第3話:我慢なんかしてたって
大学生の早川聖来はゼミで仲良くなった友人の金川紗耶、北川悠理とレストランでランチを食べながら他愛もない話で談笑していた。
早川「でな、うちは大阪がいいと思うねんけど、どう思う?」
金川「そだねー」
早川「紗耶、うちの話ちゃんと聞いてる?」
金川「え?なんだっけ?ゼミの課題の話だっけ?」
早川「ほら、全然聞いてへんやん。来月の旅行、どこに行こうかって話やろ」
金川「あー、そうだった。私はどこでもいいかな。二人が決めていいよ」
早川「悠理ちゃんはどこか行きたいとこある?」
北川「私は・・・うーん、そうだなあ」
早川「うちは絶対に大阪!二人に地元案内したいし、なんたって大阪にはUSJがあるしな!で、悠理ちゃんはどこがいいの?」
北川「あ、うん。じゃあ、私も大阪で」
早川「よし!そんなら大阪に決まりやな」
三人の会話は大体いつもこんな感じだった。
聖来はとにかくおしゃべりするのが大好きで、一度話し出したら止まらない。
そのため、紗耶と悠理はいつも聞き手に回っていることが多い。
そんな聖来に対し、紗耶は特に大きなリアクションを返すわけでもなく、素っ気ない態度で話し半分に聞いている感じに見える。
しかし、実際のところはそうではない。
紗耶は聖来の話を最初から最後までしっかりと聞いている。
紗耶は聖来のことが大好きなのだ。
好きが強すぎて引かれてしまうのではないかと、必死に気持ちを抑えて素っ気ない態度を取っていたのだった。
一方で悠理はというと、おっとりしすぎているせいか話したいことがあったとしても言葉にするまでに時間が掛かってしまい、考えている間に話が次の話題に移ってしまうことが多々あった。
その結果、何か決め事があったとしても大抵は二人のどちらかの意見に賛同するだけになってしまう。
もちろん、それが嫌だというわけではないが、本当は二人に伝えたいことがたくさんあるのだ。
そして、聖来にも実は悩みがあった。
聖来のおしゃべりが止まらない理由は、沈黙を恐れているからだった。
会話の中で沈黙が生まれると、相手につまらない思いをさせているのではないかと不安になってしまうため、隙間を埋めるように次々と話題を変えては話し続けるようになってしまっていた。
田村「あなたたち、話はまとまった?」
聖来たちの前に現れたのは黒子の田村だった。
金川「え?あなた、誰?」
田村「あなたたちと同じ、おしゃべりが好きな普通の女よ」
早川「普通って・・・そんな変な格好しとんのにどこが普通なんや」
田村「・・・」
早川「ちょっと・・・何か言い返してよ」
田村「沈黙が怖い?」
早川「え?」
田村「誰もが同じスピードで考えたり話したりできるわけじゃないの。怖がらないで少しは相手が話し始めるのを待ってみれば?」
早川「あんた、さっきから何勝手なことを・・・」
北川「聖来ちゃん!」
早川「悠理ちゃん?」
北川「私、本当は二人に話したいことがたくさんあるの。でも、いつも考えがまとまるのに時間がかかっちゃって。だから、その人の言ってるように、少しだけ待って欲しいの」
早川「悠理ちゃん・・・」
金川「・・・」
田村「金川紗耶。あなたも何か言うことはないの?」
金川「別に、何も言うことなんて」
田村「そう。我慢なんかしてたって意味なんかないのに」
金川「・・・」
田村「まあ、いいわ。今からあなたたち三人には私たちの計画を手伝ってもらいます」
早川「は?」
田村「ごめんね、ボス」
遥香は無表情でモニターでじっと見つめていた。
賀喜「やっぱり、あなたもなのね。真佑、あなたまで私を裏切るの?」
つづく。
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