チャプター9 村長会議
「今日お集まり頂いたのは皆さんご存知の事と思います。明日開催される村長会議についての打ち合わせになります。
ここにお集まり頂いた皆さんは村長になる為にお集まり下さった事と心得ています。私は皆さんに問いたい村長とは、その定義をお聞かせ下さい!」
マリアンヌに連れて来られた元村長のお屋敷はそれはご立派じゃった。
長い渡り廊下には何やら獣を模した面が飾られており、広い広間には可憐な花が飾られておる。
通された居間らしき場所には、ゴシック調のテーブルが置かれておる。モダンな感じじゃ。
そして、並べられているお茶菓子は何かのパイみたいじゃった。甘酸っぱい赤いフルーツがジャムになって挟んである。お茶が進むのぅ。
ワシはこの世界でのお茶(何やら紫色をしておる)を啜りながら、眉間に皺をよせ眼鏡を曇らせながら熱弁しておる女を見よる。
「そこのあなた村長の定義を聞かせなさい!」
指名されたのは、何処か頼りなさげな眉の下がった爺さんじゃった。
「ゴホンッ。ワシが思う村長とは村人の英雄であり、村人のお手本である存在だと思いますじゃ」
「ありきたり! 次!」
女は爺さんを一括すると、その隣の爺さんを指名しよった。
「ワシは村人が魔物に襲われていたら杖でぶん殴り戦い、間違えて村人を殴ってしまうぐらいのユーモアを兼ね備えた存在じゃと思う」
「アホか! 村人死ぬだろ! 次」
女は更にその隣の屈強な爺さんを指名したようじゃ。
「ワシが村長になった暁には、村人全員をぶちのめしてやるんじゃ」
「危険人物か! 次」
ついにワシの出番がやってきたようじゃった。
女の威圧的な態度に急かされるようにゆっくりと立ち上がる。
隣ではマリアンヌが心配そうな顔でワシを見よる。
「ワシが思う村長とは……」
一呼吸置き、周りを見渡す。
「スーパースター並みのカリスマ性を持ち合わせつつ、村人の為に一生懸命頑張る気持ちを持っている人じゃ」
女がワシの顔を凝視する。
開いた口は不思議そうに歪められており、今にも何か言いたげに震えている。
――通じたんじゃ。ワシの思いが通じたんじゃ。
喜び勇んだその矢先じゃった。
「はぁー。てか、あんたダレ?」
隣にいたマリアンヌの身体がビクッと震えおった。
下を向き無視を決め込んだマリアンヌに向けて女が言い寄る。
「ねぇ、マリアンヌ。確かあなたのお爺さんは剛毛よね?」
「……」
マリアンヌはだんまりを決め込んでおる。
「そして、長髪を縛ってたわよね? 天に向かって」
マリアンヌの額から大量の汗が滴り落ちておる。
ワシは見ての通り気持ちいいほどのツルッパゲじゃった。
「いつからこんな禿げ上がったのよ! 見た目だって全然違うじゃない!」
「オリーブ様。祖父も苦労したんです」
――そ、そういう問題じゃないんじゃー!?
と思ったが2人の動向を静かに見守る。
「苦労とかそういう問題じゃないわよ! ハゲ散らかしてるだけじゃなくて、そもそもあんたのお爺さん女装癖でしょう!」
――さ、更なる秘密が暴露されおったー!?
ワシは驚愕する。
「そうですけど、それが何か?」
マリアンヌが当然のごとく答えるが、ワシは驚きまくりじゃった。
それは無理があるのぅ代役にワシを置くのは、としみじみと思う。
「ハゲてても、女装してなくてもうちのお爺さんには変わりないんです!」
抵抗を続けるマリアンヌじゃったが、集まっていた村人の発言で我に帰る。
「あの、私……昨日マリアンヌさんの所のお爺さんが、女装姿でスキップしている所をゴブリンにかっさらわれるのを目撃しました」
ほら見た事かとオリーブがマリアンヌを睨みつけよる。
「人違いだわ」
マリアンヌが当然の如く言い放ちよる。
「マリアンヌ、あんたいい加減にしなさい!」
旧村長宅に怒号が響くとついにマリアンヌも改心したようで
「だって連れていかれちゃったんだもん」
と、頬を膨らませ呟くのじゃった。
「村長選挙は延期よ。とにかくマリアンヌのお爺様を救出しなければ……」
眉間に皺を寄せながら、そわそわと歩き回るオリーブに対して
「それは、大丈夫です。オリーブ様」
とマリアンヌが自信に満ちた表情で言い放ちおった。
「このお爺様はその昔、100匹のドラゴンを持ち前のガッツと杖で討伐し、潜ったダンジョンは数千を越える冒険者達憧れのスーパースター☆だったんです。武道も魔法を双方に長けていて、育てた弟子達も今や一線級の戦力になっていて、どこぞの王国のお抱え兵士だったり、どこぞのお姫様の側近だったりするんですよー。」
「マリアンヌそれは本当ですか! お爺様大変失礼を」
オリーブはそう言うと深く頭を垂れたのじゃった。
――はて? ワシはそんなドラゴンとやらを杖で討伐した事などあったじゃろうか。
「早速お爺様を冒険者ギルドに連れて行きますわ」
「ええ。頼んだわよマリアンヌ」
――冒険者ギルドとはなんじゃ?
ワシは一体何処に連れて行かれるんじゃろう……。
一抹の不安を抱えるばかりじゃ。
★★★
「サルエル面白チャンスですよ」
サルエルの耳元で微笑みながら私は囁きます。
「そんなシャッターチャンスみたいなノリやめて下さい」
村人が集まった旧村長宅で、村人に埋もれて爺さん達のやり取りを私たちはしっかり聞いていました。
面白いは絶対逃さないぞ、と言った心意気で待ち構えていました。
そうしたら案の定、面白い事になりました。
「そもそも爺さんは魔物と戦った事があるんでしょうか?」
「さぁ、どうでしょう」
私は軽く答えます。
爺さんがモンスターに負ければゲームオーバー。
爺さんにかかったチートスキルは自動解除になるはずです。
「ミカエル様また何か悪だくみされてませんか?」
「いいえ、全然」
――勘が鋭くなりましたねぇ。サルエル
一瞬ですが冷やっとしましたよ。
ポーカーフェイスでニコニコとほほ笑んでいる私を、サルエルが鋭い眼差しで見てきますがそこは気にしない私なのでした。
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