第368話

 それは去年のこと――。

 SHINYをデビューに導きながら、『僕』はまったく別のアイドルも継続してプロデュースしていた。それがグラビアモデルの桃香。

 桃香とはそれより以前からの付き合いで、『僕』のプロデュース第一弾に当たる。

 SHINYの寮生活が始まるまでは、一緒に暮らしていたほど。桃香もまたS女子高等学校の生徒で、当時の『僕』もまだ教師ではなく、生徒に近い立場だった。

 朝は一緒に登校して、同じ教室で授業を受けて。おかげで魔法使いの『僕』も高校生並みの学力を身に着けている。

「Pさんの魔法があれば、いつでもプールで泳げちゃいますね」

「たくさん泳いで、体力もつけなくっちゃ」

 放課後は水泳部でトレーニング。

 桃香はおしとやかな性格とは裏腹に、ダイナマイト級のプロポーションを誇った。水泳部用のスクール水着には魔法も併用して、どうにか爆乳を押し込んでいる。

 いずれ妹の美玖も同じことになるのかもしれない。

 言うまでもなく、モデルの仕事はそのスタイルを活かしてのもの。

 桃香は恥ずかしがりながらも、チアガールやレースクイーンに扮し、少年誌や青年誌のピンナップを彩った。もちろんビキニで表紙を飾ることも。

 人気は徐々に拡大し、今や男性という男性が彼女の虜となった。

 仕事ぶりは一生懸命で、スタッフからの信頼もあつい。『僕』が魔法でサポートしたとはいえ、CMの依頼もどんどん数が増えた。

 ただし桃香のグラビア撮影には、ひとつ条件があった。

 彼女が言い出したものでその内容は、必ず『僕』が撮影に同席すること。

「一番にお見せするのは、Pさんじゃないとイヤなんです」

 男性に撮られるのは抵抗があるらしい。

 だからといって、『僕』はアンチムラムラフィールドを乱用しなかった。アンチムラムラフィールドの影響下にあっては、カメラマンが調子を落とすためだ。

 その頃の『僕』はまだカメラの勉強中で、代わりに撮ってあげることもできず、桃香は少なくともスタッフのムラムラに晒されている。

「いいんですよ、カメラさんもお仕事ですから。モモはPさんに……その、写真じゃない生で、見て欲しくって……それにモモだってプロですから、早く慣れなくっちゃ」

 プロデューサーの『僕』になら、水着を見せても平気――そこで閃いた。

「じゃあもらった衣装でさ、ふたりでグラビア撮影の練習しようよ。撮るのが僕なら、桃香ちゃんも安心でしょ?」

「は、はい! モモ、頑張っちゃいますね!」

 こうして『僕』たちはプライベートで撮影の練習を始めることに。

 その日は水泳部の練習のあと、こっそりプールにて。

「まずは準備体操から行ってみようか。なるべく大きく動いてみてー」

「はい。こ……こうですか?」

 カメラマンとしての『僕』の指示は無難なものから、

「飛び込み台に座ったら、脚を広げて?」

「ええっ? じ、じゃあ……少しだけ……」

「だめだめ。頑張って、百八十度!」

 時には過激なものまで。

 この特訓の甲斐あり、グラビアモデルの桃香はさらに輝くようになった。

 正規のカメラマンたちも舌を巻く。

「モモPと特訓してるんだって? 確かにグッとよくなったよ」

「カメラに物怖じしなくなったというか……そんな雰囲気、ありますね」

 モデルとしての実力に加え、確固たるプロ意識が備わり、桃香はマーベラスプロを代表する名タレントへ成長を遂げた。


 そして現在に至る。

 今の『僕』たちは一緒に住んでいないものの、彼女の部屋はSHINYの寮から目と鼻の先。同じS女の三年生なのだから、学校でも会える。

 昼休みに三年一組の教室を訪れると、桃香のクラスメートが諸手で歓迎してくれた。

「あっ、P先生! 今日は桃香とランチ?」

「そうなんだ。お邪魔しまーす」

 『僕』は手頃な椅子を借り、桃香の机で本日のお弁当を待つ。

「ごめんね、僕の分まで作ってもらっちゃって……」

「いいえ、そんな……モモ、Pさんとお揃いのお昼にするの、好きですから」

 桃香は照れ笑いを浮かべると、可愛らしい手作りのお弁当を披露した。

 ミートボールにタコさんウインナーなど、お子様ランチ風のメニューで、眺める分にも楽しい。ご飯にあらかじめ海苔が乗っているのが、『僕』のほう。

「この海苔がベチョーってなるのが、美味しいんだ~」

「お茶もありますよ。うふふ」

 ほとんど同じお弁当を並べて、一緒にいただきます。

 周りの女の子たちも興味津々に『僕』に声を掛けてきた。

「P先生ぇ、一年とばかりじゃなくて、三年とも遊んでよね? こっちは受験勉強で参ってるんだから、たまには息抜きくらい~」

「ちょっとぉ? 真子は水泳部でP先生と遊んでもらってるくせにー」

 クラスメートの誰かが『僕』をフトモモに座らせてくれるのも、いつものこと。

「私のことは気にしないで、続けて、続けて。お仕事の話でしょ」

「ありがとう。桃香ちゃん、今日の放課後だけど――」

 久しぶりのCM撮影に桃香が意気込む。

「頑張りますね! Pさん」

「頼りにしてるよ」

 彼女は受験に専念するため、今年は仕事を減らしていた。

 マーベラスプロも一度は難色を示したものの、月島社長がコンプライアンスを優先。むしろこれを機に、桃香本人に時間を取らせない方向で、新しい企画を進めてもいる。

 ただ、爆乳が売りのモデルだけに、過激な仕事も多かった。プロデューサーとして今回の仕事を引き受けておきながら、『僕』は彼女の顔色を窺う。

「桃香ちゃん、その……バニーガールで大丈夫?」

 そんな『僕』の不安を、桃香は朗らかな笑みで吹き飛ばしてくれた。

「任せてください! モモ、バニーの衣装も欲しいと思ってましたから……うふふ」

 撮影用の衣装はバストサイズの関係で桃香くらいしか着られないため、よくもらっている(押しつけられる、といっても間違いではない)。また、ほかの仕事でも流用できることから、実際のところ有用だった。

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