夏ノ旅

とある宿場町の海辺にて

 海とは、この世界の大半を覆い尽くす大量の塩水の塊のことを指す。

 ある海岸の海は深いインディゴブルーの色、とある砂浜の海は眼を瞠るように輝くスカイブルーの色。

 発展し過ぎた街では、汚水を垂れ流す影響で黒い色をしている海もあるのだというが……少なくとも私の目の前にあるのは、穏やかな波が寄せて打ち返す、遠浅のエメラルドグリーンの海だ。

 青空を流れる雲の間から覗く太陽の日差しを受け、海原はキラキラと光を反射し輝いている。

 そしてその傍らには、近場の宿場町から遠征しているらしい、様々な物を売る屋台が白い砂浜に居並んでいた。

 自然豊かな海辺の様相には些か場違いに思えたが、海で遊び、屋台で遊び、飲み食いしている人間は大勢いる。需用がある。現にベラとヴィダルの喉を潤すための飲み物を、私は買った。商品単価が高いのに問題があるかと感じるが、致し方ない。彼らも生活があるのである。

 兎角。此の海にいる者は誰も彼もが楽しそうに笑っている。大人ですら子どものようにはしゃいでいたのだ。


 私はといえば、前述の一番香ばしい匂いのする屋台に程近い場所で、予め設えられているパラソルの元を陣取っていた。


「先生! せんせい! 貝殻をあつめてきます!」


 ローブを取り払ったワンピース姿のベラが、赤いリボンのついたストローハットを首に掛けながら私へ近寄って元気に告げる。

 言葉通り貝殻収集に使うらしい、オレンジの色をしたバケツと揃いのスコップを持っている。宿場町で借り受けた物だ。


「ミ-! ミィ!」


 ヴィダルがバケツの縁から顔を出した。

 何やら得意気に、自らの胸元をぽんぽんと叩いている。どうやらベラの面倒は自分が見るのだと、張り切っているのだろう。

 私はベラとヴィダルを交互に一度ずつ見た。私は許可を待つベラの首元へ手を掛ける。

 ストローハットの紐を手繰り、もう片手をそのつばに添えてベラに被り直させた。確りと、帽子が風で飛ばされたりしないように顎紐を結ばせる。ベラは煩わしそうに帽子を触った後、花を少しだけ露出させていた。


「海の深い所には、いってはいけませんよ」

「はい!」


 満足気に笑みを浮かべると、ベラはヴィダルのはいっているバケツを大振りに揺らしながら海沿いへと走っていった。

 打ち寄せる波が足許を濡らす度に、逃げるように動き、心底から楽しそうに駆け回っている。

 やがて波との戯れに飽きたらしいベラが、バケツを砂浜に置き、スコップを手に砂を無作為に掘り出し始めた。

 飛び出してきたカニが、海へ消えて行く様を真面目くさった顔で眺めていたかと思えば、拾い上げた貝殻からヤドカリが生えれば勢い余って周囲に捨てては追い掛けて行ったり。

 穏やかな凪の海だというのに、呆気なく波に飲み込まれ、沖の方面へ流されかけたヴィダルをバケツで豪快に拾い上げては、ベラは収集した貝殻を彼方此方へ落としていた。

 貝殻の代わりに得たのがヴィダルだという事実、否、ヴィダルを拾い上げる代わりに貝殻を海へ戻してしまった悲劇に気付いたベラが、ワーっと泣いたかと思うと、ヴィダルを海の彼方へバケツごと放り出してはまた慌てて取りに行っている。一言で言えば、間の抜けた光景に他ならない。

 彼らを見ているだけで、私は腹が一杯だった。故に、香ばしい匂いを醸す屋台の近くを陣取ったのは失敗だったかと後悔を覚える。

 なんにせよ、ベラは、とても楽しそうだった。ヴィダルは……ベラに振り回されて、大変そうにも思えるが。


 彼らが海で遊び始めて小一時間経った頃だろう。貝殻集めを終えたらしいベラが、すっかり水気を吸い上げて重たくなったヴィダルを絞りながら私の元へと戻ってきた。

 海水塗れとなったヴィダルが、ふらふらとした足取りで私の傍らで倒れた。海水の次は砂塗れとなった。

 

「せんせい! 先生! 貝殻をあつめてきました!」

「そのようですね。お疲れさまです」


 私は、砂に埋もれながら片手を空に伸ばすヴィダルに、真水の入ったグラスを手渡した。視界の端で、グラスを抱えて真水に顔を突っ込むヴィダルを留めつつ、私はベラへ向き直る。


「ほら! 先生、これがいちばんキレイな貝殻です!」


 ヴィダルを構う暇もなく、ベラが得意気に一枚の貝殻を私へと差し出した。プレゼントです、と付け加えたベラから私はそれを受け取り、貝殻をじっくりと見詰めた。二枚貝の形をした貝殻で、薄淡い桃色をしている。縁を囲むように白線模様の入った貝は、とても綺麗だ。

 なんという名の貝か私には判らないが、見ればバケツには山のように貝殻が積んである。どれもこれも綺麗に思えるが、あの中から吟味に吟味を重ねて選び出したのが此の貝殻だというならば、私は、ベラの根気に敬意を表さなくてはならない。

 誇らしげに、だが、貝殻を見て何処か名残惜しそうにしていたベラの頭を帽子越しに撫で、その手を私が取る。首を傾ぐベラに一旦は何も告げぬまま、その手の平に、貝殻をそっと乗せた。

 ベラは、酷く驚いたように眼を瞬かせている。


「あなたが一生懸命に見つけたその貝殻は、あなたが持っている方が喜ぶでしょう。私のために探してくれたのであれば、尚更。私には勿体ないですから」

「! でも先生、これ……」

「あなたのローブのポケットの中にでも、しまっておきなさい」

「でも、あそこはヴィダルがはいるところで、もしヴィダルが出たときにいっしょにおちちゃうかもしれないです!」

「……では、私の鞄の中へいれましょう。あなたの物ですが、私が大切にしまっておく、という事で」


 私は再びベラから貝殻を預かり、見えるように鞄を手元へ引き寄せ、内ポケットの一つの中へとしまった。

 入念に確認するベラの手を取ってポケットの中の貝殻を触らせ、ポケットの外側からも貝殻の形を触らせると、漸く納得いったらしい。


「はい! これならだいじょうぶです!」


 首を縦に大きく振りながら、ベラは嬉しそうに笑んでいた。

 私は今日一日中、ベラの笑顔を見られた事にほっとしていた。あれほど楽しそうにはしゃいでいる事に、ほっとしていた。


「先生! 海岸をたんけんしにいっても、いいですか!」

「ミッ?!」


 また随分唐突な。


「……海岸、ですか」


 ベラが、真水に顔を突っ込んでぐったりしていたヴィダルを鷲掴み、私へ向き直って訊ねる。幾らか元気になったと思っていたヴィダルは、最後の力を振り絞るかのようにじたばたと短い手足を暴れさせていた。ベラは意に介していない。

 流石にヴィダルを気の毒に思った私は、如何した物かと上手い返答を考えるべく、数秒押し黙った。閃きが頭に過ぎった私は、懐から貨幣を数枚取り出してベラへ手渡した。

 探検と無縁の貨幣を見詰めて、ベラは不思議そうに首を捻る。


「お昼が未だです。ヴィダルとなにか、食べ物を食べてから行きなさい。優れた探検家は、腹を満たしているものですよ」

「あ! そうします!」

「ミっ! ミイ!」


 そう言うと、ベラは真水を吸ったヴィダルを絞りながら、砂浜に立ち並ぶ屋台の店先へ意気揚々と向かって行った。手渡した貨幣で買えるのは各々に軽食二品が精々だろうが、二人には充分だろう。さて、如何様なものを買ってくるだろうか。

 彼らのセンスにある種の意味で期待しながら、私は、エメラルドグリーンの遠浅の海を臨んだ。何処までも続く水平線を一頻り眺めた後、私は重大なことを思い出した。

 ベラの置いて行ったバケツの中にある多量の貝殻だ。海から意識を貝殻に向ける。無難に海へ返すのが良いだろう。本当は収集家に責任をもって返してもらわねばなるまいが……ベラが戻ってきたら、言ってみることにしようか。

 それにしても。


「…………」


 強い日差し、肌を露出する人々、水を掛け合ってはしゃぐ人間。そんな娯楽の場では、やはり修道士の姿は悪目立ちするらしい。

 前を通りがかる人間みな全てが私へ視線を突き刺して行く。無理もない。日陰の中でじっとしていたとしても、多少なり汗を搔いてしまう程の外気の高さだ。

 潮風はある程度吹いて風自体はあるが、それをとっても、浜辺でローブに修道服を着込む者など私くらいしかいないのだろう。

 だがあくまでも私は人間ではない。故に汗をかくこともない。着替える必要は無いわけだ。


「あの、もし」


 若い人間は至極当然ながら、私を遠巻きに見ているななどと他人事に思っていたその時、老齢の女性が声を掛けてきた。

 見れば、女性はこの浜辺に見合った涼しげな格好をしているが、海で遊ぶ其れとは違う普遍的な格好をしている。だが、女性の後ろにいるひと組の若夫婦とその子どもと思われる男の幼子は、海水着を着込んでいる。幼子の年齢は、丁度ベラと同じ頃合いだろうか。

 何かご用でしょうか、と訊ねる前に、女性は一礼をして私へ手を合わせた。


「修道士さまでいらっしゃいますよね」

「ええ、そうですが」

「これは娘夫婦と私の孫でございます。どうか、この子らが、この母なる海で安全に過ごせますよう、祈りを捧げてはくださりませんか」


 そう言うと、女性は若夫婦と幼子を私の前に差しだした。随分熱心な女性と相対して、若夫婦は何処か気恥ずかしそうに笑んでいる。何をしているのか把握できていない幼子が、母親の手を握って此方を見上げている。

 ふむ。


「ええ」


 私は女性に一礼をしてから若夫婦へ向き直り、神のご加護を、そう告げて簡単な祈りを彼らに捧げた。次いで、所在なさげにする幼子の前に屈んで、ベラの置いて行ったバケツを幼子の前に引き寄せる。

 女性と若夫婦が不可思議そうな視線を私へと注ぐ中、幼子はバケツ一杯の綺麗な貝殻を見下ろして眼を輝かせていた。

 幼子の前で、私はバケツの中の貝殻を手に取り手中に収め軽く握り込んだ。角のない丸みを帯びた貝殻ばかりである事を確認し、私は手の平を開いて幼子の前に幾つもの貝殻を差し向ける。


「これらの小さな貝殻のうち、ひとつで構いません。どれか好きなものを選びなさい。

 あなたの選んだ貝殻には、あなたやあなたのお父さんお母さん、おばあさんがこの海で楽しく過ごせますようにとの願いが込められています。

 選んだ貝殻は、この貝殻の生まれ故郷でもある綺麗な海へ還してあげてくださいね。海はあなたに感謝を抱いて、きっと楽しく過ごさせてくれることでしょう」

「たのしく? きれいなおさかなさん、たくさんみられる?」

「ええ。きっと見られますよ」

「じゃあね、あのね、ひとつじゃなくて! おとうさんと、おかあさんと、おばあちゃんと、ぼくの、よにんでよっつの、かいがらさんを海にかえしてあげるの!

 みんなできれいなおさかなさんみるの! いい?」

「ええ。ええ。では、あなたにはこの黄色い貝殻。お父さんはこの薄青い貝殻。お母さんにはこの桃色の貝殻。おばあさんには、白い貝殻がいいでしょう」

「うん!」


 素直な子だ。私の言葉に笑顔で返すと、貝殻四つを大事そうに両手の中へ収めた。

 何をするのかと此方を見下ろしていた若夫婦が、ほらほらと貝殻を見せる幼子の様子に酷く顔を綻ばせている。女性は先程よりも随分熱心に私へと手を合わせてから、若夫婦と孫をつれて海へと向かっていった。謝礼だと言って女性に幾らか握らされた私は、我ながら上手くいきすぎてしまったものだと頬を掻く。

 だが、まあ。あの家族に祈りを捧げたのは本当であるから、問題なかろう。そう私は自分に言い聞かせた。


「あの」


 私とあの家族の様子を見ていたらしい、別の一家族が私へ声を掛けた。それを皮切りにして、何度も何度も様々な家族が私の元を訪れたのは言うまでも無い。

 信心深げな老齢の男女が私に向けて手を合わせ頭を下げる度に、私も頭を下げる。先程のように幼子を連れていれば、貝殻を手渡して前述の口上を述べたりもした。

 次第に年若い夫婦だけでも子どもの手を引いて、海難事故にあいませんようにとわざわざ祈りを求める人らも増えた。祈りを捧げる他にも、沖に行かず、なるべく浅瀬で遊ばせた方が良いでしょうねと現実的な言葉も添えるようになった。

 人の笑い声が絶えない娯楽の場としては、あまりに奇異な光景だ。金品を要求しているわけでもない、迷惑という行いでもない。

 浜辺を管理する宿場町の人間もなんだなんだと野次馬になりこそすれ、口を挟まれる事は終始なかった。

 一つ問題点があるとするならば……祈りを求める彼らが、皆一様にして謝礼という名目で貨幣を私へ持たせ去って行ったぐらいだろうか。宿場町で使った貨幣ぶんがそっくりそのまま、手元に集まったのは想定外ではあった。

 であるからして。

 私は可能な限り祈りを捧げ続けている。驚く事にバケツ一杯の貝殻が半分になる程、求める人間は多かった。

 ……ベラとヴィダルが早くに戻ってくることを、私は、心の何処かで祈らずにはいられなかった。


 数十分経った頃、彼らは私の元へと帰ってきた。

 時機が良いのか悪いのか、人も捌けた折だった。私は、心の底から二人の帰還を喜んだ。


「先生! せんせい! せんせい! みてください!」


 私の元へ駆け寄ってきたベラが、随分楽しそうな顔で私にある物を差しだした。

 遠目に屋台の並びにあるのは知っていたが、あえてとぼける事を選ぼう。


「……ベラ。それは、なんでしょうか」


 私はそれがなんであるかを訊ねた。

 ベラは、何故か得意そうな顔で鼻を鳴らしながら私へ答える。


「お魚さんです!」

「それはみて判りますが」


 ベラに連れられていったヴィダルが、私から眼を反らして輝く海を遠い眼差しで見詰めている。


「質問を変えましょう、ベラ。あなたは、のですか」


 ベラが大事そうに持つ、大振りの透明なガラスのコップに入れられた数匹の魚を見ながら私は問い質した。


「先生、買ったんじゃないです、すくってきたんです! 海のお魚すくいさんで!」

「そういうことを聞いているのではありません……」

 

 私は頭を抱えた。

 道理で随分遅かったわけだが、成る程そうか、魚をすくうために時間を食っていたというのか。そうか。成る程。

 彼らには軽食を二種類ずつ買える程度の貨幣を手渡したわけだが、恐らく四回ほどそのお魚すくいさんとやらに励んで、コップの中の色鮮やかな魚数匹を手に入れたのだろう。持たせた貨幣総てはたいてその結果なのだろう。きっとそうだ。

 私は、とんでもなく無礼な行為をするべく、心の中で、祈りを捧げた見知らぬ人間達に謝罪した。そして、とても得意気なベラに、謝礼の中から軽食を一種類ずつ買えるだけの貨幣を差しだした。


「いいですか、ベラ。"食べられる物"を買ってきなさい」

「…………あ!」


 しまった。そう言葉で書いたような表情を晒すベラは、貨幣を受け取り、代わりに私へ魚の入ったコップを差し出す。

 大人しくコップを差しだしたベラではあるが、未だ何か言いたいことがあるらしく、伺うように私の顔を覗き見ている。何を言いたいかが手に取るように解る気がした。


「ベラ」

「せんせい! お魚さんたちを」

「この魚達は旅には連れて行けませんからね」

「コップをもっていけば」

「駄目です」

「じゃあ探検はいってきても」

「駄目です」

「なんでですかせんせい!」

「優れた探検家は、軽食ひとつで探検には出掛けません」

「…………」

「返事はどうしましたか、ベラ」

「……はい」


 私の駄目押しとも言える声に、ベラは白旗を揚げて押し黙った。

 ふて腐れたような表情が色濃く残ってはいるが、私からの返事の催促に渋々と頷いたので、それ以上咎めることを私はしなかった。

 項垂れるベラの帽子を取り、深緑色の眼を泳がせる様子に短く息を吐きながら膝を曲げ背を曲げ、視線を合わせる。


「いいですか、ベラ。私達の旅は、決して楽なものではありません。この魚達は、充分な水と食事を得た上で、適した環境下でいなければ生きることができないのです。

 寒ければ服を着込む、暑ければ服を脱ぐ、喉が渇いたら水を飲む、お腹が空いたら食事を摂る。そういった、旅をする私達ですら簡単にはいかない事が、あろうことかこの魚達は自分達では出来ません。

 この魚達が幸せに生きるためには、水も食事も、適切な環境も揃っているこの海でしか有り得ません。わかってくれますね」

「……はい……」

「……お魚すくいさんに、このお魚達を帰してから、美味しい物を買いに行きますよ。ベラ」

「はい……」


 現実、魚を旅の共にする事は出来ない。見た所これらは海の魚である、暑い気候が今暫く続く中、気温の上昇に伴ってこのコップの水もいつか干上がってしまう。

 森の中に海があるわけではない、まして海水を精製出来る技術は私には無い。どの道、魚を無意味に死なせてはベラも傷ついてしまうだろう。

 何より。この魚は食べ物に向いていない。

 ……そんな事を考えている束の間。思いの外、ベラは大分へこんでいるらしく。貨幣を握る手が疎かになって、硬貨の一枚二枚が砂にぽとぽとと落ちている。


「……お魚すくいさんに着くまで、あなたがこの魚達を持っていてあげなさい。ちゃんと別れの挨拶も考えておくのですよ」

「……! はい!」


 ベラにコップを手渡し、落ちていた硬貨をすべて回収してから貨幣をもらい受けて、私は言った。

 沈みきっていたベラの表情も幾らか明るさを取り戻してくれた。甘い対応だとは自覚している。ヴィダルの視線が少々痛いが、今は知らない振りを決め込ませてもらわなければ。

 貝殻入りのバケツにスコップを入れ、鞄を肩に提げ直し、忘れ物がないか確認する。私の片手を握るベラに、魚すくいやさんに行く前に貝殻を海へ帰しますよと告げて、魚達へ別れの挨拶を考える時間を多く作らせる事としよう。

 いや。

 貝殻を海に帰すという行動は、明日にも宿場町を発つという事実を上手いことベラに伝えるための、私にとっての時間稼ぎでもあっただろう。再度の海遊びを叶えてやれる事ももう出来ない、それも伝えなければ。

 ベラはいたくこの宿場町を気に入っている様子であった。故に、また渋るだろう事は明白だ。ふて腐れるベラを丸め込む言い訳を考える時間も、今夜中に何処かで作らなければならない。私にとってのヤマは今宵というわけか。嗚呼、大変だな。

 ――旅路へ戻る明日は、せめて、ベラには笑みを浮かべていてもらいたい。

 そう、私は心から願っている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る