第2話 スティル戦線編「ライル」

 西方のスティル戦線への参戦を要請されたシノア隊は、向かう汽車の中にいた。


「うぅ…… 気持ち悪いぃ」


 真っ青な顔をしてうなだれているエーファ。エリィの膝を枕にスヤスヤと眠っているメイ。そんなメイを撫でながらエリィは外を眺めている。リーシャいつものことながら、シノンを人形のように抱いている。スーは小説であろうか、なにやら本を読んでいた。



「リーシャこれ美味いぞ?」

「しーちゃん食べさせてくれるん? ありがとなぁ? ん~、ほんまやなぁ! しーちゃんが食べさせてくれるから余計美味しいわぁ」


 シノアをぎゅっと抱きしめるリーシャ。そんな二人を見た変態が一人。


「ふぁあぁぁぁ!! 美少女があーんをしているだとぉ!? う、うらやま、いや、け、けしからん!! 実にけしからん!! その場所を変われ! 今すぐ変わるんだ!! 撫で回してあんなことやこんなことを…… ぐふふふ」

「寄るな変態!!」


「あらまぁ? 体調悪くてもなぁ、相変わらずやんなぁ」

「エーファ、大人しくしてないと更に酔うわよ」

「ほんと騒がしい人ですね」




 鈍い音と共に崩れ落ちるエーファ。頭にはヒヨコがクルクルと回っていた。


「うるさいのです。」


 メイは再び眠りについている。眠れる魔神を起こした罪は重かったようだ。エーファは起こしてもうるさいので、着くまでこのままにしておくことにした一同であった。




















 道中特に問題もなく、シノア達特務隊はスティル戦線司令部に到着した。



「魔導砲撃特務隊、ただいま着任いたしました」



 いかにもな風貌の男が立っている。どうやらここの指揮官のようだ。彼から戦況と作戦内容を説明された。戦況は若干の優勢であるが敵アラフィア軍は硬く、自軍としては人数はいるものの補給物資や兵装が不足し、決定打が打てずにいるらしい。




 作戦名はデルタブレイク。明日一二:○○より展開中である歩兵と少数の機動型戦車を混合させた部隊で中央に火力を集中。中央の前線を押し上げた後、更に奥深くへ突撃。

 惹きつけ奮戦している所を味方もろとも魔導砲撃で殲滅。その後、飛行が出来る特務隊は二隊にわかれ、左右へ分散し敵魔導航空隊を急襲によりこれを撃破。

 開いた中央を航空爆撃部隊で突破し敵本部を爆撃制圧、残る地上残存兵力を重装甲部隊により殲滅掃討……である。






 司令部を後にした特務隊は、待機テントへと案内された。



「突撃部隊もろとも殲滅とは、あんなもの作戦とは呼べんな」



シノアの表情は険しかった。作戦とはいえ味方をも直接その手にかけることになる彼女達からすれば当然である。



「またこの手の作戦かぁ」

「いくら魔導砲撃が広範囲殲滅できるはいえ、こういうやり方を多用されると流石に、ね……」

「うちはなぁ、難しい事はよくわからへんけどなぁ、もっと他にやり方あるんやないかなって思うんよなぁ」

「私達が軍人である以上、仕方ありませんよ。上からの命令には従うしかありませんから。」

「メイはどうでもいいのです。興味がないので」



 メイはどうでもいいと言っているが、表に出さないだけで人一倍繊細な子だということは皆が知っていた。いつもけだるそうにし、隙あらば眠っている彼女が自分達の傍にいる時以外は全く眠れないこと。そして常に悪夢に悩まされていることも。



「まぁ、ここで文句言っても仕方あるまい。今の内に食事にいこう」


 配給所は兵士達で溢れかえっていた。しかし、特務隊を見るなり皆道を空ける。彼女達を見る兵士の表情には、恐怖、羨望、畏怖、怒り、様々な感情が滲み出ていた。そんな最中、一人の兵士が彼女達に近寄ってきた。


「初めまして! 俺ライルって言います! あの……特務隊の方々ですよね?」

「あ、あぁ……」


 普段、戦場では声をかけられない所か、他の兵士とまともに目が合わない彼女達は突然のことに驚く。他の兵士達もざわついていた。



「俺、前の作戦の時、あの戦場にいたんです! 部隊も壊滅して、敵に囲まれてもうだめだと神様に祈った時、あなた方の魔導砲撃で助けられたんです。空から砲撃しているあなた方を見た時、まるで神様の使いが、助けてくれたのか思いました!!」


「神に祈る暇があるなら生き残る為に行動しろ。神や天使がお前を助けた訳ではない。」


「そうですねよ……。でも、俺、本当に嬉しかったんです! あの地獄の中あなた達を見たとき、俺はまだ生きられるんだって! 俺、今回も必ず生き残って見せます! 今度は神様に祈るんじゃなくて、自分の力で!」


「……そうか。」

「はい! あ、俺もう行きますね。明日の配置、中央隊だから少し早いんです。ありがとうございました! 話せて嬉しかったです!」


 彼はそう言って走り去っていった。






「中央隊……か。」

「作戦内容、彼は知らないのでしょうか……」

「知らないであろうな。一歩兵に詳細までは知らされまい。」



 それぞれが思いを馳せ、そして夜が明け、作戦の開始時間が訪れる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る