竹久夢二の『花火』
ネコ エレクトゥス
第1話
金の生る木が傾いた。どうやら水のやりすぎで根が腐ってきて幹を支えられなくなっているらしい。イギリスの古い諺に「貧乏人に馬を与えると馬が死ぬまで走りまわす」というのがあるが、どうやら僕も諺を実践してしまったらしい。
先日メガネのフレームがポキッと折れた。例の10万円の支給金とかいうやつもメガネ代で消えていくことになった。世の中どうやらこういう風にできているらしい。それにしてもつくづく思う。
「まったく金とは縁のない人生だ。」
そんな僕にも財産と呼べるものがわずかだがある。その一つが竹久夢二の『花火』。と言っても版画なので当時たくさん刷られたうちの一つで、そんなに値の張るものじゃない。ただあれを買った時も今同様金はなかった。ただ何となく買わなくちゃいけないという思いに駆られて買ってしまったのだった。あのあと少し苦労した。ただそれだけ思い入れのある作品。
だが絵そのものは若い女性が花火をしているだけの小品なのだ。夢二としてもただ夏の一風景を描いただけだったのだと思う。何がそんなにこの絵に付加価値を与えているのか。それは大正という時代そのものが花火のような時代だったから。その花火のような華やかさと儚さがこの絵に乗り移ってしまったようだ。悲しいギターの調べを聞いてるかのよう。それでついこの絵を買ってしまったのだった。
この絵の後日本では何が起こったか。昭和に入り芥川龍之介が「将来に対する漠然とした不安」を感じて自殺し、世界恐慌や青年将校のクーデター、そして戦争へ、と進んでいく。大正はその前の最後ののどかな一日だった。
今年は全国的に花火大会が中止になるという。個人的には小規模でもどこかでやってもいいと思うのだがしょうがない。せめて子供たちの花火遊びぐらいはいつも通りやってもいいのではないか。ただその花火は愁いを帯びたものになるはず。そしてそんなテーマを描いた作品が今から100年後くらいに一人の人間の目に留まって買われていくのかもしれない。
竹久夢二の『花火』 ネコ エレクトゥス @katsumikun
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