第4話 強襲

13:00 H市 カスケード社

地下駐車場


昼下がりの午後、本来ならば何一つ動きなど無いはずだが、存在しないはずの人影がそこにあった。

「こちらブレイズ、ゼロと共に潜入に成功した。これより作戦を開始する。」

それはレイモンドと稲本の二人の影。

「さっさと終わらせてかき氷でも食いてえなぁ。」

「ったくお前は緊張感のない…」

二人は通気口の鉄枠を取り外すとその中へと潜り込んで行く。

「狭いな…」

「全く、この先に何があるのやらな。」

『無駄口叩いている暇があったらさっさと進め。』

「ヌル、てめえ今回外の見張りだからってなあ!?」

「大声出すなゼロ!!」



同じ時

「こちらヌル、狙撃ポイントについた。」

「同じくクイーン、全域を私のエリアにしたわ。」

『ありがとう。引き続き異常に備えてくれ。』

二人は冷静に戦況を俯瞰する。

「ヌル、貴方は今回の件、どう思ってる?」

「どうもも何も、いつも通り任務をこなすだけさ。ただ——」

「ただ?」

彼は淡々と口にした後、

「何かキナ臭いとは思うがな。」

彼なりの見解を述べたのだ。

「なんでそう思うの?」

「いや、カンだ。」

それも珍しく彼が根拠も何もなく。

「お前も何かおかしいと思ったから聞いてきたんだろ?」

「まあそうね…。というよりは、"普通すぎる"のよ。この任務。」

「『13』らしくは無いな。」


その時、通信機にノイズが入る。

「大丈夫か、ゼロ、ブレイズ。」

『……クショウ!!罠だ!!正規の部隊に応援を求めろ!!』

その時放たれた稲本の怒号。

そして同時に街中から次々と異形と思われる存在が現れたのだ。

「クイーン、お前はビル周辺を頼む。」

「アンタは!?」

「俺はA地区に行く。あそこは民間人が多いからな。」

彼はそう言うと自らのバイクを呼び出しそのまま駆け去ってしまう。

「ったく、人に面倒ごと押し付けないでよね!!」

クイーンはそのまま現れた異形たちに向けて黒き重力の球を放つ。

「アンタら、うざいから一網打尽よ。」

そして彼女の領域は今、全てを殺す魔の領域と化した…





同じ時

「まさか、情報が漏れていたとはな。」

稲本とブレイズは通気口を抜けたその先、培養液の並ぶ研究室にたどり着いていた。

そしてそこで待ち構えるのは2mを超える幅広の大剣を持った男。

「情報が漏れていた…?ハナから予定通りじゃ無いか。」

その男は大剣を軽々と振り回し二人を睨みつける。

「予定通り…?」

「何、忘れてもらって構わないよ。貴様らは死ぬのだから!!」

急接近してくる男。

「避けろ!!」

「逃すか!!」

回避するブレイズ、逃げ切れないと判断する稲本。

稲本は自身の刀で受け止めるが、明らかにパワーが段違いである。

「ゼロ、離れろ!!」

瞬間、業火が男を襲うが男は大剣でそれを防ぎきる。


「月下天心流 五之太刀——」

追撃として一気に跳躍する稲本。

「暁ッ!!」

「遅い!!」

放たれる渾身の突き。当たればガードなど意味をなさない。

だがそれさえも回避され、大剣の腹で彼は吹き飛ばされた。

「ゼロ!!」

「よそ見などしてる暇はあるのかい?」

振りかざされる大剣、ブレイズはとっさに自身の周りに火柱を立てる事で追撃を防ぐ。

「喰らえ…!!」

一度距離をとった男に向け神速の太刀、無月を放つ。

胴体を的確に捉えはした。

だが刃の方が先に砕け散ったのだ。

「守りが硬え…!!」

「少年、貴様から死に晒せ!!」

再度振り下ろされた刃。稲本はそれをまともに受けてしまう。


「ゼロ!!」

胴体を切り裂かれた稲本。

「いってえ…」

レネゲイドの力により一度は蘇るが、明らかにそのダメージは抜けきっていない。

「どうした、その程度か特務部隊。」

「俺たちのことをどこまで知っているんだ…貴様は!!」

ブレイズは炎で剣を作り出し、男に刃を振り下ろす。

だがその剣は溶けることなく彼の刃を受け止めたのだ。

「能力は強くとも、それに任せた動きになっているようだな。」

「くっ…!!」

弾き飛ばされるブレイズ。

再び距離を取ることで戦いは再び中立の状態となる。


「少年。お前は抑えて戦っているな?」

「……」

「敵の言葉なんぞ聞くな…ゼロ。」

稲本は答えはしないが鋭い目付きで男を睨む。

「舐められたものだな。全力を出さずとも勝てると思われるというのは些か腹が立つものだ。」

男は大剣をさらに巨大化させ、一気にそれを振りかぶる。

「故に、今すぐ決着をつけさせてもらおう。」

「あれは…俺でも防げん…」

10mを超える大剣、それを前にしたブレイズは立ち尽くしてしまう。

だがそれに対して稲本作一は笑みを浮かべているのだ。

「死ぬが良い。」

そして振り抜かれた大剣。

鮮血が舞うと共に二つの死骸が出来上がった…


そう、彼は思っていた。

「なっ…?」

「お望みならば見せてやるさ…」

そこに立つは冷たい瞳に笑みを浮かべ、一刀を振り抜く少年。

切り裂かれた大剣の刃は宙を舞い二人の背後に突き刺さる。

「俺の…醜いもう一つの姿を…!!」

「ガッ!?」

そして間髪入れることなく放たれた『五之太刀 暁』。

宙を舞う鮮血。吹き飛び、壁に叩きつけられた男。

「何…だお前は…!?」

「俺の名はゼロ…。無より生まれた、唯の人殺しだ。」

稲本ならざる稲本は今、満面の笑みでその敵を睨みつけていた…



同刻 H市市街

次々と現れる異形を薙ぎ払うコードネーム『ヌル』。

「チッ…次々と湧いてきやがって…!!」

彼は持ち前のナイフと拳銃技術で動物型、人型問わず襲いかかるレネゲイドビーングの群れを的確に仕留める。

「夜叉隊長、各地区の避難状況は?」

「A地区はほぼ完了だけど、まだ取り残された人間がいるみたいだ。B支部はクイーンが、C,D地区はH市支部の人間が対処している。」

「E,F地区は?」

「これより僕が出る。」

「了解。」

ヌルは淡々とその言葉を受け取ると、通信の通り逃げ遅れた民間人の場所へと赴く。


だがこの時、彼には違和感があった。

現場へ向かえば向かうほど、自身の何かが削がれるような感覚に陥る。

それにこの辺りの区域は異形の存在がただ暴れた、というよりは何か規則性があるように感じ取れた。

まるで、獣が暴れたような。


そして彼は現場の路地裏に到着する。

現場はすでに誰かと誰かが争ったような痕跡があり、民間人の避難もほとんど済んだ様子であった。

「何だ…誰か戦っているのか?」

だが今ここにはUGNのエージェントが来ている様子もない。


ならば誰が——


「きゃっ!!」

その考えを巡らせたその瞬間、一人の少女が彼の前に落ちてくる。

「楓…!?」

「もしかしてその声、蒼也!?」

そしてそれは彼にとっての家族である四ヶ谷楓であった。

「何でお前、こんな所に!?」

「だって、逃げ遅れた人がいたから…」

「お前は何やってるんだ…!!」

蒼也は楓に摑みかかる。

「こういう事件はUGNが対処する…!!お前が出る幕じゃないんだよ!!」

「でも、それじゃあここにいる人たちは見捨てろって言うの!?私はそんなの嫌だ!!それに、誰かの為の傷ならへっちゃらよ!!」

楓は蒼也の叱咤に対しても笑顔で答え、蒼也を呆れさせる。

それでも、彼女という人を知っているからこそ蒼也は彼女を離してしまった。


だが次の瞬間、二人に形なき影が襲いかかる。

「何だ…!?」

「っ!!」

二人は咄嗟に回避するが、あまりのイレギュラーに頭がついていかない。

「ウマソウナエサ…ミツケタ…」

同時に現れたのは白い仮面をつけた人型の獣。

それが蒼也の違和感の正体であるのは肌で感じ取れた。

だが同時に本能がコイツと戦ってはいけないと告げていた。

それでも、逃げることはできない。

「蒼也…」

「言われなくても手伝うよ。コイツを倒さなきゃみんなが危ない…だろ?」

「さっすが!!」

楓は雷を纏い臨戦態勢を取る。

「さっさと終わらせて、星を見に行くぞ。」

蒼也もナイフと拳銃を構え臨戦態勢を取った。


これは、全ての序章に過ぎない。

そして、終わりの始まりでもある。


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