第4話:心隠せば

賀喜遥香は遠藤さくらに憧れている。

正しくは遠藤さくらの『人生』に憧れている。

同じように清宮レイや早川聖来の『人生』にも憧れの気持ちを抱いていた。

何も特別なことは望んでいない。

ただ、普通に友人と遊びに出掛けたり、おしゃべりをしたり、進路について悩んだりしたいと思っていた。

親との喧嘩でさえも遥香にとっては羨ましかった。

本当は普通の女の子として生きてみたかった。

けれど、それは叶わぬ夢だと分かっていた。

だからこそ遥香は心を隠して黒子のボスとして生きる『人生』を歩む覚悟を決めたのだ。

幼なじみの三人も同じ気持ちだと思っていた。

遥香の目からは自然と涙がこぼれ落ちた。


遥香「I see...もう、どうでもういいや」


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


バスから降ろされた遠藤さくらは、黒子の掛橋を追いかけていた。

油断した隙にスマホを奪われてしまったのだ。

きっと、母親からの連絡がたくさん来ているはず。

あれがないと、今すぐ謝ることも、自分の考えを伝えることもできなくなってしまう。

本当は喧嘩なんてしたくなかったのに。

そんな思いがさくらの頭の中をぐるぐると駆け巡っていた。

そのときだった。

さくらの横を別の黒子が追い抜いていった。

その黒子は三人組の女の子に追いかけられていた。


遠藤「あなたたちも何か取られたの?」


清宮「うんうん。鬼ごっこしようって言われて、面白そうだったからつい追いかけちゃって」


遠藤「鬼ごっこ?一体、あの子たちは何を考えてるのかしら」


矢久保「レイ・・・ごめんね。レイの気持ちも考えずに、色々と押しつけちゃったりして」


清宮「そんな!嫌なんかじゃないよ!だって、あの服だってレイのこと思って選んでくれたんでしょ?だから、そんなに不安にならないで?友達でしょ」


矢久保「レイ・・・ありがとう」


柴田「私もごめんね。本当は気づいてたのに黙ってて。これからは気になることがあったらちゃんと言うね」


清宮「うん!これからはみんな隠し事はなしだね!」


矢久保「なんだかんだ、あの黒子ちゃんのおかげなのかもね」


レイたちの崩れかけたバランスが元に戻ると、また別の黒子が姿を現した。


田村「あら、ごきげんよう。先に行ってるわね」


早川「ちょっと!待ちなさいよー!」


遠藤「あのー、あなたは何をされたんですか?」


早川「え?いや、何かされたっていうほどでもないけどな。好き勝手言われて腹立ったから追いかけてんねん」


北川「聖来ちゃん・・・私もう疲れちゃってダメかも」


早川「何言うてんの!言われっぱなしでええんか?悔しくないんか?」


北川「私は自分の気持ちを伝えることができたから結構満足してるんだ」


早川「悠理ちゃん・・・ほんまにごめんな。うちがビビりやったわ」


北川「ビビりなんかじゃないよ。聖来ちゃんのお話とっても楽しいし、大好きだよ」


金川「あ、あのさ」


早川「ん?どうしたん?」


金川「私も、二人に言いたいことがあって」


早川「なんや?文句があるんやったら聞くで」


金川「そういうんじゃなくてさ、聖来と悠理ちゃんのこと本当は大好きだよって言いたくて」


早川「はあ?言いたいことってそれなん?」


金川「そうよ!だから、ずっと素っ気ない態度取っててごめん」


早川「いや、わざわざ言わんでも知ってたで」


金川「え?」


北川「私も知ってたよ」


早川「やんちゃんの好きは溢れすぎてて隠し切れてへんのよ。上手く隠せてると思ってたんはやんちゃんだけやで」


金川「ちょっと、何よそれ!めちゃくちゃ恥ずかしいじゃないの!」


早川「まあでも、ちゃんと言葉で伝えてくれたんは嬉しかったわ」


北川「私も紗耶ちゃんのこと大好きだよ」


金川「えー、恥ずかしいよ。ありがとう」


早川「それはそうと、あの女は逃がさへんよ!みんな、もっとスピード上げるで!」


こうして、三人の黒子と七人の少女たちの鬼ごっこが始まった。


そうとは知らず、遥香は独り、何も映らなくなったモニターをただ静かに見つめていた。



つづく。

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