第50話 元勇者 メンタルをバキバキにへし折られる
「まずは先日の依頼書に合った件ですが──」
「はい、大丈夫でしょうか?」
「本当に申し訳ありません。あなたのご気持ちは受け取れません」
するとパトラさんは少し驚いた顔をする。彼女が表情を顔に出すのはとても珍しい、それくらい動揺しているのだろう。
「ご気持ち──」
パッ──!!
俺は間髪を入れずに頭を下げる。俺だって彼女を傷つけたくはない。でもこれしか方法がない。
「パトラさんのこと、確かに人として尊敬しています。パトラさんは身分が高いのに、それを利用して悪い事なんてしないし、貧しい人やいろいろな人種にだって分け隔てなく接して尽くそうとしてくれるし。そういうところは憧れています」
「憧れ──」
パトラさんも俺をじっと見たまま真顔。それを見て俺は、彼女を意識してしまい顔が赤くなる。
「でも、恋人になるということは違うと思うんです。依頼という形ではなく、互いに信頼関係を作ることが大切だと思うんです」
精一杯の気持ちを込めて俺は叫ぶ。大丈夫、彼女ならきっとわかってくれる。この世界にきていろいろな人と接してきたけどそれだけはわかる。
そしてこの場が静かになり、しばしの時が経つ。
するとパトラさんは、不思議そうな表情をしながら首を傾げささやいた。
「……何か勘違いしていませんか?」
ん? どういうことだ──。すると
「私に頼みは、陽平さんに恋人「役を」演じてほしいという事です」
予想もしなかったパトラさんの言葉に思わずキョトンとなる。
どういう事だかわからず質問をしてみると──。
「発端は先日届いた手紙に記載されていたお見合い話からです」
「お見合いを持ちかけてきましたのは、ラト=ランド家の長男さんのようです」
ラト=ランド家、確か聞いたことがある。ここから少し離れた地方に広い領土をもつ存在。
タカ派で有名、よく自分達の力を知らせるためにこの国でも攻撃的な存在感を持つ家。
「しかし彼らは評判が悪いです。納めている土地では国民たちから重税を取り、酒と女にぼれる一方、軍事作戦も人材を薪にくべるような無茶苦茶な作戦ばかり。そんな人物達と交際する気は毛頭ありません。だから断る理由が欲しかった。そこで陽平さんに私の交際相手という設定で、その相手にあってほしいのです」
「つまり、家の都合で見合い話を持ち込まれた。地方からその人物と家の執事がやってくる。
断る理由として今交際相手がいるという口実を作りたい。そう言うことですか?」
「まあ、そんなところです。何か、誤解でもされましたか?」
するよ!! 俺は心の中で叫ぶ。
あんな言い方、誤解するにきまってるじゃん。告白の言い方だよあれ。
誰がどう見たって恋愛関係になりたいっていう意思表示にしか見えないよ。
「虫のいい話しでも期待していたけど、当てが外れてがっかりってことよね?」
ルシフェルのからかうような言葉、俺は顔を真っ赤にして黙ってしまった。
まあ、それならいいかもしれない。特に重要なクエストがあるわけでもないしな。
「分かりました、その依頼。引き受けましょう──」
という事で俺はすぐに了承。しかし隣にいたルシフェルがジト目で話しかけてくる。
「あんた、簡単に引き受けたけど交際経験とかあるの?」
「えっ? いや、無いけど?」
するとパトラは何と俺の腕をぎゅっとつかんできた。そして腕を組んで顔を近づけてきたのである。
その大胆な光景に俺は思わずドキッとし顔を赤面させてしまう。
「ちょ、ちょ、ちょ、いきなり」
「何故ですか? あなたは元勇者なのでしょう? それくらいの地位ならば」
「彼女は作りたい放題──」
ズキッ!!
「交際経験も豊富で──」
ズキッ!!
「キスはもちろんその先の事も経験済みのはずでしょう?」
ズキッ!!
心の中のHPが無慈悲に削られていく。
彼女なんて都市伝説、現実の女性との交際経験なんて当然ない。その先? クリスマスに行う行事かな? 管轄外としか言いようがない。
本当に無意識に人の心にダメージを追わせていく人だなこの人。
「交際経験は──、本当に全くないです。彼女なんてこの世界で言う3大貴族のように特権階級を持つ人だけが持つ権利がある虚数の彼方にある夢幻のような存在。都市伝説としか考えていません。けど、貴族としての作法とかは以前学んだことがありますので、特におかしいようにはならないと思います」
あせあせとしながら俺はパトラさんに言葉を返す。
するとルシフェルが足を組み初め俺に再びジト目の視線を向ける。
「そりゃそうかもしれないけど、恋人としての振る舞いはあんた恋人としての出来るの? それも一般人じゃなく貴族のお姫様の恋人っていう設定なのよ」
「そもそもあなた異性との交際経験ないっていったわよね」
「言っておくけど架空の創作物の登場キャラクターは経験にならないからね!!」
ズキッ!! ズキッ!! ズキッ!!
こいつは俺の精神を複雑骨折させようとしているのか?
「それは……、なんとかするよ」
小さな声でうつむきながら俺はルシフェルに言葉を返す。
「大丈夫ですよ、陽君」
「そ、そうですよ。誰だって最初はそうですし──」
するとローザとセフィラが心配そうな表情で2人の間に入り俺をなだめる。
フォローしてくれてありがとな──。
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