第9話 元勇者 王女様とホテル探し
(俺が何とかしなきゃ──)
日も暮れ始め夕焼け空になる。
2人で街を歩く事30分ほど、にぎやかな繁華街を抜け官庁街にたどり着く。
王国の行政機能が集中している地区、その中に目的の場所はあった。
「ここみたいね、陽君」
「そうだね、エルネスト」
辿り着いたのはこの街でも広くて大きい建物、歴史を感じさせる印象があるホテルだ。
そしてホテルに入り、俺たちが泊まれるかどうかを聞いてみるが──。
「満員??」
フロントの人がそう言葉を返す。
何でも地方の治安が悪化し難民達が王都に流入、その影響でどのホテルも混雑が続いているとのこと。
「そうですか、すいません。」
「いえいえ、こちらこそ……」
ルシフェルがいえいえと手を振る。フロントの人も申し訳なさそうな表情で頭を下げると、俺達はこの場を後にしした。
「しかし弱ったな、まさかこんなことになっているなんてな──」
腕を組みながら俺はどうすればいいかを考える。さて、ホテル、しらみつぶしに探すしかないか──。
とぼとぼと歩いていると誰かが俺の肩をツンツンと触れてくる。その感触に気付いた俺はすぐに後ろを振り向いた。
「何でしょう、ってさっきの女の子!」
「先ほどはありがとうございます」
ピンク色での髪色、俺の肩小柄な身長。髪と同じピンクの服にミニスカート。さっきキーロフに追い出された少女。そしてもう一人いる。
まずはローザが話しかけてくる。
「あの、ホテルを探しているんですか?」
「まあ、そうだけど何でわかるの?」
「先ほど、ホテルから2人が出ていく姿を見かけてもしかしたらと思ったんです。私たちもホテルを探していましたから。でも空きがあるホテルがなかなか無くて……」
そうなのか、じゃあ俺達と一緒だ。
「じゃあいっしょに探そうか?」
「あ、ありがとうございます。いいホテルが見つかるといいですね!!」
ローザは嬉しそうに舞い上がった後、元気そうに先頭を歩き始める。
するともう一人の少女が、申し訳なさそうな表情で俺にむかって頭を下げた。
「申し訳ありません、私が席をはずしていた時にこのような事になってしまっていて」
黒髪でショートヘア、すらっとしたスレンダーな体型の少女。
「はじめまして、私ローザお嬢様のボディーガードをしておりますセフィラと申します。こんな私ですがよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、後藤陽平って言います。よろしくお願いします」
俺も軽く頭を下げて挨拶。ボディーガードというだけあって礼儀正しい印象。なんとなくだけれど打ち解けられそうだ──。するとローザが俺の右手をギュッとつかんで前に引っ張り始める。
「陽君。ホテル、探そう──。きっとあるはずだよ!!」
「……そうだね、ローザ」
ローザはポジティブなのか、屈託ない笑顔を見せる。まあ、それしかないか──。
そして俺達のホテル探しが再び始まる。
歩いて5分ほどするとホテル発見。その文字を見て俺達は期待の表情を浮かべ始める。
やや早足になり、ホテルへ向かって歩き中へ。
そして、さっきのように同じ質問をする。
「しばらく滞在したいのですが、空いている部屋はありませんですか?」
俺は心の中で手を合わせて祈る。しかし答えは残酷だった。
「申し訳ありません、こちらはここ一週間ほど満室が続いておりまして──」
「そ、そうですか、分かりました。他を当たってみます」
「本当に申し訳ありません。力になれなくて……」
「いえいえ──」
ため息をつきながら俺はホテルの外へ。
「ハァ──。まあ、次を当たりましょう──」
ため息交じりのルシフェルの一言、どこか声のトーンが低い。
3軒目、4軒目へ行っても返ってくる答えは一緒だった。
「空いている部屋はありません」
と──。
そして再び道を歩き始める。俺とルシフェルは疲れているせいかどこか足取りが重い。
会話も途切れがちになる。
そんな中、軽い足取りで先頭を歩くのがローザだった。
歩いているそぶりを見ていても、落ち込んでいたり暗い気持ちになっているような雰囲気はない。
明るい子なんだな──、と思う。
「みんな──、早く探そうよ。日が暮れちゃうよ!!」
まるで俺達を引っ張るような掛け声。前を歩きすぎて人混みではぐれそうだったから、止まったみたいだ。
その言葉に俺は少し掛け足になってついていく。
「ローザ様ならこのくらいのことではめげませんよ」
後ろからセフィラが話しかける。
そう言えば俺はローザの事を知らない。どういう子なんだ?
「王様から見捨てられたんです。元王女候補だったんですよ」
元王女候補様?? そんな身分の高い女の子だったのか?
ってことは裕福な家系に生まれたってことなんだろ
じゃあ何でギルドでクエスト探しなんてしているんだ? 何か問題でもあったのか?
そんな事をセフィラに聞いてみると彼女は眼を横に伏せ始め、うっすらと涙を浮かべながら答え始める。嫌な過去でもあるみたいだな──。
「ええ、事情があって追放令が出されてしまいました。そしてそのせいで周りからも支持を失い行き場所を失ってしまいました。申し訳ありません。ここで話すのもなんなんでホテルに着いたら話しましょう」
「わ、わかった……、今は聞かないでおくよ」
まあ、深刻な事ならこんな人ゴミで話す事でもないしな──。また今度で聞く事にしよう。
「セフィラちゃ──ん、陽平さん、ルシフェルさん。ホテルあったよ、いってみようよ!!」
その言葉に「どうせ」とか、「無理」なんてネガティブな感情は存在しない。どんな時も前を向ける子なんだろう。
そしてローザが指を差した先──。
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