第61話  元勇者 精神攻撃を受ける

「フフフ、驚いたか民衆どもよ。だが案ずる必要など一つもない。奪えばいいのだ。姫は元勇者が持つ圧倒的な力に惹かれているのだ。だったら話は早い。証明すればいいのだ。この俺がすでに全盛期を過ぎた元勇者より優れていると。示せばいいのだ──」


 そしてカイテルは指を天に向かって差し叫ぶ。


「ということでこの場で俺は宣言する。勇者陽平、俺は貴様に決闘を申し込む」


 ォォォ──。グォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ──。


 その言葉二周囲の民衆たちが大きく活気づく。


「カイテルさんと元勇者? どっちが勝つんだこれ」


「絶対見るぞ俺」


「日時は1週間後、場所はこの街の中心にある闘技場。そこで勝負だ。いいな」


 う~~ん。ここで断ると逃げたとか言われるだろうし、受けるしか選択肢はないよな。

 そういえばこいつが戦っているところや噂、聞いたことないな。パトラさんなら知ってるかな? ちょっと聞いてみるか。


 そして俺は肩をたたき、小声でパトラさんに聞いてみる。


「詳しい戦い方などはわかりません。しかし彼の種族値は知っていま。確かこんな感じです。」


 ランク A

 HP 107

 AT 130

 DEF 65

 魔法攻撃 78

 魔法防御 80

 速度 75


 ステータスの合計は535。Aランクか、それなりに強いな。これで戦術とかは不明、難しい戦いになる。気を付けないと。


「城まで案内する。ついてきたまえ」


 そう言ってカイテル、街の中に歩を進め始める。

 そしてキャンプの後処理をエマに任せると、俺達は道をついていく。



 街並みは王都と比べると、どこかひっそりとしたたたずまい。建物も質素で簡素な造り。


 人々の服もやや古びていたりしているし、食料もどこか質が良くないように感じる。やはり経済的にも貧しいのだろうか。

 全体的に王都とは違う、どこかのどかで貧しい雰囲気を醸し出していた。



 そして歩いて15分ほど。俺たちの前に大きな城が視界に入る。


「ここが俺たちの城だ。安心しろ、俺は器が大海のように広い男だ。元勇者の貴様とそのハーレム要因にもちゃんと部屋を用意しておいたぞ」



 そしてカイテルが視線を左に向ける。そこにはコロッセオのような施設が遠目に存在していた。



 あれがこの街の闘技場だ。覚えておけ。あれが、俺が貴様を打ち破る場だ、大勢の人が見ている前で俺が貴様を打ち負かせば、冒険者たちも、パトラも、そして貴様たちも納得するだろう。俺様のほうが貴様よりはるかに上の存在だと。



 自信満々な態度。負けるという考えが微塵もないというのがわかる。しかし俺たちは動じない。勝てばいいんだ勝てば。

 そしてそれを示すかのようにパトラさんが一歩前に出て、カイテルに話しかける。


「別に、私はただ強いから陽平さんを好きになったわけではありません」


「それではどこに惹かれたというのかね。こんなさえない男に」


「陽平さんを異性として評価しようとすると──」


 パトラさんんは1回ため息をついた後、カイテルに反論し始めた。いいぞ、そいつの鼻をへし折ってやれ。


「手をつないだだけでおどおどしてしまいどこか頼りないし」


 グキッ――!!


「異性を意識すると拙い口調の会話になってしまい。とても異性として魅力があるわけではありません」


 グキグキッ――!


「異性との経験は乏しいというのがまるわかりです。勇者という肩書きがなければ交際をすることなど確実になかったでしょう。落第点と言わざるおえません」


 グキグキグキッ――。


 俺の精神がズキズキと攻撃を受けている。ルシフェルは身に覚えがあるのかクスッと笑っているし、ローザとセフィラは俺から目をそらし苦笑い。ちょっとは否定してくれよ。



「しかし彼は勇者として戦う中、民を見捨てることなく、必死に世界のために戦っておりました」


「それは、私も思うわ」


「世界中を飛び回り、会ったことのない人たちのため、けんかしている亜人、腐敗に満ちた貴族たちを説得して力を合わせて戦っていることも記録に残っています。魔王軍の少ないこの地にしがみつき、お山の大将を気取っていたあなたとは大違いです」


 すげぇ、ここまではっきりと……。っていうか俺も反論しないと。


「まあ、今度の一騎打ちはよろしくな。そこでどっちが強いか決めよう」


「そうだな、それまでに、謝罪の言葉でも考えておくんだな」


 そして、高らかに笑い声を上げながら彼はひとり城の中へ入っていった。

 その後、メイド服を着た侍女が俺たちを城へ案内、部屋を紹介される。


 「ここがパトラ様たちの部屋となっております」


 パトラやルシフェルたち、女子組の部屋だ。


 高級家具に赤じゅうたん。豪華そうなベッドの部屋。王都までとはいかなくてもそこそこ整った部屋になっている。

 俺の部屋はこのとなり、似たような部屋だが少し狭めだ。


 その部屋に入り長旅の疲れからか俺はソファーやベッドに横たわりながらゆっくりとしていると。


 トントン──。


 誰かがノックをしてくる。ルシフェルだろうか──。


 すぐに疲れた体を起き上がらせドアを開ける。




「さっきはごめんッチュ」


 申し訳なさそうな表情をしたエマがそこにいた。さっきのことか、まあ気にしてはいない。態度が尊大な貴族なんて数えきれないほど見てきた。なに、見返せばいいんだ。俺はいつもそうしてきた。それに変わりなはい。


 そう告げるが、エマの表情は暗いまま。


「いや、カイテルさんは冒険者としての実力は本物っチュ」


「俺だって負けるつもりはないよ。安心していい」


 そういうと少しだけ彼女の表情が晴れる、よかった。


「とりあえず立ち話もなんだしルシフェルたちの部屋に行こうか。そこで今後のことでも話そう」


 エマか首をコクリと縦に振る。そうと決まればすぐに行こう。



 トントン──。


「失礼する。入るよ」

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