第51話 元勇者 魔王とデートをすることに
「大丈夫ですよ、陽君」
「そ、そうですよ。誰だって最初はそうですし──」
するとローザとセフィラが心配そうな表情で2人の間に入り俺をなだめる。
フォローしてくれてありがとな──。
「まあ、パトラの依頼を達成するには貴族の人と行動するのにふさわしいふるまい。それと女性に対する恋人としての振る舞いを身につけなければいけないの、わかる?」
「……まあ、それはわかるよ」
俺はルシフェルから目をそらし小声で答える。
「という事でまずは明日。私とデートしましょう」
「──えっ??」
その言葉に俺は言葉を失う。俺だけじゃない、ローザもセフィラも俺に視線を向けたまま表情が固まってしまった。
そしてローザはすぐにプンスカと怒り始め、ルシフェルにつめより叫ぶ。
「ル、ルシフェルさん? どういう事ですか!! 意味が分からないです!!」
「貴族の振る舞いもそうだけど異性と接する時のいいっていう事よ。ほら、私なら陽君の恋人関係としておかしいところがあったらちゃんと突っ込めるし」
「確かにそうですね。私達は異性との付き合いなんて経験無いですし──」
「でしょ、セフィラ。いいアイデアでしょ」
「それにこの街、ちょっと見てみたいのよね」
そっちが本音じゃないのか? それに──。
「ルシフェルは、交際経験とかあるのかよ……」
俺が彼女を睨みながら質問する。するとルシフェルはニヤッと笑みを浮かべながら、言葉を返す。
「あたしだって交際自体はないわ。けれどいろいろな人と行動をしたりする中でそういうのは理解出来てきたわ。だから私がいろいろ教えてあげるから大人しくデートしなさい」
「──わかったよ」
その気迫に俺は反論できず首を縦に振ってしまう。一理あるな。交際経験が無い俺がハッタリで「彼氏です」なんて言ったところで不自然な挙動をしたり、あわただしくしたりして、疑われる事必死だ。
場数を踏んで慣れておくのも大事だろう。
「デート、私もしたい……」
ローザがしょんぼりとうつむきながら囁く。俺はそれに気付いて手を彼女の頭に置き、なでなでした。
「わかった、今度ローザともデートするから、今は我慢して」
「……本当に?」
「本当だ、約束するから。だから今回は勘弁して」
「約束だよ──」
ローザはそう囁くと顔を上にあげる。よかった、今度時間作らないとな──。
そう考えていると、ルシフェルがからかうような笑みで話しかける。
「ふ~~ん、陽君はローザみたいな幼い子つきの子が好きなんだ~~」
「ちょ、ちょっと待て、人聞きが悪い事言わないでくれ!!」
俺はあたふたしながら否定する。人をロリコン扱いするな──。
するとセフィラも顔を赤らめながらむっとした表情で詰め寄る。
「ローザ様に変なことしないでくださいね!! 何か嫌らしい事をしたらその場で斬りますからね!!」
「そんなことしないよ!!」
「──とりあえず日程の方を説明します」
そう言ってパトラさんは、カバンの中から書類を取り出す。
「先方の人と会うのは今から2週間後です」
「わかりました」
その後、日程の確認などを彼女から聞く。
そして報酬などの話をするとパトラさんはこの場を去っていった。
しかし王女様の恋人役なんて、以前この世界に来たときはやったことは無い、異性との交際経験はない。初めての経験だ。しっかり務まるかとても心配だ、ボロが出ないといいなあ──。
そんな複雑な気持ちを胸に、俺はそれまでの日々を過ごしていった。
3日後。
夢を見た。内容は俺と魔王の最後に戦った時の事だ。
「いよいよ、魔王との決戦だな──」
「ああ、最後の戦い。絶対に勝とうぜ!!」
花の形をしたリボンでスカーレットのロングヘアを結んだ俺と同じくらいの歳の少女が叫ぶ。
俺達は強力な魔王軍の部下達とギリギリの戦いに勝利し魔王のいる場所へとたどり着く。
そして魔王との最後の戦いが始める。
魔王との戦い、それは最後の戦いにふさわしい死闘。
仲間たちは次々に倒れていき気づけば立っているのは俺と魔王。
そして魔王の圧倒的な力に大ピンチを迎えた俺。
「勇者さん、強いかもしれないけど、ここまでだわ。さあ、屍となりなさい」
「ごあいにくだが、俺はここで──、あきらめるわけにはいかないんでね!!」
そしてその時俺は一つの術式を習得。それは、敗れていった仲間たちの想いを自分の魔力にする力。
「俺達の想い、貴様の心臓に届かせてやる、いくぞ!!」
「来なさい、どっちの想いが大きいか、今決着をつけるわ!!」
そして互いに自分の力を出しつくし俺はギリギリの差で勝利した。
魔王と死闘を繰り広げている時は想像もしていなかった。
「まさかその魔王とデートをすることになるなんてな──」
そんな独り言を口にしながら郊外にある公園にたどり着く。今日は先日ルシフェルと約束したデートをする日。
周りを見ると、家族連れや幸せそうに歩いているカップルが視界に入る。俺が元の世界にいた時はその姿を見てもろくに何も感じなかった。
漫画やアニメのように別世界、俺には一生縁が無いものだと考えていた。
「デートの雰囲気、慣れないとな」
「陽くーん、待ったかしら?」
後ろから聞き慣れた声、思わずその方向に振り向く。
手を振って微笑を浮かべ、やってくるのはルシフェルだ。きょうは朝からやりたい事があると言ってホテルを飛び出していた。その外見に俺は驚く。
「その格好、どうしたんだ?」
「どうしたって、デートなのよ。やっぱりバッチリ決めなきゃ!!」
髪にはピンクの花飾り、白いワンピースにフリフリのミニスカート。どこからどう見てもきれいで上品なお姫様の女の子という印象だ。
「どう、かわいい? 似合ってる?」
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