2
二人は無言のまま、保健室の前までやってきた。優弥はやっとそこで美緑の手を解放した。
美緑は、今まで優弥が握っていた部分を、顔を動かさず目だけで見た。少し赤くなっていて、触れるとほんのり温かさを感じた。
優弥は、
「あら、どうしたの」
保健室の中では、ふくよかな
美緑はあまり保健室の世話になったことがないので、その教諭を見るのは久しぶりだった。初めて見たとき、柔らかそうな人だと感じたことを思い出す。
「すみません。この人、体調が悪いみたいなんで、休ませといてください」
美緑がボーっとしていたからか、優弥が代わりに説明してくれた。
「はい、わかりました。ありがとね」
養護の先生が安心感百パーセントの笑顔で答える。
表情だけでなく、存在そのものから優しさがあふれ出していて、この保健室を満たしている。そんなイメージがあった。
そういえば、小学校のときも保健室の先生って、すごく優しい人だったなぁ。養護教諭には、生徒を安心させる表情の試験でもあるのだろうか。
美緑はそんなことを考えながら、白衣を着た養護教諭に
「はい。じゃあ、これ」
養護教諭が体温計を渡してくる。
体温を計りながら、保健室の中を見渡す。どうやら、美緑以外に生徒はいないみたいだった。
優弥にお礼を言わなくては……。そう思って入り口の方を見たのだが、優弥はすでにいなくなっていた。
じっと、体温計が鳴るのを待つ。
現実感がなくて、夢の中にいるみたいだった。保健室という
ピピピ、という音で我に返り、脇から体温計を取り出す。三十七度六分。小さなモニターにはそう表示されていた。
ああ、結構高いな。朝よりちょっと上がってるし。
美緑は自分の体の温度に対して、
「あらら。ちょっと熱があるじゃない。こういうときは無理しちゃダメよ」
美緑の手元を
「すみません」
美緑はうつむいて小さな声で言った。
「
そう言った養護教諭の笑顔は、とても自然で優しかった。
一度ベッドに横になると、自覚していなかった気だるさが全身を襲う。
保健室独特の消毒液の匂いを感じながら、美緑は意識を手放した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます