第94話
メンバーの誕生日は公式プロフィールでも公開されてるんだっけ。
「結依がおひつじ座で、杏はうお座かあ……奏は?」
「ふたご座よ。六月生まれね」
星座の話になると俄然、アタシは強気になる。
「リカちゃんは?」
お母さん、九月に生んでくれてありがと。
「とーぜんっ、おとめ座よ。お、と、め、座!」
ふたご座の奏が形相を変える。
「あんたがおとめ座ぁ? おとめ座の女子って……実在するわけ?」
「いやいや、普通にいるでしょ。八月下旬から九月に生まれる女子くらい」
確率のうえでは、十二人にひとりはおとめ座よね。
でも『乙女』ってフレーズだけに、気分がよかった。女の子ならおとめ座でしょ!
「ふんだっ。羊も可愛いもんね」
「魚はどうかしら……」
「そんなこと言ったら、さそり座は最悪でしょうよ」
いつしか桜なんてそっちのけで、アタシたち、お茶菓子ばかり進んでた。
同世代の女の子同士で、女子会ってやつ? これも初めて。
子どもの頃は売れっ子で引く手数多だったけど……アタシは本来あるべき大切な時間を失ったのかもしれなかった。
クラスメートとお昼ご飯を食べたことは、ほとんどない。
帰りに寄り道したことも、一度だって……。
新しい学校に行ったら、結依のほかにも友達ができるかな?
……できるといいな。
なぁんて、こっちはセンチなこと考えてるのに、奏は余所見してる。
「噂の弟さんはいないの?」
噂になるほどのこと、話したっけかなあ……。
「さあ? 日曜は稽古もないし、どっか遊びに行ってるんじゃないのぉ?」
「弟に関心はないわけね、あんた」
物足りなそうな奏に対し、珍しく杏が味方してくれた。
「何言ってるのよ、奏。弟っていうのは、ほんともう全っ然、つまらないんだから」
「そうそう! 生意気だし、デリカシーはないし……」
「まだ中学生なのに、エッチな漫画隠してたのよ? 信じられないわ」
「うんうん。アタシの弟もグラビアの切り抜き、集めててさあ」
結依は苦笑いを引き攣らせる。
「そ、それくらいで……弟さんにも事情があるんだよ、多分」
奏のほうは冷めきってた。
「ふぅん……弟ってそんななのね。あたしんとこはアニキだから、ぴんと来ないわ」
アタシたちは一斉に前のめりになる。
「ええっ? 奏ちゃん、お兄さんがいたの?」
「年上の兄弟ってどんな感じ?」
つまり奏は『妹』ってことね。この強情なのが、妹……。
妹の表情は苦々しかった。
「アニキってば、あたしの出掛けに『スカートが短いぞ』とか言ってくんのよ? どこ見てんのよって話」
うーん……アタシが思ってるのとは違うっぽい。
ひとりっ子の結依が羨ましがる。
「あたしは妹か、お姉さんが欲しかったなあ……。お姉ちゃんには勉強教えてもらったりして、妹とは着せ替えっこしたり……どお?」
その隣で、ひとつ年上のお姉さんがわざとらしく咳払いした。
「こほん。お、お勉強なら? わたしがいつでも……」
「一ヶ月しか変わらない姉が、何言ってんの?」
杏って、こういう駆け引きにとことん向いてないのよねぇー。正直すぎて、常に裏表の『表』しかないってゆーの?
「弟の話なんて、やめやめ! 桜を見に来たんでしょ? 今日は」
「それ、あんたが言うわけ?」
不毛な男子の話はそこまでにして、アタシたちは高尚なお茶会を楽しむ。
「忘れないうちにPVも撮っておきましょうか。結依、カメラは?」
「待ってください。ちゃんと鞄に」
「お家のかたに撮影許可はもらわなくっていいわけ?」
「アタシが撮るわ。結依や奏じゃ、手ブレしちゃうでしょ」
もうじき年度が替わって、四月かあ……。
NOAHはどーなるんだろ?
☆
そんなこんなでメンバーがお仕事に勤しむ中、私にも出番がまわってきたの。
御前結依、本日はバックダンサーのお仕事へ。
ダンサー仲間の咲哉ちゃんが、更衣室で私を迎えてくれる。
「結依ちゃん、コンディションは万全?」
「もっちろん!」
バックダンサーの面子は大半がマーベラス芸能プロダクションの候補生。でも私と咲哉ちゃんだけ、余所からの飛び入りだった。
目を見張るほど容姿端麗で、最初は主役のアイドルかと思っちゃったな。プロポーションも抜群で、ライダースーツのような衣装も綺麗に線が出てる。
私にないものを持ってるなあ……。
「お客さんはすごい数よ? 一世一代の舞台になりそう」
「プレッシャー掛けないでってば、もお」
私も着替えを済ませて、仲間とともに開演の時間を待つことに。
本日は人気絶頂のアイドルユニット『SPIRAL』のコンサートなの。リーダーの有栖川刹那はビジュアル、ダンス、歌のすべてがパーフェクト。
メンバーも粒揃いで、ドラマにラジオ、バラエティーと、あちこちで活躍してる。
あれで私と同い年だなんて……。
けど羨ましがったって、しょうがない。今日はSPIRALの胸を借りるつもりで、バックダンサーを頑張らないと。
NOAHの御前結依がバックダンサーを務めるってことは、秘密になってる。
でも気付くひとはいるだろうから……って、井上さんの作戦だった。もちろんSPIRALの有栖川さんも了承済みだよ。あとでお礼を言っておこうっと。
願わくは、玲美子さんみたいなアレじゃありませんように。
あと、ゴールデンウィークの日程が被りませんように。
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