チャプター8 喋りたい女

「ここがタビダッチの村です」

 

 サルエルが余裕の口調でいいよる。

 しかしのぉー、爺さんはもう……。


「大丈夫ですかー。石頭さん」 


 頭上からは全く心配していない、むしろ楽しそうなミカエルの声が降ってきよる。


「爺さん大丈夫カイ?何かあったら保険金は降りるようになってる?オイラそれだけが心配なんだ」


 こちらはお金大好き、物知り博士な可愛い神獣ククルの声のようじゃ。

 ワシはその場に座り込み、ゼーハー、ゼーハーと大袈裟な呼吸をしよる。


「しかし、お主らは凄いのぉー。ゼーハー、あの魔境のような道のりに呼吸一つ荒げずとは大したものじゃ。ゼーハー」


 説明しがたいのじゃが今にも落ちて崩れそうな橋や、ここは江戸かというぐらいの急こう配に、何やら怪しい芳香を放っている植物と危険因子のオンパレードじゃった。


「まぁー、一応無敵の天使ですから」

 

 ミカエルがさらっと言いよった。


「同じく天使なんで」


 さらっとサルエルがつづきよる。


「ボクは爺さんに捕まってるだけだからラクショーだよ☆」


 ククルが胸を張って答えよる。


「ゼーハーゼーハー。フォーッフォッフォッ。お主らは誠に面白いのぉー」 


 こんなに疲れるのは老人会で高杉山に登って以来じゃったが、何故か気持ちはとても愉快じゃった。

 一人で上る山は寂しい、じゃが皆で登る山はハイキングのようで楽しい、そんな気分だからじゃろうか。

 しかし……。


「何分、爺さんだもので体力の限界じゃ。とりあえず茶でも飲める所で休まんか」


「良い提案ですね。最高のアフタヌーンティー日和ですね」


 ミカエルが空を見上げ背伸びをしよる。

 心なしか小鳥のさえずりが聞こえるような気がしよる。

 『タビダッチ村ここです↓』と書かれた看板を通り過ぎ村の中に入ると、そこには孫の翔太が夢中でやっていた『ドタコンクエスト』のような世界が広がっておった。

 ローブやキルトのような服を着て、異国情緒溢れる雰囲気を醸し出しておる老若男女が、活き活きと通りを闊歩しておった。


「旅立ちの鉄則ですが、まずは村人に話を聞いてみましょう。まずはあの喋りたくて喉から手が50本ぐらい飛び出してきそうな村人10代女性に話しかけてみましょう」


 ミカエルが具体的すぎる提案をしてきよった。

 ワシはフルフルと身体を震わせながら、老人特有のもったりとした動きで、喋りたくて喉から手が50本がぐらい飛び出してきそうな村人10代女性に近づき話しかけてみたのじゃ。


「良かった!話しかけてくれて。もう喉から50本ぐらい手が飛び出してきそうな勢いだったの!」


 なんと話かけた『喋りたくて喉から手が50本ぐらい飛び出してきそうな村人10代女性』は、本当に喉から手が50本飛び出しそうな勢いの女性じゃったのじゃ。驚きじゃ。


「で、私見ての通りお喋り大好きなんです。で、聞いて欲しいんですけど、うちのお爺ちゃんが失踪してしまって。それはなんでかって言うと村長選挙の前日だからで、うちのお爺ちゃん凄く村長っぽい顔をしているんですね。村納めますみたいな、村ごと守護しますみたいな。だからきっと責任感っていうか、なんていうのかなナーバスになって家出しちゃったのかな。

でも探しに行かないんです。面倒臭いから。そこで誰か身代わ……ゴホンッゴホンッ。お爺ちゃんに似たようなお爺さんを見つけてお爺ちゃんの代わりに村長選挙に出てもらっちゃおうかなって思ったんです。

でも、そんな常識に囚われていない発想斬新過ぎて大丈夫かなって思うんですけど、きっと私行い良いから大丈夫かなって今思ったんです。よろしくお願いしますねお爺様!」


 喋りたくて喉から手が50本ぐらい飛び出してきそうな村人10代女性は、本当に喋りたかったのじゃろう。矢継ぎ早に話し終わると。


「私の名前はマリアンヌ。お爺様の可愛い可愛い孫娘です」


 と、意外にもさらっと自己紹介をしよった。

 どうやらワシは知らぬ間に村長選挙に参加する事になってしまったらしいのぉー。

 旅は苦難の連続じゃて。

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