第9話 再会

10月26日

火の上がるUGN H市支部。

「う、うわあああああああっ!!」

断末魔とともに血飛沫が上がり、次々と命が失われていく。

「月下天心流四之太刀――」

そんな最中に突っ込んでいく稲本。

「チッ!?」

「無月ッッッ!!!!」

放つは神速の切り抜け。

だがその男は大剣を用いその一撃をガードしたのだ。

「ガードされた…!?」

初見ではほぼ確実にガード不可の攻撃、それを目の前の男はガードしてきたが故に稲本は驚きを隠せない。


「その隙、もらった!!」

「くっ!?」

黒ずくめの女は脚に取り付けたブレードで稲本に斬りかかる。

「下がれ、ゼロ!!」

瞬間2人を遮るように放たれる炎の柱。

「アンタも迂闊なのよ!!」

そして2人を守るように展開されたバリア。

そのバリアには窓ガラスを貫通し、ブレイズのこめかみ目掛けて放たれた弾丸がめり込んでいた。

「"聞いてた通り"闘い甲斐がありそうじゃねえか!!」

「聞いてた通り…?お前ら一体どういう…!?」

「知る必要はないわ。アンタはここで…!!」

再び彼女の姿が消えたと思えば、それはもう既に稲本の前に。

「くっ!?」

再び放たれた蹴り、

「死ぬんだから!!」

闘いのゴングは鳴らない。

代わりに今、稲本がガードするとともに鋭い金属音が鳴り響いた。



ビルの屋上でライフルを構える1人のスナイパー。

『やっぱり、聞いてただけの実力はあるみたいですね。』

通信機から聞こえる若い声。

先程の弾丸を放ったスナイパーの声だ。

「集中して狙え。だが当てようとしなくてもいい。動きを縫うんだ。特にあの剣士にはな。」

『了解です。でもスナイパーなのに当たらない弾を撃つって中々に滅入りますけどね。』

「ならお前が当てたら1ヶ月飯を奢ってやる。これでどうだ?」

『良いですね。期待してますよ"名も無き怪物"さん。』

彼、名も無き怪物は静かに不敵な笑みを浮かべると、スコープを覗き、引き金に指をかけた。



「喰らいなっ!!」

大剣を振り回す男。

バロールのシンドロームらしく、その刃は見た目以上の質量で彼に襲いかかった。

「重っ…!!だが…!!」

しかし彼はその勢いを受け流すとともに前へと足を踏み出す。

「月下天心流二之太刀――」

「チィッ!?」

放つはカウンター、男の懐に飛び込まんとした。

刹那、彼の足がもつれる。

「なっ…!?」

いや、転ばされたのだ。

「何やってんだゼロ!!」

ブレイズは咄嗟にフォローとして炎を繰り出す。


「死になさい…!!」

炎を掻い潜る女。稲本は転んだ体制で咄嗟にその刃を受け止めるが、次の瞬間には弾丸が彼の顔を掠めたのだ。

「あのバカ…ちゃんと当てなさいよね!!」

「貴様の相手は俺だ!!」

炎の剣を繰り出し女に斬りかかるが、

「テメエも楽しそうじゃねえか!!」

思い切りよく振り下ろされる大剣。

「前に出過ぎよブレイズ!!」

とっさに大剣を止めるクイーン。

「お前もガラ空きだ!!」

そして再び行われた狙撃を居合で切り落とす稲本。


彼らは互いのコンビネーションで互いへの攻撃を受け止めていく。

だが稲本にとっては余りにも窮屈であった。

普段は伸び伸びと、自由に動きながら戦えるはずである。

でも今はまるで、全ての道筋を定められたような、全ての動きを決められたようにしか動けない。

まるで、敵がこちらの全てを知っているかのような。


「来るぞ!!」

稲本は再度激音とともに、弾丸を刃で振り抜く。

「クイーン、敵は3時方向!!索敵を頼む!!」

「アンタ達のサポートしながら索敵って、無茶言わないでよね!!」

クイーンはそう言いながらも敵付近を爆破し無理矢理動かす。

「このアマっ…!!」

「重力変換……対象強化!!やりなさい、二人とも!!」

「応ッ!!」

彼女の声に応える二人、稲本の斬撃はカマイタチの腹部を、ブレイズの炎はベルセルクの肩部を捉え切り裂いた。

「ぐっ…!!」

「やったか!?」

「いや、浅かった!!」

稲本は着地とともにターンし、再び剣を鞘へと納める。

「月下天心流 一之太刀――」

「させない!!」

一気に加速しレッグブレードで袈裟斬りを放つカマイタチ。

「三日月ッ!!」

ぶつかり合う刃と刃、その一刀は鋭い金属音とともに互いの刃を砕いたのだ。


だがそれ以降の戦闘は稲本の方が上手であった。

「くっ…!?」

「こうしちまえば…俺に狙撃はできねえ…!!」

稲本はカマイタチを窓側に立たせ、彼女を遮蔽物とするように立ち回ったのだ。

「このままこいつを突き落とし、俺はスナイパーを処理する…!!」


彼がそのまま女を蹴り出さんとしたした、その時だった。

カマイタチの体が一瞬揺らいだ。

側から見ればほんの少し、全く持って動いて無いに等しかっただろう。

その瞬間、遠くの何処かで光るのを稲本は見逃さなかった。

「ガッ……!?」

次の瞬間、窓ガラスを突き破り音もなく弾丸が飛来する。

そして鉛玉が彼の体躯を貫いていた……



『何ですかあの人、目が3個でもついてるんですか。』

驚きと呆れの混じった声が通信機に鳴り響く。

「あいつは殺気やその類を感じ取れるんだ。当たらなくてもそう滅入るな。」

『とはいっても、アンチマテリアルまで持ってきます?』

「奴にはこれくらい必要ってことさ。」

彼は少し調子のいい声でスコープを除く。

すると剣士はカマイタチを窓側に立たせ狙撃を遮らんとしているのだ。

「スナイパーへの対処としては確かに正しい…。だが、それが俺じゃなければだ。」

彼は左手の人差し指をトリガーに掛ける。

「カマイタチ、3センチ体を外らせ。」

「こんな体制で…!!」

「死にたく無ければ今すぐやれ。」

彼のドスの利いた声に畏怖したのか、彼女は無理矢理にでもその体を動かしたのだ。

「いい子だ……。そして、さようなら――」

彼はどこか哀しげな目で人差し指を曲げた。

「"相棒"。」



稲本の脇腹を貫いた弾丸――

いや、実際には半分に切り裂かれた弾丸の破片。

「いっ…てえ…」

「作一!!」

壁には砕け散った弾丸と、飛び散った鮮血がべっとりと張り付いていた。

だがそれ以上に、稲本の眼には明らかな敵意が滲み出ていた。

「クイーン、ブレイズ、コイツらを頼む…」

「ゼロ!?」

彼は立ち上がると一気に跳躍し、弾道に向けて一気に駆け出した。


再度放たれる弾丸。

彼は居合でそれを叩き落とし、ビルの上を駆け抜けていく。

そして彼は怒りと、猜疑の想いから叫んだ。

「何で…何でお前がそこにいるんだよ……。"黒鉄"ッ!!!!」


共に育ち、共に背中を預け合った二人の再会。

それは、血に塗れた死闘の幕開けであった…


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