第227話

 ジャージに着替えて、集合~!

 今日は学校のあと、NOAHのみんなでスポーツジムへ。前に咲哉ちゃんがラジオで言ってた『ジャージ企画』を、実行することになったの。

 ジムは定休日なんだけど、融通してもらって。聡子さんが頭を下げてる。

「急なお話に対応していただき、本当にありがとうございます」

「こっちも宣伝になりますので、ありがたいくらいですよ。ただし安全のため、こちらのトレーナーは必ず傍につけてください」

「わかりました。森地(もりいち)さんでしたね、今日はよろしくお願いします」

 私たちが一様に見上げるくらい大柄な女性トレーナーが、本日限りで仲間に加わった。

「私がいるから、安心してトレーニングしてちょうだいネ」

「はーい!」

 その間にも急ピッチで撮影の準備が進められる。

 杏さんやリカちゃんは少し戸惑ってた。

「ジムなんて初めてだわ。どれも見たことのない道具ばかりで……」

「重たそ~。これ、アイドルの仕事?」

 リカちゃんってば、トレーナーさんの前でも遠慮しないんだから、もぉ。

 奏ちゃんは手足を解しつつ、咲哉ちゃんに尋ねる。

「咲哉はちょくちょく通ってるんでしょ?」

「ええ。でも素人なのは変わらないから、わからないことは森地さんに聞いてね」

 トレーニングのための場所かあ……。

「貸し切りで独り占めしちゃうなんて、なんだか悪い気がするね」

「器具のメンテも必要でしょうに、ね。宣伝のためにも今日は頑張りましょ」

 私と咲哉ちゃんはハイタッチで意気込む。

 本日の収録は一部を生配信して、編集したものを後日に流す、という段取りだった。マネージャーの聡子さんも見守る中、撮影がスタートする。

「森地さんも遠慮せず、枠に入ってくださーい」

「そう? じゃあ……」

 まずはセンターの私が恒例のご挨拶。

「こんにちは、NOAHの御前結依で~す! 今日はジャージ企画第一弾ってことで、スポーツジムからお送りしちゃうよ」

 以前にも増してカメラの『枠』をはっきりと感覚できた。

 私が右寄りに一歩前へ出れば、杏さんのジャージ姿が映えるはず。

「そ、その前に……ご好評いただいてます、このジャージ、再販が決まりました」

「杏ってば、声が裏返ってるわよ?」

 リカちゃんの朗らかな笑いが緊張感を和らげる。

 ジャージは今日も私がピンク、杏さんは青、リカちゃんがオレンジで、奏ちゃんは紫だね。咲哉ちゃんは赤色のジャージ姿を初めてファンに披露する。

「なかなかいいわね。デザインもスマートで……」

「あんたはスタイルがいいから、そう言えるんでしょ」

 奏ちゃんの言う通り、咲哉ちゃんは何を着ても似合っちゃうんだもんなあ。いつぞやの怪獣の着ぐるみ(明松屋ザウルス)でないと、咲哉ちゃんの魅力は相殺できないかも。

 トレーナーの森地さんはカメラの前でも堂々としてた。

「まずは準備体操よ。トレーニングでは怪我をしないことが一番、大事なの」

 私たちは適度に身体を慣らして、ウォームアップ。

 身体が柔らかいのは咲哉ちゃんで、次は私、それから奏ちゃんかな。

「奏ちゃんったら、意外に柔らかいのね」

「これでも一応、バレエを習ってる身だから」

 歌と作曲にバレエまで……勉強もできるし、奏ちゃんはパーフェクトに近いかも。

 一方で、杏さんとリカちゃんは柔軟にも四苦八苦してた。ふたりとも身体をコの字にするも、そこから前へ倒せずにいる。

「こ、これ以上は……曲がらないわ」

「アタシもギブ~!」

「ギブアップも何も、まだ始まってすらないよ?」

 私はリカちゃんの、咲哉ちゃんは杏さんの背中を加減しつつ押した。

「無理、無理、無理ぃ~!」

 ふたり分の痛切な悲鳴が木霊する。

 森地さんが苦笑した。

「無茶はだめよ? バッキリ、なんてこともあるんだから」

「ひっ?」

 脅迫めいた一言に杏さんもリカちゃんも青ざめる。

 奏ちゃんは平然と問い返した。

「実際、あるんですか? トレーニングで腰や脚を痛めたりってこと」

「身体ができていないうちからオーバーワークすると、簡単にね。だから焦りは禁物よ。ちゃんと自分のレベルに見合ったトレーニングで、少しずつ慣らすべきなの」

 生放送で熱を出しちゃったばかりの私には、耳に痛い話かも。

 アイドル活動を中心にした新しい生活も、持ち前の体力で切り抜けられると思ってたんだよね。でも本当は心身に大きな負担が掛かってて、限界を超えてしまった。

 自分の身体のこともわかってなかったんだなあ……って、猛省してる。

 咲哉ちゃんは抜群のスタイルで胸を張った。

「そろそろ体力テストを始めない? 結依ちゃん」

 あ……私ってばお仕事を忘れてる。

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