第52話 元勇者 生まれて初めてのデートへ

「その格好、どうしたんだ?」


「どうしたって、デートなのよ。やっぱりバッチリ決めなきゃ!!」


 髪にはピンクの花飾り、白いワンピースにフリフリのミニスカート。どこからどう見てもきれいで上品なお姫様の女の子という印象。


「どう、かわいい? 似合ってる?」


「う、うん。とてもかわいいと思うよ」


「え~っ、もうちょっと反応してよー、結構考えてコーディネートしたのよ!!」


 ルシフェルが駄々をこねるように顔を膨らませる。そうは言われても、俺ファッションとかには疎いし──。


「もう、期待するだけ無駄だったわ。行きましょう!!」


 そしてルシフェルはため息をついて俺の手をぎゅっと握り、先へ進み始める。

 突然のことだったが俺は何とか着いていく。


 それから俺とルシフェルは公園の道を歩く。ルシフェルの1歩後ろを歩くような形。


 興味津々そうな目つきで街の建物や人に視線を向ける。

 時々俺の肩とルシフェルの肩が当たる。

 そのたびにルシフェルの髪のにおいが俺の鼻腔をくすぐる。いいシャンプーを使っているせいかいい香りがして少しドキドキしてしまう。


「あ、あのさ……ルシフェル」


「なに? 元勇者さん──」



「うん、と、とても似合っているし……、素敵だよ」


 たどたどしく、時々噛みながらの一言。どう考えても不自然。現にルシフェルもほんの少し顔を膨らませ、腰に手を当て呆れたような表情をしている。


「もう、あんたに期待した私がバカだったわ。ほら、行くわよ──」


 そして手をつなぎながら俺達は公園を歩いて行った。


 初めて意識して握った女の子の手、俺の手と比べて細くて、冷たい。

 そしてなめらかで柔らかい──。



 胸の高まりが止まらない。どうしてもルシフェルの事を意識してしまう。

 それに今まで意識していなかったが、ルシフェル自体とてもきれいな顔立ちをしている。彼女に悟られないように歩きながらチラチラ見ていると──。


「もう……」



 ルシフェルが顔を膨らませ不満げな表情をしながらこっちを見る。まずい、何かやっちゃったのか俺──。


「何黙っているのよもう! 気まずいじゃない」


「えっ? でも何を話せばいいかわからないし──」


 するとあきれ始めるルシフェル。俺の腕をつんつんとしてジト目をしながら言い返してくる。


「──もう、そんなんじゃ結婚相手役なんて務まらないわよ。想像できるわ、2人で無言の時を過ごしてすっごい気まずくなるのが……」


 確かにそうだ。パトラさんも物静かな性格、それと今の俺が一緒なったら、全て沈黙の時となり、気まずい時間を過ごしてしまうだろう。


「とりあえず、パトラさんと会ったらいろいろ話してみなさい」


「話すって、何を……?」


「……あなたに期待した私がバカだったわ。まあ、パトラさんと会ったら──、服装が似合ってるとか、あと宮殿ではどんな暮らしをどんな暮らしをしているとか。悩みなんか見聞いた方がいいわね」


 なるほど。パトラさんとそんなコミュニケーションをとれということか。何か難しいな──。後とりあえず……。


「あのさ、ルシフェル?」


「何よ」


 ぶっきらぼうにルシフェルが言うと、俺は小さな声で言葉を返す。


「その……、綺麗だよ」


「今言ったってしらじらしいだけよ。私が言う前に言ってほしかったわ──、ありがと」


 顔をほんのりと赤く染め、そっぽを向きながらながら囁く。まあ、こういう事をさらりと言える人になりたい。

 そして公園のベンチにちょこんと座る。


 ベンチではルシフェルのデート講座が行われた。細かいことや気をつけることなどを話すルシフェル。


「デートの前は必ず身だしなみを整えて!! 朝、出かける前は必ず鏡の前に立つ。そこで髪を整えたり、服を正したりしなさい。そういうところ女の子はすっごい気にするんだから!!」


 さっきとは裏腹にすっごい熱血指導。気迫が溢れんばかりにこもっている。


「あと、細かいところ気を使ってあげてね。髪型を変えたとか、服がいつもと違っているとか、どうしたの? って。後は──、それだけよ」


 あまりの彼女の気迫に俺は圧倒されただ首を縦に振るしかなかった。


「わかった。何とか頑張るよ──」


 俺はそう言った後ため息をつく。人生初めての恋人関係、うまくいくのだろうか、成り立つのだろうか。







 青空を見ながらそんな事を考えていると、どこかからか叫び声が聞こえ始めた。






「勇者さ~~ん」


 俺はその方向を向く。


「やっぱり勇者さんだ。荒れるなんてうれし~~」



 おかっぱっぽい水色の髪、身長は150cmくらいの男の子が走ってこっちにやってきた。

 こっちに来るなり、上目使いで目をキラキラとさせながら、羨望のまなざしでぶりっ子のポーズをしている。


「あれ?「元」がついていないよ。どうしたのかな?」


 俺は皮肉交じりで言葉を返すが、その子の目は全く変わらない。


「だって僕にとっては元じゃないもん、カッコイイ最高の勇者だもん。僕3年前間近で見たんだよ。勇者さんが活躍するところを!!」


 ああ、以前勇者だったころ。確かこんな子供、みたことがあるかも知れん。



「僕のかっこいい勇者さん、まさか会えるなんて思ってもみなかったよ~~」


 その子供は俺の左手を手に取り、なんと自分のほっぺに当てほほずり始めたのだ。


「元勇者さん、最高──、会えるなんてうれし~~」


 満面の笑み、純粋できらきらとした目。そして無垢ともいえる表情。


「それでさぁ、僕元勇者さんにお願いがあるんだ。いいかな?」


「な、何かな?」


 そして子供はぐっと俺に顔を近づけ──。


「僕と一戦交えてほしいんだ!!」

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