第63話 元勇者 やっぱり戦う姿が似合う

「あ、あそこにいるの元勇者じゃねえか?」


「そうだよ、元勇者だよ!!」


 注目の的になってしまう。まあ、俺はそんな事慣れているし、パトラさんもそこまで動じている様子はない。

 しかしその声は変なやっかみに変わっていく。


「でも先日は王都で黒髪の女とデートをしていたって聞いたぜ」


「ま、元勇者だけあってより取り見どりってことろ」


「くっ~~~っ、うらやましいぜ。爆発しろよな!!」


 住民から俺に向かってそんな事を話す。

 なんかあらぬ疑いをかけられてる……。そんな事実はございません。


「いい視線を感じます。もっと見せてあげましょう」


 パトラさんはそう耳打ちすると、俺と腕がくっつくくらい接近してくる。そして──。


 パッ!


 ギュッ──。



 一度手を離した後、手を握りなおしてきたのだ。それもただの握手じゃない。

 指をからめ会う。通称恋人つなぎ──。



 その光景に周囲が騒然。



「どうですか? 幸せそうな恋人同士に見えるでしょう? 」


「そ、そうですけど……」


 絡み合う指、手全体でパトラさんの温かさを感じる。

 本当に恋人になっているみたいだ。周囲に視線を感じまくる中、俺たちは石畳に道をつっくりと歩く。


「やっぱり慣れませんか? 誰かの恋人になるというのは」


 バレていたか──。ぎこちないしドキドキしているのが自分でもわかるもんな。


「まあ、そうかな」


「そういう所、嫌いじゃないです」


 異性との恋人役。永遠のような時間、戸惑いながらも楽しんでいる自分がいた。





 そしてさっきから周囲を見回していると気になることが──。


「なんか騒がしくありませんか?」


 冒険者たちがあわただしく道を北へ向かって言っている。

 何かあったのかな? ちょっと聞いてみるか。俺は大きな斧を持った冒険者に肩をたたいて聞いてみる。


「ちょっといい? さっきから冒険者たちが北へ向かっているけど何かあるの?」


「北のほうで魔獣たちが出没しているんだ。だから召集令がかかってさぁ」


 ということは俺が行ったほうがいいのか?

 そんなことを考えているとパトラさんが微笑を浮かべる。


「出番ですよ、元勇者さん。やっぱりあなたにはぎこちない恋人役より、街のために必死に戦う姿がお似合いです」


「わかったよ。着替えて、戦ってくるよ」


 そうだよな、自分でもぎこちないのはよくわかる。やっぱり冒険者の服がお似合いだ。


 すぐに俺たちは城に戻る。ルシフェルたちはすでに行ってしまったらしい。冒険者の服、ローブに着替えた後俺も魔獣が出現する場所へ。



 北にある郊外の森。うっそうとした背の高い気が多い茂る場所。視界が悪くみんなを探すのに少し手間取る。



 ルシフェルたちを探して10分ほど。そして視界の先に3人はいた。


「ルシフェル、ローザ、セフィラ!」


「陽君。デートはもう終わったの?」


「ああローザ。こっちの方が似合ってるってダメだしでな」


「同感よ。じゃあ、一緒に戦いましょう」




 ルシフェルの言葉通り、すでに戦闘は始まっているようで、魔獣たちをなぎ倒しているのがよく見える。

 まず中央にそびえる真黒でひときわ大き魔獣。確かヨグ=ソトスっていうんだっけ。ステータスも覚えてる。


 ランクA


 HP 249

 AT  98

 DEF 35

 魔法攻撃 90

 魔法防御 50

 速度 28

 種族値550


 HPが高すぎる。それに物理攻撃も魔法攻撃も高い両党型か。でも鈍足だし何とかなるだろう。


 それから 首がない兵士の格好をした魔獣。確かゴモラっていう名前だったな。



 ステータスは──。


 ランクD


 HP 71

 AT 96

 DEF 55

 魔法攻撃 85

 魔法防御 45

 速度 60

 種族値412



 低耐久鈍足両刀。最悪な種族値ぶりをしている。耐久も速度も低い。要するに攻撃を受ける前に倒せばいいだけだ。

 怖そうな眼つきをしているが、所詮は見掛け倒しだ。


 それよりも問題なのは──。


「術者はどこにいるの? それを捕まえないときりがないわ」


「そうだなルシフェル。この近くにいるはずだそう」


 確かこいつらには術者がいる。そいつを止めない限り は出続けてしまう。

 しかしここは森の中、隠れるにはうってつけの場所。


 見たところこいつらはこの街の冒険者でも対抗できそうだ。だったら──。


「ローザ、ルシフェル、こいつらはほかの冒険者たちに任せて術者を探そう」


「私に任せて。私なら術者の場所はわかるから」


 ローザ、そうか、確かローザにはあったんだ。

 魔獣の召喚や操作にはかなりの力が必要。

 この前聞いたがローザには魔力の根源を充てることができる術式があるらしい。それなら探し当てられる。



 そしてローザはその術式の発動のため、目を閉じて集中。


    ──聖なる守護の力。私に輝きの方角を示して──

       ──ライブラリアン・コンパス──


 そしてローザの体が10秒ほど白く光り始める。

 ローザが間を再び開くと。


「東から力を感じる。あっちに術者がいるみたい」


「わかった、すぐにそっちに向かおう」


 そして俺たちは東の方向に森を進む。

 森の中、木や茂みが多く視界が悪い。確かに隠れるにはうってつけの場所。



「あれ、怪しくないですか?」



 セフィラが視線の先を指さす。そこには、一人の男がいた。


 ひょろひょろで眼鏡をかけたとても戦闘が強そうには見えない外見。


「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ~~」


 その男は俺たちの姿を見るなり、叫び声を上げて逃げていく。どう考えても怪しい。

 すぐに男を追う、そこまで足も速くなくすぐに俺たちが追い付く。


 俺が剣を振るうと、そのまま男の体は吹き飛びその先にある木に叩きつけられる。

 そのまま倒れこみ腰を抜かしたまま動かない。


「さあ、どうしてここにいるのか、全部吐いてもらいましょうか」

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