8-①


 俺が美緑の死の詳細を知ったのは、今から数日前、彼女が死んだ日の翌日のことだった。

 受け入れがたい現実をどうにか受け止めた俺は、病院の一室でより詳しい話を聞いていた。

 医師の話によると、脳の血管の一部が細くなっていたらしい。そのせいで詰まった血管が破裂はれつし、彼女は死んだという。

 いつ死んでもおかしくない状態だった。

 美緑の脳を検査した画像をモニターに表示させて、医師はそう説明した。

「最近、美緑さんが頭を強く打ったというようなことはありましたか?」

「いえ。自分が知る限りでは、ないと思います」

 自分でも驚くほど空っぽの声だった。

「でしょうね」

 医師はうなずいた。

「と、言いますと?」

 俺は先を促す。

「おそらく、危険な状態になっていたのは、かなり昔からだったと思うんですよ。今まで倒れなかったことが、むしろ奇跡みたいなものです」

 医師は、美緑を死に至らしめた血管の収縮を、そう評した。

「ああ、この日ですね」

 カルテを見ながら続ける。

「この日に美緑さんは、頭を強く打って検査を受けています。当時は異常なしとなっていますが、このときにはすでに血管の収縮は始まっていたのでしょう」

「彼女が頭を打って検査を受けたという、その具体的な日付を、聞いてもいいでしょうか」

 俺は医師から見せられた数字を、心にしっかりと刻みつけた。

 思えば、このときにはすでに、覚悟が芽生え始めていたのかもしれない。

 その日付にはうっすらと心当たりがあった。今から十一年前、俺たちが中学三年生のときだ。

 体育の時間。体育祭を間近に控えていたため、授業の内容も、大半がその練習だった。比較的華奢きゃしゃな美緑は、女子全員が出場する騎馬戦きばせんで上に乗る役になっていた。その日の練習で、彼女は地面に落ち、頭を打った。

 男子も隣で組体操の練習をしていて、そのときの騒ぎは記憶に残っている。体育科の新任の教師がパニックになっていたことまで含めて。

 その頃にはもう、俺は彼女が気になっていて、日常的に美緑のことを目で追っていた。その日は、朝から少し体調が悪そうだな、とは思っていた。

 あのとき、無理やりにでも彼女が体育の授業に出ることを止めておけば、彼女は助かったのだ……。後悔だけが募る。

 頭を打った美緑は一瞬意識が飛んだものの、すぐに起き上がった。痛みは感じていたようだが、普通に歩けていたし、血も出ていなかった。

 念のため早退して病院で検査をする、というところまでが、俺が知っていたあの日の出来事だ。そしてその検査で、異常なしという結果になったということを、たった今、医師から聞かされて知った。

 医療技術は日々進歩している。逆に言えば、十年も前の技術は今に比べてつたないということになる。だからといって、仕方がないと思えるほど俺はできた大人ではない。

 あのとき、検査をして異常なしの判断を下した人間が許せない。けれど、そいつを責めても美緑が戻ってくるわけではない。

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