第11話 名も無き怪物

UGN H市支部 作戦会議室

打ち鳴らされる刃と刃。

狼王と夜叉の死闘は目にも留まらぬ速さ、空気をも震わせる勢いで繰り広げられる。

「全く……俺の右腕を奪ったお前がオーヴァードじゃないってのが本当に信じられないよ。」

「僕はあくまでもただの人だ。むしろ僕も君たちみたいな能力者が羨ましいよ。」

「吐かせ。お前みたいなただの人間がいてたまるかってんだ。」

二人は間合いを取りながら睨み合う。

「でも僕らの決着が全ての決着ってわけじゃない。僕の弟子達が君の部下を迎撃するからね。」

「果たしてどうかな、俺の新弟子も腕が立つ。尤も、お前の方が知ってるだろうがな。」


この時、陣内は全てを悟った。

「…そうか、君が蒼也を。」

「アイツはお前達に裏切られた。俺たちルプスはそう言ったやつらの溜まり場だから迎え入れたのさ。お前にとっては不服だろうがな。」

「いや、むしろ君が上司で安心したよ……!!」

瞬間、陣内の一閃が狼王ロボの腕を弾き飛ばした。

「僕の居合に反応できる、君が上司でね。」

「ハッ…お前は面倒だ。だが、戦っていて楽しいのもお前だけだ。」

二人は笑みを浮かべる。

そして再び、刃と刃がぶつかり合い、電撃が走った……



閃光瞬いたビルの屋上。

曇天から雨が降りしきる。

誰の涙か、雨粒は血に濡れた二人の悲しみを拭う事なく纏わり付いていた。

「ハァ…ハァ…」

「……よく避けたな。電撃にすら反応するとは、お前も立派なバケモノだ。」

黒鉄から距離を取る稲本。

彼の身体のあちこちが雷で火傷と焦げを負っていた。

「お前は……ノイマンとハヌマーンのクロスブリードの筈だったよな…?」

「最後にお前に会った時にはな。だが目覚めたんだよ。あの日、俺が楓を殺したあの日!!皮肉にもアイツと同じ能力のブラックドッグがなぁ!!」


瞬間、彼に稲妻が落ち雷を纏う。

稲本もその姿には見覚えがあった。

いや、正確には黒鉄の愛した人、『四ヶ谷楓』が雷を纏ったその姿。

「お前は……俺が……!!」

雷を纏った彼のナイフ術。

当たれば、ガードさえもダメージとなるそれを稲本は避けるので精一杯である。

だが稲本も負けじと稲妻よりも早くその刃を振るった。

「チィッ!!」

吹き飛ばされるナイフ、彼は即座にサブマシンガンに持ち構え弾丸の雨をぶつけんとする。

「十六夜ッッッ!!!!」

放つは『六之太刀 十六夜』。

全ての弾丸を切り落とし、左足を蹴り出そうとしたその瞬間。

「ぐぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

雷を纏いし狙撃弾が稲本の胴体に叩き込まれた。


「確かに十六夜は連続して放たれる弾丸を撃ち落とすのには有用だ。だが放ったその後、貴様はガラ空きとなる。」

ボルトアクションライフルを構える黒鉄の姿。

その彼の目は憎しみに支配され、今もまだ静かに憎悪の焔は燃えていた。

「こんな事して……楓が喜ぶと思ってんのかよ……黒鉄!!!!」

「黙れええええええ!!!!俺をその名で呼ぶな……!!俺はもうその名は捨てた……!!!!」

再度放たれる弾丸。

稲本は回避し一気に距離を詰める。

「テメエは黒鉄蒼也……それ以上でもそれ以下でもねえだろうが…!!!!」

時間差で放たれるナイフ。

黒鉄はナイフを撃ち落とすが、稲本の接近を許す。

「喰らえ…!!」

「誰が!!」

稲本の斬撃を籠手で受け流すヌル。

そのまま稲本の胴体に掌底を叩き込んだ。

「ガッ…!!」

破裂する内蔵、神経を破壊する雷。

稲本の意識は激痛に呑まれ今まさに消えんとした。


だが踏みとどまった。

「なっ…!?」

「暁……ッ!!」

朦朧とする意識の中、ゼロ距離で放たれた必殺の平突き。

ヌルはガードをするがそれは判断ミスである。

籠手は砕け、彼の身を守っていたアーマーも砕け散り、その突きは黒鉄の胴体を捉えたのだ。


「ハァ…ハァ…」

互いに口元の血を拭う二人。

拮抗した戦いは互いに幾度となく致命傷を与え、だが幾度となく踏み止まり終わりなどないように思わせる。

「お前は黒鉄蒼也……。四ヶ谷楓が、真奈が、愛した男、そして俺たちの家族だ……!!」

「違う……俺は、"名も無き怪物"、ヌルだぁぁぁぁぁッ!!!!!」

瞬間、ヌルが距離を詰めた。

瞬きすらも許さず、黒鉄の蹴りは稲本の右腕を蹴り飛ばす。

「グッ……!!折れたか……!!」

グシャリという音と共に吹き飛ぶ彼の愛刀。

稲本は咄嗟に能力で右腕を治癒する。

だがそれと同時にヌルの右ストレートが頰をかすめる。

「チィッ!!」

そして連続で放たれる右足の回し蹴り。

稲本の側頭部めがけて放たれた蹴りは彼が身をよじらせて回避する事で虚空を切り裂く。

その隙にすかさず叩き込まれる稲本のボディブロー。

「浅い…!!」

「チッ…!!」

ヌルは血を吐きながらその右手を絡めとり、飛び蹴りを放ち稲本の胴体を蹴り飛ばした。


命が悲鳴を上げている。

身体も限界だ、そう叫んでいる。

けれどもこいつにだけは負けられない。

互いに虚無から始まり、共に育ち、共に高め合い、そして道は違えど共に正義に憧れたこいつにだけは負けられない。

いや、正義すらも見失った奴などには負ける事など許されない。

そんな意地だけが今の稲本作一を立たせる。

「いい加減斃れろよ……ゼロ!!」

「誰が倒れてたまるか……。テメエをこの手でブチのめすまでは!!」

満身創痍の二人。

もう時期どちらかが倒れる。


その時こそが決着の時。

二人の男の戦いの終わりの時。

「だからお前は甘いんだよ臆病者!!お前には何度も俺を殺すチャンスがあっただろうに……!!」

「お前を殺しても誰も救われない……。死んだ奴が生き返るわけじゃないんだ……!!だから……!!」

「黙れええええええ!!!!」

遮るように黒鉄が叫ぶ。

「なら何故俺が生き残った…!!殺すことしかできない俺が、悲しみを生むことしかできない俺が!?何故、皆を助けるヒーローのあいつではなく、俺が生き残った!?」

その問いかけは誰にも答えることはできない。

きっと誰も答えを持っていない——

「あいつが……お前のヒーローの楓がそう願ったからだろ…………そんな事も分からねえのかよ……お前はよおおおおおお!!!!!」

彼以外は。


瞬間、駆け出す稲本。

放つは四之太刀、反撃の隙など与えない。

即座に終わらせる。

その決意が彼の一つ一つの動作に込められていた。


だが次の瞬間、床が抜けた。いや崩れ落ちた。

爆音と共に全ての床が砕け、二人は真っ逆さまに落ちていく。

「貴様…っ!!」

「空中じゃお前も…避けられないだろう…!!!!」

だがヌルはアンチマテリアルライフルを構え、スコープの中心に稲本を捉えた。

「お前を殺し、全てを壊し……初めて俺は……『黒鉄蒼也』は死ぬんだ……!!!!だから——」

右手の人差し指が引き金にかけられ、そして——

「サヨナラだ……相棒……!!」

轟音と共に弾丸は稲本目掛けて放たれた……


虚無と共に育った二人の戦いは、もう時期終わりを迎える……


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