第367話

 恥辱のステージが幕を開ける。

(こ、こうなりゃ自棄だ~!)

 SHINYのプロデューサーなのだから当然、SHINYの楽曲はすべて頭に入っていた。これまた女物の靴下でステージを踏み締め、ダンスも再現する。

「おおおーっ」

 本物のアイドルたちは最前列で『僕』のオンリーステージを見上げ、唸った。『僕』の拙いダンスから一秒たりとも目を離さず、リズムに乗る。

「ピースよ、Pくん! カメラにピース!」

「ひいっ? そこまでするのぉ?」

「これで浮気の件は許してあげるんですから。観念してください」

「次はハートマーク作るやつ! 両手をこんなふうにしてぇ」

 その後も彼女たちの注文に応じながら、『僕』は真っ赤な顔でピースを決めたり、胸元でハートマークを作ったり。

(は、恥ずかしすぎて死ぬ……!)

 足が竦んで、ついにはへなへなと尻餅をつく。

「もぉ許してえ~?」

 一方で、SHINYのメンバーは同時に喉を鳴らした。

 ごくり――と。

 里緒奈がステージへよじ登り、おねだり上手な四つん這いで近づいてくる。

「ね、ねえ……Pクン? 全部許してあげるから……リオナのこと、ぎゅってしてぇ?」

「……え?」

 きょとんとする、セミヌードの『僕』。

 菜々留も里緒奈に続き、ステージへ這いあがってきた。

「抜け駆けはなしよ、里緒奈ちゃん? Pくん、ナナルも……お願ぁい」

「いいっ? いや、それが原因でこうなったんじゃ? 恋姫ちゃん、何とかして!」

 『僕』は狼狽しつつ、恋姫に救いを求める。

 ところが恋姫まで、もどかしそうに身体をくねらせながら、おずおずと迫ってきた。

「レ、レンキが一番ですよね? P君。ぎゅってして気持ちいいのは……」

「リオナだってば! Pクンの初めて抱っこは、リオナのだもん!」

「でもステップアップはナナルと一緒だったのよ?」

 プロデューサーの『僕』を巡り、アイドルたちは押し合いへし合いを始める。

「待って、待って! これは浮気のお仕置き……うわっ?」

 その勢いで三人分の突撃を受け、『僕』は押し倒されてしまった。右腕は菜々留に、左腕は恋姫に拘束され、正面からは里緒奈がにじり寄ってくる。

「ねえ、Pくん! 一番はナナルよね? Pくんが選んでくれるなら、ナナルぅ」

「いいえ、レンキですっ! あ、あんなことまでしたんですから……」

「どっちもだーめ。Pクンはリオナのなのっ」

 可愛い恋人候補たちの際どい恰好が、『僕』の目を釘付けにした。

「み、みんな……」

 里緒奈も、菜々留も、恋姫も、ステージ衣装の胸元を緩め、先日買ったばかりのブラジャー(『僕』が選んだ)を覗かせる。

 その生地越しに柔らかいものが感じられた。右から菜々留の、左から恋姫の、さらには正面からも里緒奈のたわわな巨乳が、誘惑を投げかけてくる。

「いいでしょ? Pクゥン……Pクンにぎゅってされるの、すごく気持ちいいんだもん」

「ナ・ナ・ル・と……ね? Pくんも気持ちいいの、好きでしょ?」

「な、菜々留と里緒奈を抱き締めるなら、恋姫もです! 責任は取ってください!」

 どうやら『僕』のステージを見るうち、情欲に火がついてしまったらしい。

 だいしゅきホールドの虜になったのは、『僕』だけではなかった。彼女たちもまた病みつきになり、心のみならず、カラダが『僕』を必要としている。

 当然『僕』とて、この状況で我慢できるはずがなかった。右手で菜々留を、左手で恋姫を抱きすくめながら、正面の里緒奈を迎え入れる。

「……わかったよ。おいで」

「はぁーい」

 誰にも知られてはいけない、内緒のライブコンサート。

「やぁん! Pクン、もっと優しく……あっ、そんな強くしちゃ」

「イジワルしないで? んふぁ、Pくぅん……ナナルにも、もっとすごいのぉ」

「こんな時だけ、あんっ……優しくなるの、は、反則ですよ? P君」

 バックスクリーンに流れるアイドルたちの悩乱ぶりは、もちろん自主規制――。


 その一部始終を、美玖は映像管理室で目の当たりにしていた。

 まさかのラブシーンに紅潮しつつ、生唾を飲み込む。

「に……兄さんが、里緒奈たちと……あんなふうに、やだ、絡みあって……」

 おかげで身体は火照り、狂おしいほどに疼いてならなかった。無意識のうちに服を捲し上げ、あの抱擁の感触を再現できないものかと、躍起になる。

 色っぽい吐息を漏らしつつ、唇が勝手に動いた。

「お兄ちゃん……えへへ……」

 発情期のアイドルがもうひとりいることを、プロデューサーはまだ知らない。



 二日間に渡るSHINYのコンサートは大成功。

 それだけで終わるはずもなく、SHINYは今日もアイドル活動に励む。

「頑張ってね! みんな」

「うんっ! リオナに任せて、Pクン」

「今夜もご褒美、期待してるわよ? うふふっ」

「んもう、菜々留ったら……それじゃ、いってきます」

 アイドルたちは当然のこと、プロデューサーの『僕』もやるべきことは多かった。

 スケジュールの調整、企画の売り込み、打ち合わせ――などなど。そんな『僕』のサポートがあってこそ、里緒奈たちは全力でアイドル活動を楽しめる。

 その甲斐あって、世間でもSHINYは『ますます可愛くなった』『応援したい』と好評を博していた。

 SPIRALとの共演も決まり、名実ともにトップアイドルの仲間入り。

 ある情報誌ではこんなインタビューが掲載された。

『元気いっぱいのSHINYですが、エネルギーの源は何ですか?』

『内緒でぇーす! ごめんね』

 本当のことを言えるはずがない。

 その夜も『僕』たちはS女のプールで集合した。里緒奈たちは先日の世界制服で手に入れた、ケイウォルス学園の――純白のスクール水着を着て、恥ずかしそうに微笑む。

「今夜はナナルからよ? Pくん。ナナルのこと、いっぱい抱き締めて?」

「う、うん……ほんとにすごい恰好だね、それ」

「ぴ、P君が着せたんじゃないですか! ばか……」

 まだ躊躇っている菜々留や恋姫を差し置き、里緒奈が飛び込んできた。

「明日はお休みだもん。みんなで一緒に夜更かし……しよ?」

「順番は守るんだぞ?」

 プールサイドにはお風呂セットに、ソープマットも。

 SHINYの熱い夜は終わらない。

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