第49話 元勇者 生まれて初めて告白される

 ハイドとの戦いから5日後。


 激戦で消耗した体力も何とか回復し今日も仕事探し。以前は「ブラックギルド」という悪名がついていて、低い報奨金で働かされたり、過酷な条件の任務を強制的にやらせたりなど問題もあった。



 その後、キーロフさんに冒険者達が詰め寄った。イヤイヤな表情だったがその圧力に屈し、何とか以前あった最低報奨金制度を復活させてくれたらしい。


 あまり表だってやると国から目をつけられてしまうので、冒険者達が圧力を強くかけ、仕方なくという形になったが──。



 ギルドに到着。




「とりあえずどんなクエストを受けようか……」


 4人で掲示板を見ていると、誰かが俺の肩をツンツンと叩く。振り向いてみると──。


「おはようございます、元勇者さん」



 金髪の大人のお姉さん。ギルドの案内人のフィーナさんだ。

 フィーナさんは1枚の封筒を両手で持ち、苦笑いを浮かべながら話しかけてくる。


「陽平様、お話したいことがあるのですが……。よろしいでしょうか?」


「まあ、大丈夫ですよ」


 おそらくその封筒のことだろう。とりあえず話を聞いてみよう。


「また陽平さんあてに差出人不明の依頼が来ていまして──」


 あーまたパトラさんだなおそらく。

 が俺を頼っていることを周囲に知られたくないため、対策として差出人を書かず、ギルドへ俺宛に仕事を依頼するということになっていた。


「そ、そうですか……」


「とりあえず日にちは5日後、集合場所は、剣の広場?」


 剣の広場というのは俺が止まっているホテルの目の前の建物だ。先日話をした時、俺達と出会うときはここで出会うように取り決めていたのだ。



 俺はパトラさんかの事情を知っているから驚かないが、フィーナさんはこの取り決めは当然知らない。困惑しているのがわかる。


「とりあえず受け取ってみますよ。それで内容を見て依頼主と会ってみてから決めても遅くはないと思います」


 俺がきっぱりとそういうと、フィーナさんはその依頼書を俺に渡してくる。



 依頼書を取り囲むように俺とルシフェル、セフィラが机に座る。


「じゃあ、あけるよ」


「今度は、どんな依頼かしら……」


「セフィラちゃん、私ドキドキする……」


「確かに、今度はどんな依頼なのでしょうか」


 3人の視線が依頼書に集中する。確かに俺も気になる、そう考え俺は依頼書を恐る恐る手に取り中を開ける。


 そして依頼書に記してある、内容に視線を集中。



 差出人  不明

 仕事内容  恋人、私と交際していただきたいのです

 報酬  当日、差出人により説明



「え──?」


 予想もしなかった内容に言葉を失ってしまう。ど、どういうことだこれは……。



「こ、これは告白よね……。恋人になりたいってことでしょ」


 ルシフェルもさすがにこの内容に驚いているな。

 ローザに至っては顔を赤面させフリーズしてしまっている。


「でも普通、依頼書で書く事じゃないですよね」


 セフィラが首をかしげながら俺に問いかける。当然だ、だが俺達が理解していてもパトラさんが理解しているとは限らない。



「ほら、パトラさん。あまり社交性とかなさそうだし、恋愛に関する知識とかなさそうだし……」


「それでもこれはいくらなんでもおかしいです。依頼書で交際を迫るなんて聞いた言葉ないですよ」


 セフィラはさらに右手を顎に触れながらささやく。俺は異性との交際なんて、都市伝説か虚数の彼方にある夢幻としか考えていない人生だった。


 でも、依頼書で報酬を与えるから付き合ってくれなんて、どう考えてもおかしいのはわかる。


「まあ、とりあえず説明するよ。男女の付き合いについて。知らないの」


 おそらくパトラさんは恋愛についてよく知らないのだろう。

 先日出会った少年兵たちが、倫理観や常識を理解していなかったように──。



 考えてみれば貴族の世界では自由に恋愛をするなんてそうそうできない。家同士のつながりを強くするために政略結婚をしたり、家同士でお見合いをして結婚相手を決めたりしているものな……。



 彼女はそんな世界で生きていてた。おまけに根はいい人なので、恋愛に関して何も知らないまま大人になってしまったのだろう。

 とりあえず伝えるしかない。彼女ならわかってくれるはずだ。



 まずはフィーナさんにこの依頼を受ける意思を伝える。


「では、無理なさらず、気を付けてくださいね──」


 そういって机に戻り、手続きを始めた。




 そして約束の日。



 俺たちが泊まっている場所、その目の前にある剣の広場。そこでパトラさんを待ち合わせしてから改めて部屋に案内。

 俺とパトラさんが部屋にたどり着くと、彼女がルシフェル達に向かって頭を下げ挨拶。


「おはようございます陽平さん」


 心臓が飛び出そうなくらいドキドキする。どうしてもパトラさんのことを異性として意識してしまう。普通にきれいな人だし。


 でも伝えなきゃ、じゃなきゃパトラさんのためにもならない。

 彼女は確かに言葉足らず 根は悪い人じゃない。しっかりと説明すればわかってくれるはずだ。


「まずは先日の依頼書に合った件ですが──」


「はい、大丈夫でしょうか?」


「本当に申し訳ありません。あなたのご気持ちは受け取れません」

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