勝敗は決まったというのに。ここまでやるかね、我が軍は」

「いくら味方とはいえ、いい気はしないわね」

「だから戦争は嫌いなのですよ」

「ここはもういいだろう。後は友軍に任せて、スー達と合流しよう」






 シノア達はスー達と合流した後、生存者がいないか捜索の為、中央戦線跡に来ていた。しかし、見つかるものは息の絶えた者達ばかりである。やはり、あれだけの砲撃に巻き込まれては、生きている者などいないのだろうか。






「あそこ、なにかいるのです!」






 メイが見つけたのはライルだった。しかし身体は傷だらけであり、手足は一部欠損、とても生きているとは思えない状態であった。




「う……あ……」


「生きているのですよ!」


「こ……こは…………?」


「喋っちゃだめなのです! すぐ運んであげるですよ!」




 ライルは奇跡的にもまだ生きていた。生きる為に必死で行動したのであろう。欠損した手足を焼き、止血した痕がある。






「うぅ……」






「あっちにも動いている人がいるのですよ!」






 メイは走った。ライルが生きていたことに、少し気が緩んでしまったのだろう。警戒はしていなかった。








「この……化け物どもめ!!」








 弾ける様に響く高音と共に、メイに向け放たれた一発の凶弾。










「メイ! 危ない!!」










 メイの身体は宙を舞った。自分が倒れているはずの場所に崩れ落ちるエリィを残して。








「メイ……大……丈夫?」


「メイは大丈夫なのです。それよりエリィは……」


「メイが……無事なら……よかっ……た」


「エ……リィ…………? エリィ! エリィィィィィィ!!」




 メイの叫び声が響く中、エリィの周りは赤く染まっていた。 

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